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理想の“彼”探しに終止符を打てるのは、いったいいつ? リターンズ


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記事:松浦美穂(ライティングゼミ)

 

 

ポストを開けて、その中の何もかもを鷲掴みにして部屋に入る。手の中の紙の束をリビングのテーブルに放ると、仕訳するまでもなく、真っ黄色な封筒が目に飛び込んできた。送り主を見ると、「空間」とある。

 

「空間」? 「空間」って何だ? 誰だ?

心あたりがまったくない、その「空間」から送られた封筒を開けてみる。便せんが一枚。そこに書かれている文章を読む。

 

 

あの男が、あの男が帰ってきた。私を残し、パリに旅立ったあの男が!

 

タッキー。

 

長い長い放浪の末、やっと出会えたと思った間もなく、隣町にでも出かけるように、軽やかにパリに去ったヤツ、タッキー。

 

美容師がパリやロンドンに行き、かの地のサロンで働くというのは、プロ野球選手がアメリカに渡って大リーブに入ることと、同じ意味を持つのだろうか。タッキーもパリ行きを熱望していた。

まあ、それは仕方ない。仕方がないが、タッキーがパリに行ってしまった後、私は美容師探しを再びせざるを得なくなっていた。

 

女性ならわかると思うが、自分にフィットする美容師を探すのは、実はとてつもなく難しい。カットワークが上手い下手、センス、提案力など技術的なことのほかに、相性とでもいうか、話し方、接し方、雰囲気など、髪を任せるというのは一対一で向かい合う作業になるからか、微妙なところで判断してしまう。

美容師が結婚していることがわかっただけで「なんだかなあ」なんて思うときもある。私だけか。

 

というわけで、タッキーがいなくなってから、私は地元のサロンで「まあ、こんな感じか」ぐらいのところで髪をおさめていた。

考えてみたら、タッキーが格別ステキにしてくれたかというと、打率は5割ぐらいだったように思う。野球ならとんでもない高打率だろうが、ヘアスタイリングではどうなんだ? 10割じゃないとダメなんじゃないか?

それでもタッキーの店に行ってしまったのは、タッキーのキャラクターに寄るものが大きかったのだろう。

 

タッキーがパリに行って一カ月ほど経ったとき、タッキーからハガキが届いた。パリの店の簡単なマップが描かれており、「近くにお越しの際は、ぜひ、お立ち寄りください」とあった。パリまでの距離が、埼玉ぐらいのノリだ。

「立ち寄るか!」とハガキに突っ込んだ。

タッキーはどこまでも軽やかだった。

 

あれから2年。

なんと、タッキーは日本に戻り、東京の代々木上原に店を構えることになったと真っ黄色の封筒を送ってきた。

しかも、店名が「空間」。ヘアサロンにつける名前か?

 

まったく……。

 

まったく……。と、思いつつ、興味が抑えられない。

いったい、どんな感じになって帰ってきたんだろう。

2週間ほど逡巡したあげく、HPから予約を入れた。

 

その日。

サロンの重いドアを開けた瞬間、私はぶったまげた。

コンクリート打ちっぱなしの何もない、まさに「空間」がそこに広がっていた。畳にすれば、たぶん80畳ぐらいはある。

入口で固まっていると、コンクリートの壁に据え付けられた姿鏡に、ニッと笑いながら立っているタッキーが映っているのが見えた。

 

「どうも」。

「どうも」。

2年ぶりとは思えない挨拶を交わした。

 

大空間の隅にイスが一台、鏡が一枚。

部屋をぐるりと眺め渡す。

「だから、空間かあ。って、空間、あり過ぎでしょ」

「いやあ、サロンだけやるんじゃないんですよぉ」

「え、何やるの」

「ギャラリーとか、ちょっとしたコンサートとかやれたらいいな、と思って」

「じゃ、そういうときはサロンは閉めるの?」

「いいえ、やります」

「え、ここでチョキチョキしている隣で、ギター弾いている人がいて、その客がいる感じ?」

「そういう感じですねえ」

「ヒエー、マジかいな」

 

