愚者の金すら拾えなかった。 そんな僕がいたからこそ拾ったバームクーヘンとの長い旅
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今年50歳になった男性です。
私が小学校の4年生の頃に、同い年の親戚の子のおじさんの家に、その子にくっついて遊びに行くことになりました。
集合してから、親戚の運転する車で移動です。
夕方に発車し、夜通し移動します。
子供は遠慮なく車の中でぐうぐう寝て、朝になったら、もうそこは奥深い山の中でした。
子供なので、着いたところがどこか、あんまりよくわかっていません。
よく寝ていたので、とても元気です。
おじさんへの挨拶もそこそこに、早速、親戚の子と一緒に川に遊びにいきました。
おじさんには、先週の台風の影響で、川が荒れているから気をつけるように言われたのですが、川に着いてみると、源流に近いくらいの上流だったこともあり、水はもう落ち着いていました。
今でも若干そうですが、何しろ子供のことなので、普段見慣れないところを歩くだけでも盛り上がります。
それも山の中なら、探検隊の気分で満ち満ちてきます。
上流にずんずん歩いて、何分たったか忘れた頃に現れる滝壺の近くにいくと、荒々しさが普段よりも増しているようで、冷たい空気とともに湿った強い風が吹き、細かな霧とともにバーッと流れてきます。
台風の影響で、上から落ちてきた岩なのでしょうか?
テトラポッドの大きさの岩が、滝壺周辺の岸辺にゴロゴロと転がっていて、削れた表面が荒々しさに拍車をかけています。
危ないからといっても、子供が探検隊気取りになっていたら、まあ岩の上はやっぱり歩きます。
気をつけながら歩いていると、ちょっと先を歩いていた、親戚の子が大声を出して叫んでいます。
「見つけたー」
「金だぁ!!! やったー!!」
え? と思って足場早に近づいてみたら、岩と岩の間に、キラキラ輝く金色のものが挟まっています。
大きさは大人の拳くらい。
表面はゴツゴツしているけれど、どうみても金色です。
金なんて、金メッキの金しか知らなかったけれど、とても綺麗な金色です。
大人だったら、こうした時に、手にしたものを、仲良く分け合うこともあるのかもしれませんが、子供のルールは絶対。
そう、どんな時も、見つけた者の持ち物になります。
金なんて持ってないし、あんまりよくはわかってないけど、大人が夢中になるし、お金になることくらいは知っています。
お宝だ、財宝だ!
金を拾えていいな。
拾い損ねた。
なんで先に歩いてなかったんだろう。
もっとないかな。
と、周りを丹念に見ても、二つ目はどこにも見つからない。
子供ルールは絶対。
だから、本気で悔しかったです。
金はちょっと挟まっていたので、流木を拾ったりして、二人掛かりで外しました。
探検隊だけど、手提げカバンなんかないので、リアルに手で持って、掌にずっしりと来る状態。
途中で泣きたくなるくらい重たい思いをしながら、どうだ、すごいだろー!! と、自慢げにおじさんの家に持ち帰ったら、よく見つけたねーって言ってもらえた。
でも、熱狂するほどには盛り上がらないのが不思議だった。
よくよく訊くと、どうやら金じゃないらしい。
金じゃないなら、一体なんなの? と聞いても、教えてもらえなかった。
大人にも分からないことがあるんだって、このとき知ったような気がする。
仕方ないので、家に帰った後で、学校の図書室で調べてみた。
そうしたら、図鑑に同じ色の石があって、黄鉄鉱と書いてあった。
よくはわからないけど、どうやら金じゃないらしい。
鉄って入っているから、黄色い鉄なんだと、読める文字から判断をした。
すごい残念だけど、金じゃなかった。
でも、見つけた時のあの盛り上がりと、子供ルールのせいで、手にできなかった、あのがっかり感は忘れられない。
それから、しばらくして、上野の博物館に父親に連れて行ってもらった時に、ショーケースの中に、鉱物セットというのが箱に入って売られていた。
そこで石じゃなくて、鉱物っていうんだって知った。
滝壺で金(黄鉄鉱)が手に入らなかったからなのか、かなり欲しそうな顔をしていただんだと思う。
きっと真剣に食い入るように眺めていたんだろう。
父親が嬉しそうに買ってくれた。
親指の爪くらいの大きさのが10個くらい、綺麗に並んで入っていたように思うけど、これが初めての鉱物だった。
黒くてガラスみたいなのから、赤い銅のような砂が固まってできたのや、緑色の孔雀みたいな色のとかが入っていて、世界には、こんなにいろんな鉱物があるなんて、素直に、すごいなと思った。
クワガタやカブト虫なんかも、世界中にカッコイイのがいるのを図鑑で知っているけど、手に入らない。
でも、鉱物はどうやら違って、こうして買うことができるらしい。
手に入るなら、色んな物も見たいし、自分のものにしてみたい。
そう思うと、妙に胸が高鳴った。
ある日、学校の行事の遠足で、川の中流より少し上、上流の下ぐらいの微妙な場所に行ったとき、河原にも石がたくさんあるのを知った。
下流の上のあたりに位置するところに住んでいた私には、土や草よりも石や岩があるのがとても新鮮だった。
河原をよく見ると、似た石がゴロゴロしていて、川の中で転がってきたのがわかるくらい、石の角が丸く削れていた。
ほとんど同じ石ばかりだったが、あるところで、妙な石を見つけた。
水に浸かった状態のその石が、どうしても気になって、掬い上げて手に取って見た。
白っぽい地肌に、赤っぽい地層が挟まっていて、まるでバームクーヘンのように幾層にも重なりあっている石だった。
もしかしたら柔らかいのかと思って触っても、結構固く。
大きさは拳二つくらいで、そこそこの重さはある。
ガチガチかというと、そこまでではない、堆積岩になる途中みたいな、微妙な感じの石だった。
バームクーヘンなら、層が重なって綺麗な年輪ができるが、この石は年輪が途中で別れて、再びくっついている。
どうやってそうなったのか、全くわからないが、複雑な絡み方をしていた。
お弁当を食べて、水筒の中身を全部飲んで、軽くできることを全部したとしても、この石のがずっと重かった。
だが、気になってしまったものは仕方がない。
勝手に持って行っていいのか、全くわからなかったが、きっと、長い川をゴロゴロと下っているうちに、角がもっと取れて、いつかは消えちゃうんだろうなと思った。
なので、こっそり家に来てもらうことにした。
見れば見るほど、どうやってそうなったのか不思議でならない。
子供の頃に想像して、ダメだなって諦めて、いつか大人になって謎解きをもう一度してみようと未来の自分に託してみた。
実は、今がその未来の一つなんだけれども、相変わらず謎が解けない。
時間があるときに、じっと見て、ぐるぐる回して、積み重なった時代のことを考える。
どうやって、積まれたのかを、あれやこれやと想像をする。
考えれば考えるほど謎が深まる。
黄鉄鉱は、別名を「愚者の金」というらしい。
僕のバームクーヘンには、そんな名前もついていないけれど、謎が解けるまでは、ずっと想像する楽しみがある。
それを僕は拾った。
石は、やっぱり、なんか楽しい
***
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