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「子供をなめちゃいけないよ!」と言いたかった10歳のわたし


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記事:青子(ライティングゼミ)

 

小学校低学年時代の担任は、信代先生と言う名の女性だった。
背が低く、ちょっと太め。
白髪混じりの髪には、巻きのきついパーマをかけていて、分厚い眼鏡の奥から、じっと一点を覗き込むような表情が印象的だった。
おそらく校長先生の次に高齢なのではと想定されるベテラン先生だった。

とはいっても、たぶん50代前半だったのではないかと思うし、活力があって若々しかったはずだが、10歳の私から見たら、充分におばあちゃん的な存在だった。

 

しかも見た目に怖い印象があったので、担任に決まった時は、あーあという気持ちだった。
でも、授業は熱意に満ちていて頼りになる先生だということが分かり、私は信代先生のことがどんどん好きになった。
何より信代先生には、他の先生にはないオリジナルサービスがあった。
たとえば、給食の時には、「梅湯」が配られた。
信代先生は、手作りの梅干しをタッパーにごっそり入れて学校に持ってきて、生徒ひとりにひとつ配ってくれるのだ。
梅干しを入れた器に、熱々のお湯を注ぎ、それをほぐしながら飲む。
ただそれだけのシンプルなものだが、体が芯から温まる。
私はこの梅湯がお気に入りだった。
「毎日1杯、梅湯を飲んでいたら風邪をひきません!」と言う先生の声を今でも覚えている。
さらに、冬になると、みかんも登場した。
信代先生の机の下には、持ち込んだミカン箱が置いてあり、週に1度くらいだったと思うが、焼きミカンをひとりひとりに配ってくれた。
教室のストーブにミカンを並べ、じわじわと焼いていく。
4時間目の授業中から仕込むので、その甘酸っぱい香りをかぎながら、給食の時間が待ち遠しいと思ったものだ。
梅湯も焼きミカンも、小学生にとっては渋いセレクトだ。田舎のおばあちゃんの家に遊びに行かないと出てこないようなメニューは、逆に子供たちを楽しませた。
当時、クラスは42人くらいだっただろうか、その数の梅干しやらみかんやらをポケットマネーでご馳走してくれていたわけで、今思うと、子供達の健康を気遣う気持ちが強かったのだろう。
もっとも今では学校のルール上、このような行動は許されないだろうけれど。

 

当時は、学校生活の大部分を担任の先生に委ねられていることが多く、先生の方針が色濃く出ていたのだと思う、いろんな意味で。
もうひとつ、面白い制度があった。
信代先生オリジナル「よい子手帳」というシステムだ。
新学期の初日にひとりひとりに小さなノートが配られた。その表紙には「よい子手帳」と手書きで題名が書かれている。

学校生活の中で、何か良い事をして、先生が認めてくれると赤くて丸いシールが発行される。そのシールを貼るためのノートが「よい子手帳」だ。
いわばポイント制度なのだ。
もう細かい部分は忘れてしまったが、確か、赤いシールを30枚集めると、ご褒美がもらえるという仕組みだった。
そのご褒美というのは、日曜日に先生の自宅に遊びに行って、先生のお手製のカレーをご馳走になれるというものだった。
そして、反対に、いけないことをすると、青いシールをもらうことになる。
これがマイナス計算になって、赤いシールが溜まっても、青いシールがあると相殺されてしまうのだ。

この「よい子手帳」は、成績ではなくて、生活態度を評価するものだった。
たとえば、率先して掃除に一生懸命に取り組んだら、赤いシールがもらえて、学校に遅刻すると青いシールが配布される、というように、いかに模範的な態度を取るかが評価の分かれ道だった。
まだ幼くて世界の狭い生徒たちは、この「よい子手帳」のシステムを素直に受け入れていた。
大人になって考えると、日曜日に先生の家に行くというのは、そんなに魅力的なことでもないと思うのだが、当時は、そのご褒美がたいそう素敵なことに思えた。
いち早く赤いシールを貯めて先生の家に招待された優等生たちが、月曜日に自慢するからだ。
「先生の家は広くて、みんなでゲームをして遊んで楽しかったー! おいしいカレーを作ってもらったし」
そんな口コミによって、自分も時流に乗らなければと焦る気持ちが芽生え、子供たちはみんな赤いシールを集めようとモチベーションが高まっていく。
ここまで来たら先生の思惑通りだ。

みんなが、先生の考える「よい子」になろうと勝手に努力するからだ。

 

私も表面上はそうだったと思う。赤いシールをもらえた時は、大好きな先生に認めてもらえたという承認欲求が満たされる瞬間でもあった。
でも、一方で、純粋に頑張れない気持ちもあった。
実のところ、心のどこかで冷めていて、反抗心がちらちらと芽生えている自分にも気づいていたのだ。
 

「確かに先生の家に行ってみたい気もするし、先生のカレーも食べてみたいよ。
でもさ、大人の策略にはまってない? 私たち。

授業中は積極的に手を挙げて発言して、学校の規則はしっかり守って、校庭ではニコニコ元気に走り回り、宿題もきちんとやって、子供らしくしてなさいってことだよね。

大人が扱いやすいように、そういう風にふるまって、シールをもらえばいいんでしょ。
大人って単純!」

 

