メディアグランプリ

言いたかったのは、秘伝のタレ


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記事:たくみさま(ライティング・ゼミ)

 最初の最初、まだ始まってもいないキック・オフを聞きながら、私は心が震えたのを確かに感じていた。

 福岡天神にある、ちょっとおかしな本屋さん。
 そこには、プロによるライティング講座が開かれる。

 私が『そこ』を知ったのは、飲み会での帰り道でのことだった。

 飲み会の帰り、知人の車に乗せてもらえることになり、コインパーキングまで歩いて向かっていたら、丁度その前を通りがかりついでに教えられたのだ。正直その時見たお店の外観を覚えてない。近くにあるなにやらお洒落なお店の前にぶら下がったハンモックしか覚えてなかった。

 知人曰く、

 本屋さんで、カフェをしていて、時には絵本の読み聞かせがあり、または演劇をし、かと思えば人が集まって本を読むetc……こうして一文にすると、まあなんとも忙しない本屋だ。

「あとは文章の書き方とか教えたり……あら、貴女にぴったりじゃない」

 ……おっふ

 べつに意味ある単語じゃないけどね、この時の正直な心境コレ(↑)

 正直言おう、あんまり乗り気じゃなかった。だって勉強は好きじゃない。
 私の貧困な想像力と知識でイメージではあれ、
 『ゼミ?? 主語が述語が動詞が?? 起承転結、ココに描写挟むとフカミデルヨー???』
 こんな感じ。

 好きこそ物の上手なれ。世に出る有名作家や著者は、大体それ。だって、そういうのって、書くことが好きで書き続けてきた人がうまくなるんでしょう?あと才能だとか向き不向き、そして幸運。
 私は『書く人』になりたいけれど、毎日の極僅かな時間でも文字を打ち込んむような情熱が無ければ、書き上げようという気概も無い。夢というにもおこがましく、だからと言って、捨てにくいからずっと持っている。そんなものだった。

 ああ、でも、同じ趣味とか持つ人と交流持てるのは良いかもしれない。色々催しものもあるみたいだし。
 そんな感じで気分を上に向けつつ、習ったところで……というのが頭の隅にあったまま。後日、ラインで届けられた、ライティング講座のキック・オフ会についての案内を眺めてた。
 『人生を変える』という言葉に、ほのかな期待を抱きつつ。

 結果的に、その知人には多大なる感謝と感謝と感謝を捧げ、ほんの少しの罪悪感を胸に秘めることになる。いやほんと、最初実は乗り気じゃなかったんですごめんなさい。(これ、万一読まれたらどうしよう)

 心が震えた。いっそ泣きそうだった。いや、吐きたかったのかもしれない。

 キック・オフ。つまり始まり。まだなんも習っちゃいない。なににそんな震えているのか、興奮しているのか解らない。ただ吐き気をこらえて心中唸った。

「 い い か ら そ の 秘 訣 を 教 え ろ ぉ お !!!!!」

(汚い言葉だが心の中の言葉なのでこの記事を読み添削するでしょう先生は空より広く海より深い心でもって赦してくれるだろうとあえてリアルで正直な心中を書いた所存であります申しわけございません)

 一体どこからこうなってたっけ。
 たしか『起承転結は考えるな』辺りからこんなんだった気がする。その辺りから吐き気のような興奮があった。

 くっそ、なんでこんな話がうまいんだ。え、この話に引き込んでくるコレも『ソレ』に則ってんの?? いいからはよ教えてくれぇええええええ!!

 もう、喉から手が出るほど欲しがった。何をって??なにってそら、

 『秘伝のタレ』

 プロが云十年かけて磨いて煮詰め続けてきた、劇物です。

 キック・オフ会に鼻息荒く参加していたくせに、申し込んだのは講座が始まる二日前だった。

 ちょっとしがないフリーターの身には月1万は堪えた。だって1万円。月2回の講座で1万円。小学生の頃通っていた公文は月4千円だった。しかも週2。
 いやだって『秘伝のタレ』だよ?? 『人生を変えるライティング・ゼミ』だよ?? もっと高くてもいい様な、むしろ売ってるのがあれだからね?? 本来売るような奴じゃないんだよ?? そう考えたら安い。解る。超解る。売ってくれてありがとうございます。

 だけど1万円。
 支払方法がペイパルなのもためらう理由だった。普段クレジットを使わない人間はこういうときに戸惑う。

 だからちょっと相談した。親に。脳内でゼミに参加することは決定事項だったのだけど、まあ先生も、「家帰って相談した方が良いよ」って終わりがけ言っていたからというのもある。相談というより報告。結局は単に踏ん切りをつきたかっただけなので。

 「自分で言うのもアレだけど、人をノせて盛り上げるの上手いから」

 でしょうね。
 どうやら秘伝のタレは、対話でも有効のようですよ。先生が詐欺師じゃなくて良かった。

 親の反応は、予想通り。 大 反 対 。

 うん、まあ、自分が興味ない、知らない分野のところは総じて怪しく思えちゃうよね。無料じゃなくて有料だし。特に、うちの親は漫画も小説も読まない。雑誌も買わない。さらに言えばネットも利用しないから、記事を読むこともなければ、見せてもいまいち解らない。

 久方ぶりの口論の末、もとより行かないという選択肢がない私。もう成人済みですからね。反対されようが行くので親が折れた。
 たまには言うこと聞きなさい?? ゴメン、次聞くから許して。

 内心、変な企業だとか詐欺だとか疑ってるのだろうなぁと思いつつ、どう説明すればいいのか解らないからどうしようもない。

 と、諦めていたのだけど、意外な事に解決策はあった。どこに?? ゼミに。

「今日は福岡のライティング・ゼミに、NHKから取材に来てます」

 か……、 カ メ ラ !!