うーむ。斬新なコンセプトだ。

しかし、なぜそういうこと、したいかなあ。

 

「山登りしている感じですねえ」

「山登り?」

「一つ登りきったら、もっと難しい山に登ってみたいっていうか」

 

タッキーは吉祥寺と西荻窪にもすでにサロンを持っている。そこでやりたいことは、やってしまったらしい。

 

パリはどうだったのか。

 

「向こうの人に言われたんです。『日本人は頭の形が悪いし、毛も太くて硬くてストレート。その欠点をカバーするために、カット技術もパーマ技術も発達している。パリに来て、何を学ぶの?』って」

 

欧米人の髪は細いがハリ・ツヤがあり、頭も小さく形が良いので、何をどうやってもキレイに仕上がる。美容師としては美しさを追求できてやりがいがあるが、しかし、一生住むのでないならば、もはやこれまで。

 

タッキーはパリを引き上げた。

 

「まあ、北海道の質の良いパウダースノーでスキーをすると、すごく滑りやすいので、自分が上手だと勘違いしてしまうってのと同じで」

 

わかるような、わからないようなたとえ話だ。

 

しかし、だからといって、突然、空間って……。

 

「できれば、ここで彫刻とかしてほしいんですよね。僕がヘアカットするのと同時進行で。コンセプトが同じだから面白いと思うんですよねえ」

「それってさあ、もはやパフォーマンスだよね」

 

面白い。面白いが、タッキー、どこに行っちゃうんだ?

 

「今日はやってみたいスタイルがあるんですよ。前髪、切っていいですか」

「いいよ」

 

タッキーはコームで私の前髪をすくい上げると、眉の上、下と行き来させ、長さを確認する。

「パッツン、どうですか?」

「パッツンかあ、20代の頃は市松人形みたいにしたけどなあ」

「似合うと思うんですよ」

「わかった、じゃ、任せるわ」

パッツンとは、前髪を真っすぐに切りそろえることである。私の歳で、これをやるのはなかなか勇気がいる。

かつてモテ髪をせがんで、タッキーに引かれたが、しかし、今回はモテ髪よりパリ帰りのセンスに興味がそそられた。

 

前髪にハサミが入る。

 

「え」と思ったが、言葉を出す間はなかった。

前髪は高い位置で盛大に切られた。

コトは3分ぐらいで終わった。

鏡の中には、これまで見たことのない自分が映っている。

 

パリ仕込みって、つまり、

 

顔のデカいアメリじゃん!

 

いいんだか悪いんだか、わからない。

少なくても無難ではない。モードって言っていいのか。

いや、そう言い切るしかないだろう。

 

GOと言ったのは私だ。これでOKを出すしかない。

言葉が見つからず、なぜか「荻窪の実家からここまで通ってるの?」と世間話が口をついて出た。

 

「いえ、今は駒場東大前です」

「ああ、一人暮らしを始めたんだぁ」

「いえ、結婚したんです」

 

エー!

 

「そんなに驚かなくたって」

 

奥さんって、どんな人?

 

「はあ、あの……」

 

 

「フランス人なんです」

 

エー!!

 

「来月子どもが産まれるんです」

 

エー!!!

 

タッキーがパリから持ち帰ったものは、技術と知識だけではなかった。

 

別に失恋したわけではない。

失恋したわけではないが、

 

かつて、男性美容師とは相対することはセクシャルだ、と思い込み、さまざまな美容院、美容師を渡り歩いた。その終着点がタッキーだったが、意外にもタッキーは、私が考えているところのセクシャルからは程遠い人だった。

それで、まったく良かったはずなのに。

 

私の中で、男性美容師と何かしら繋がろうとする部分は消え去っていないようだ。

 

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-09-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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