しっかりと言語化はできないものの、どこかでこんなことを考えていた。

皮肉なことに、私は通信簿の行動評価欄には、かなりの頻度で「素直ないい子です」と書かれていた。
しかし内心では、こんなひねくれた反抗心が芽生えていたのだ。

 

むしろ大人になった今のほうが、こんな裏腹な気持ちになることはなくて、素直に生きているんじゃないかと思うほどだ。

 

こんな反抗心が芽生えたのは、おそらくは信代先生の教育スタイルにあったと思う。
信代先生はとても教育熱心ではあったけれど、柔軟性に富むというよりは、型にはめた予定調和の授業を好む先生だった。
信代先生は、生徒ひとりひとりに役回りを決めていくのだ。

 

この子は、優等生で、いつもクラスの取りまとめ役。
この子は、おちゃらけてばかりいるクラスの劣等生役。
この子は、大人しく素直で、その他大勢タイプ。

……といったように、先生の中で「この子はこういう子だ」とキャラクターを一度設定すると、以降、そのキャラ通りに扱われるのだ。

 

たとえば、授業を盛り上げるために生徒に突っ込みを入れる場合は、劣等生役の子と決まっていたり、発表会の時に選ばれるのは、必ず優等生キャラの子で、意表を突く選考はなかった。

その中で、私はといえば、先生から「体が弱い子キャラ」を設定されていた。
10歳くらいまで、気管支が弱く、耳鼻科通いをしていたのだ。

確かに学校を続けて休む日もあって、運が悪いことにちょうどそれが学校行事と重なって目立ったことで、先生の中では、たいそう病弱に映ったのだと思う。

「あなたは体が弱いから」と枕詞のように言われ続けた。

 

でも、私は、「自分は弱くなんかない、決めつけないで」と反発したかった。
「みんなのことも決めつけないで」そう心の中で叫んでいた。

 

この信代先生のやり方は、知らず知らずに生徒たちもそのように友達を見るようになるし、自分のことも言われた通りだと思い込んでしまう危険性をはらんでいた。
優等生キャラでいられれば、自分が優秀でなんでも出来る子という自信に繋がるかもしれないが、反対に劣等生キャラの設定をされたら、自分はダメな子なんだというセルフイメージを作ってしまうかもしれない。

10歳くらいの子供にとっては、学校の先生の言動は、性格形成にも大きな影響を持っているはずだ。短絡的にレッテルを貼ってしまうのは危険な行為だ。
そのことを子供ながらに感じ取って、反発心を芽生えさせていたのだったら、10歳の自分をなかなかやるじゃないか、と褒めてあげたい。
実際に、私は、信代先生から植え付けられた暗示も見事にはねのけ、中学や高校は皆勤賞が取れるほど元気になったし、他の子も中学に入ってから、信代先生のキャラ設定とは全く違う方向に成長していった。

 

おちゃらけキャラに設定され、信代先生のイジラれ役だった男子は、中学生になったらすっかり真面目でおとなしい子になった。
でも、むしろそれが本来の彼の姿だったようで、自然体な様子が伺えた。
もしかしたら、子供たちは素直に「よい子ノート」に取り組んでいるようでいて、大人に合わせてあげていただけだったのかもしれない。
設定されたキャラに合わせて演じていただけだったかもしれない。
信代先生は、どこまで子供たちの気持ちに気付いていたのだろうか。
とても教育熱心な先生だったけれど、子供たちの鋭い感受性には気付こうとしていなかったかもしれない。

 

信代先生は、いろんな意味で私に大きな影響を与えてくれた。
たくさんの優しさももらったし、一方で、反発心や違和感を感じさせてくれる存在だったことで、私の精神的な成長を促してくれたように思う。
やり方のすべてに賛同はできないけれど、今でもこんなに記憶に残っているというのは、それだけ深く関わってくれたからに違いない。

 

 

ちょうど当時、映画「E.T.」がブームになった。
ある時、子供たちがたくさん出てくる映画ということで、子供たちとの付き合い方について監督のスティーブン・スピルバーグがインタビューされていた。

 

「子供たちは実に良く観察しています。だから子ども扱いしたらすぐに嫌われます。成熟した大人だと思って、対等に付き合うほど良い関係が生まれます」

このコメントを読んで、私は共感し、スピルバーグ監督は、私たち子供のことをよくわかっている人だ、と思った。
 

子供は大人が思っているよりもさまざまなことを深く理解しているし、むしろ大人社会に合わせてあげることが出来るほど順応力がある。
大人が望むように子供役を演じることも出来る。
10歳の私はそれを直感的に分かっていたし、周りの大人に伝えたかったのだ。

まぁ、一言でいうと「子供をなめちゃいけないよ!」ということだ。

 

 

 

あれから時が経ち、逆に今度は大人の立場になった。
子供たちには、周りの大人にレッテルを貼られることなく、のびのびと本来の自分らしさの中でくつろいでほしい。
大人の希望に合わせるような良い子を演じさせたくない。
そのために私ができることは、10歳の頃に自分が抱いていた感情を忘れないでいることかな、と思っている。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-09-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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