 しかもNHK。
 教育番組とかニュースとかでお馴染みNHK。CMが無いNHK。なんかお堅いイメージあるぞNHK。

 そんなテレビ局から紹介されたら、無条件で信じちゃう!!

 思わぬところで懸念が晴れた。私ってば運が良い。放送日は必ず親に伝えよう。今日の私がノーメイクなところはこの際良い。どうせ一番奥の席だから見られやしない。

 だけどまあ正面向いてキメ顔作ったったぜヒャッホイ!!

 とはいえ。

 そんなの意識せずとも真剣にお話聞いちゃうんですけどね。

 相も変わらずうまいなぁ~。
 記念すべき第1講の内容は、キック・オフ会でも話していたことと、それを掘り下げたもの、あとはワークショップだった。一文であらわすと、少ないように感じるだろうけど。いちいち密度が濃いのだ。
 例えるならば、攻撃性の高い武器というより、実用的で堅い武器。

 どうやら、先生が言うには8回ある講義の中で1番に重要なのは第2講であるらしい。
 とてもとても楽しみなのだけど、何故だかちょっと怖い。

 今回は、以前のキック・オフ会で聴いていたのがあったからか、吐き気のような胸のざわめきは無かった。その代わり、どことなくやる気にあふれた、充実感が満ちている余韻に浸る。はて次回、そのまた次、と重ね続けて、8講目を経た時にはどうなっているのだろう。色々と努力を怠って逃げ癖がついてる自分のことだ、大して変わっても無くば成長もしてないかもしれない。
 もしくは、今回は、今回こそ。

 そんなことを考えていた。

 

 さて、そこで忘れてはならないのがある。嘘。ホントはめちゃくちゃ意識してました。

 大きなカメラ、意識してました。

 前のめりで聴きながら、しっかり視界の端にカメラありました。途中で店長さんが取材を受けにそっ、と別室に移動したのも知ってます。
 けど、後ろから来られるとまあ普通に気づけなかった。のんびり椅子に座ってる場合じゃなかった!!
 話しかけられて振り返ればカメラ。そして綺麗なお姉さん。お姉さん、最初居た?? あのふくよかでメガネでおっとり系と思わしきお姉さんはどこ?? 綺麗なお姉さん素敵だけど、今の私ノーメイクなの。綺麗系より癒し系を求めてる。

「1番前で真剣に講義を聞かれてましたけど、何が一番心に残りましたか?」

 しまったー!! キメ顔が仇になったかっ!!

 心に残ったこと!? みんな等しく心に残ってる!! あえて言うなら先生がホワイトボードに描いてた内村選手かな!! あの丸と棒だけで成立させてたやつ!!
 私、あえなく思考停止。

「わ、ワークショップが楽しかったです、はい……」
 もう逃げたい。ひたすら逃げ出したかった。

 インタビュー、もしかしたらされるかもドキドキ、なんてしていたつい2時間前に戻りたい。そしたらまた講義聴けるよ。お得。

 でも逃げられない。だってめちゃくちゃ優しい微笑み浮かべて私の言葉を待ってるんだもの。聞かれた質問に云々悩んでる間も私の言葉待ってるんだもの。
 この微笑み知ってる。中学時代、とある事情で部活に取材があった時、その時のお姉さんもこんな微笑浮かべてた。多分これインタビューする上でのテクニックなんだろうな。

 嗚呼、頭上にあるモコモコとしたマイクがドモる私の声を拾い上げて吸い取っていく。
 嗚呼、光るレンズがおちつき無く体揺らしている私の様をじっと見てるついで記録してる。
 いくつもある質問は、きっと緊張する相手をいくつもの受け答えをしながら徐々にカメラに慣れてもらい、リラックスさせるためなんだろう。OK、なんとなくだんだん落ちついて来た気がする。ゴメンやっぱ嘘。どのみち碌な答え返せないわ。

 インタビューが終わった時、私は心の底から安堵した。

 万一、億が一でも私のインタビューは使われるなんてこと無いだろうけど。きっといくつもした質問の中で答えれたところをうまいこと切って張って繋げて埋めて。そうしてひとつの番組を作り上げていってるんだろうなぁ……。と、ひとつ学んだ気になった私なのでした。

 ココでひとつ心残りがある。

 帰り道で自転車をこぎながら、コレだけは言えば良かったと心のなかから後悔していた。

 「このライティング・ゼミは、『秘伝のタレ』なんです」

 インタビューで聞かれたことも、それにどう答えたかも覚えてない。もし万一このゼミについて少しでも『軽い』感じに言っていたらどうしよう。

 『秘伝のタレ』は、それはもう胸焼けするほど重いのに。

 

***
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2016-10-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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