3回ノックで開いた扉
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記事:SoLさま(ライティング・ゼミ)
「土日は何をしてるんですか」
1回目のノックは同じ部署の女性でした。
ぎくっ!
平静を装いながら、私は内心びくびくしていました。
どう言えば自然だろうか。むしろ、なぜ今更こんなことを聞かれるのだろう。新人という訳でもない、部署移動してきた訳でもない。彼女とは2年は同じ部署にいる。なのに、なぜ今更歓迎会の席での恒例の質問を私は受けているんだろう。
様々な疑問が頭を高速で過ぎ去りますが、私はいずれの問いかけも無視して、最初の質問に答えました。
「引きこもりですかねー、私、休みは家を出ないので」
嘘ではない。用事が無ければ、本当に丸一日部屋を出ない。なぜ、休みの日まで人間に会わないといけないんだ、という厭世的な発言もしばしばするので、特におかしな回答ではないはずだ。
そう自分に言い聞かせます。
「引きこもって何をしてるんですか?」
ぎくぎくっ!
待て待て、確かにもっともな質問、仰る通りです。引きこもっても部屋で何かやるだろう。その通りでございます。
「○○(私)さんって、土日何をしてるのか謎なんですよねー」
そりゃあね、今まで言ってこなかったからね!
そんな言葉を飲み込みます。
先に言ってしまいますと、答えはそこまで隠すようなものではありません。種明かしをしてしまえば、皆さん興をそがれること請け合いです。
けれど、けれど、……
皆さんにもあるでしょう。馬鹿らしいことだと思いつつ、隠しておきたい秘密の1つや2つ! さあ、思い浮かべてみてください。それを解き明かそうとノックされている自分を! そんな時、あたなはどうしますか?
その時の私は、
とりあえず、笑ってごまかしておきました。
セーフです、セーフ。
あー、本読むの趣味ですもんね、と相手は自己完結して下さいました。
読書家というイメージを作っておいた過去の私、グッジョブ。
確かに少し前までは多少は本を読んでいました。読書家と言うと鼻で笑われるレベルで恐縮ですが、週1冊は読んでいたと思います。
ですが、今は月に1~2冊というところでしょうか。流石に毎週引きこもって本を読んでいるだなんて口が裂けても言えません。
かと言って、傍から見れば、私は無趣味も無趣味、一体何を楽しみに生きているんだと何度言われたことでしょうか。
食事には大して興味が無いので外食もほとんどせず、服やアクセサリーに食指が動くということもないので、ショッピングとも無縁、旅行は面倒くさいと言い張り、じゃあ、何が楽しいんだよ! と言われると、確かにその通りです。
あの秘密が秘密である限りは――
2回目のノックは、数日後。お酒の席での上司でした。
「休みの日は何してるの」
来た、なぜだ、あなたとは何年の付き合いだと……これまでそんなこと聞いてきた事なんてなかったじゃないですか。そううなだれても仕方がありません。答えない訳にはいかないのです。
読書を……なんて言い訳は通じません。明らかに本を読んでいない無教養がばれています。
どうしたものか……
秘密をばらすのは嫌だ。けれど、嘘をつくのも嫌だ。
ならば、嘘ではないことを言えば良いのだ!
「ふて寝を」
そう言うと、なぜか爆笑されました。
単純に寝ているではなく、ふて寝というニュアンスがツボにハマったようです。
しかし、取りあえず、笑いの渦で質問はうやむやになりました。
狙ってはいないけれど、よくやった私。
そうしてまた私の珍妙発言録に一行加わる事になるのでした――
そこで終わってくれれば良いものを。
こいつは変な奴なんだと思ってくれれば、もう聞かれることもないはずだ。何かよくわからない黒魔術に傾倒して、煮えたぎった紫の液体の入った鍋をかき混ぜながら、ケケケッと高笑いしている図を想像されようが構いはしない。
そう思っていたのに、3回目のノックをしたのは、独立したOBさんでした。
いつもはいないその方は、私の変人録など知りはせず、偶然にもあいていた私の隣の席で仕事をしながら雑談を仕掛けてきます。
雑談の定番なんて決まっています。
出身はどこか、理系か文系か、仕事は何をしているのか、1人暮らし? 実家? 等々。
そして、ついに3回目のノックが響きます。
「趣味は何?」
趣味ですよ、趣味。状態でなく、活動です。
ふて寝なんて言えません。
読書なんですと言って、どの作家が好きなの? と聞かれては答えられません。
笑ってごまかしてみました。
「なんでそんなに嫌がるの」
ダメだ、終わった。
その時ほど自身のコミュニケーション能力の低さを呪った事はありません。
もう少し処世術に優れていれば、ごまかしも上手かったでしょうに、まともに会話を続けることだけでも必死だった私はとうとう扉を開いてしまいます。
「……ドラマCDを聴くのが趣味で……」
それが、私のブラックボックスの中身です。
ほら、大したことはなかったでしょう。けれど、私が知り合いにこのブラックボックスを開いた回数は片手で数えられる程しかなかったのです。
私の趣味はドラマCDを聴くことです。
ラジオドラマ、サウンドドラマ、オーディオドラマ等々言い方は様々あります。
なぜ隠して来たかと言えば、大きくは2つ。
1つ目は、私が主に聴いているのは同人、一般の方が趣味で作っている作品なので、以前、素人作品の何が面白いんだとバカにされたことがあるからです。
そして、2つ目はその傾倒っぷりに引かれたことがあるから。
私はブログに聴いた作品をメモしているので、記事数イコール聴いた作品数になります。
この2年ちょっとで記事数は500は超え、ブログにメモする前にも300程は聴いていました。そして、メモしきれなかったものも多数。
その数を友人に言うと、お前ほど趣味に入れ込んでる人間も珍しいわと言われる始末。
好きなんだから良いじゃないか! と叫びたいですが、自身の欲を満たすだけで、このマイナーなジャンルを誰かと語ることも、作った誰かに還元することもないことを後ろ暗く思っていたことも確かです。
他者かすれば大したカミングアウトではなかったので、私の葛藤に反して相手の反応はドライなものです。ふーんとすぐに別の話題に移ります。
助かったような、寂しいような……
しかし、その方は別の扉も開いて行ったのです。
「もっとライティングが上手くなりたくて」
建前は仕事の為でした。
オウンドメディアに関わることになった私にはライティングは必須のスキルでした。
けれど、本音を言えば、自分の好きなもののことを伝えられるようになりたかったのです。
そんな私に彼は言いました。
「あー、それなら、本屋なんだけどさ、講座とか色々変わったことしてるところがあって――『天狼院』って言うんだけど……」
3つ目のノックで開かれたのは、私の秘密を隠すブラックボックスだけではなかったようです。
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