聞きたくなかった、あのノックの音がする
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記事:小矢さま(ライティング・ゼミ)
「あと、3週間で死ぬとしたら、何したい?」
久しぶりに会った友人が、コーヒーを飲みながら唐突に言った。
え? ちょっと待ってよ。突然そんなこと言われても……。
私は固まって、すぐに返事ができなかった。
そうなのだ。ただ日々やることに追われ、
本当にやるべきことを、私はまだ何一つやっていない気がする。
言い訳はごまんとある。時間がない。雑用がたくさんある。パソコンが壊れた。仕事がたまっている。虚弱体質だ。才能がない……。
いや、それすら嘘だ。
もし3週間で死ぬなら、今失うのを怖がっているものなんて、どうでもよくなるはずだ。正しいことを言わなくちゃ、人になんて思われるかしら? そんな心配もバカらしい。自意識過剰にも程がある。でも、相変わらず動こうとしない自分もいる。本当に情けない。
「死」が目の前に来なければ、本気になれないのは人間の性か。
この命題は、映画でも小説でも何度も取り上げられている。
普遍的な悩みなのだ。
例えば、昨年見た映画「ラスト・ホリディ」は、そんな物語だった。
ストーリーは単純明快。
デパートの調理器具売場で働く、太めで平凡な黒人女性ジョージア。まじめに働いているが、上司からは評価されず低賃金だ。でも失業したくないので、何も言えず小さく生きている。
そんな彼女はいつかやりたい「夢のスクラップブック」をのぞいては、ため息ばかり。
でも、ひょんなことから病院で検査を受け、余命3週間と告げられるところから話は急展開する。
どうせ死ぬなら、最期の3週間を思いっきり生きようと、ようやく決意できたのだ。
「これから殻を破るわ!」
ジョージアは銀行から、老後のために貯めていた全財産をおろし、ヨーロッパの高級リゾート地へ旅立つ。やりたいことを全部して、贅沢もして、言いたいことを言い、心のままに行動すると決意したジョージアは別人のように輝きだす。(この変化、役者がうまい!)
そして、彼女に触れた人々は彼女の魅力にはまり、いつしか彼らの人生も変わっていくのだ。もちろん最後にオチが待っている。
「死」という極限状況までいかないと、「思考の制限」がとれない人間心理がよく描かれている。観客は主人公に自分を重ね、自分の人生を振りかえらざるを得ない。
よくできたコメディだった。
映画だけじゃない。
リアルな世界にもごろごろそんな話は落ちている。
知り合いのA君も同じような過程を経て、新しい人生を始めた一人だ。
A君は、若くして会社を興し、毎日精力的に働いていた。
仕事のことしか考えていなかった。
ストレスを感じていても、それは当たり前だと無視していたのだ。
あるとき、身体の不調を訴えて病院へ検査に行くことから、人生が急展開したそうだ。
医者から言われた言葉に、A君は耳を疑った。
癌の疑いがあるというのだ。
さらに詳細な検査をするという。結果が出るのは3週間後。
その3週間のA君の心情は察するに余りある。
死刑判決を受けるような気分だったそうだ。
彼は、狂人のように、人生の棚卸を始めた。
どこで、ボタンの掛け違いをしたのか、
とことん、とことん考え抜いたそうだ。
こんなことになる前に、なぜやりたいことをやらなかったのか。
すべて老後にやろうととっておいたのだ。
でも、老後なんて永久にこないかもしれない。
家族や子どもと過ごす時間も惜しんで働いていたのに。
自分は、本当は、何をしたかったのか!?
どうして? どうして? どうして?
ついに、彼は、会社を他人に売ることにした。
奥さんと子ども、家族3人で世界をまわり、
最終的にはハワイへ移住しようと決意したのだ。
老後にやろうと思っていた夢を前倒しすることに決めたとたん、
ようやく彼は穏やかな気持ちになった。
3週間後、病院へ検査結果を聞きに行く。
「癌ではありませんでした!」
医師から告げられた言葉に、A君はその場で腰を抜かしたそうだ。
まだ死なないとわかっても、
A君は計画を変更しようとしなかった。
会社を売って、財産を整理して、家族と旅立った。
先の保証はなくても、本当にやりたいことをやる。
その気持ちが揺らぐことはなかった。
今、彼はハワイにいる。
子どもと奥さんと、ハワイの生活を心からエンジョイしていて、
いつも、本当にやりたいことは何かを自分に問うている。
近ごろ、新しいビジネスを始めようと思っているそうだ。
自分は平凡だと思い、コツコツまじめに働いていたジョージア。
会社をつぶさないように、会社のことだけ考えて生きてきたA君。
国籍、性別、仕事、何もかも違うが、
死を目前にした彼らの行動は驚くほど同じだ。
それにしても、
病気にならないと健康の大切さがわからない。
全財産を失わないと本気でやりたいことをやらない。
愛する人を失わないと、本当にその人の有り難さがわからない。
ギリギリにならないと動かない自分がいる。
「できるわけがない」
「リスクが大きすぎる」
「否定される」
「見捨てられる」
「前例がない」
「何もわからない」
頭の中に、こんな無駄な制限がたくさんある。
怖い、怖い、怖い!
そして、あとは「死」を待つのみ。
ああ、適切な時に自分の力で殻を破りたい。
だから、今「狂人」のように、集中して書いてみる。
多分、扉はすでにノックされ始めている。
コンコン、そろそろ私の声を聴いてください。
コンコン、そろそろ本音を感じてみてください。
コンコン、そろそろ……。
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