メディアグランプリ

山梨に住むのもいいなあと思い始めた理由


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記事:小野勝秋(ライティング・ゼミ)

田舎暮らし希望地域ランキング第1位『山梨県』

「まじか〜っ!」

これは何かの間違いではないのか、山口県とか山形県の誤植ではないのか。それとも誰かが仕組んだやらせ記事なのか。
たぶんそんなことはないのだろうが、そう疑いたくなるほどに、僕にとっては超衝撃的なニュースだった。
あの山梨県が……。
どちらかというと住みたくない都道府県の代表格だと思っていたのだ。

『ふるさと回帰支援センター』というNPO法人が発表した2014年に調査した結果で、たまたまインターネットで別のことを調べている時にこのページに遭遇した。その事実を受け入れ難かった僕は、前年の2013年と翌年の2015年の調査結果を検索してみたのだが、いずれの年もランキング2位に記録されていた。
山梨県は僕が思っていたイメージとは変わってしまっていたのか……。

山梨県は地理上の区分によると北陸3県、東海3県、甲信越3県から成る『中部地方』に分類される。しかし天気予報では関東地方として扱われたり、高校野球などのスポーツ大会では関東大会に出場している。
僕の感覚では関東というと首都圏=都会という感じがするが、そう考えると山梨県が関東に分類されるのは何か違和感がある。山に囲まれて自然は豊かであるが、交通の便はとても悪く、娯楽施設や繁華街などはほとんどなく、どちらかというと田舎の閉鎖的なイメージしかないのが山梨県である。

実際に調べてみると、山梨県民は地元意識が強い傾向があり、それを象徴する『無尽』という地域に根付いた独特の助け合い制度がある。無尽とは特定のメンバーが集まって、月1回程度のペースで宴会を行うのだが、飲食代とは別にお金を出し合って積立て、冠婚葬祭など何か急な入り用があったメンバーが、そのお金を受け取る互助会制度のようなものだ。起源は鎌倉時代に遡るらしい。
地元意識の強さは、言い換えると排他的な意識が強いということになるのだろうか、他県から来た人にとっては、『よそ者』的な扱いを感じ、なかなか馴染めないことがあるようだ。

山梨県内は鉄道が少なく、路線バスも本数が限られるため、自家用車がないと生活には極めて不便な土地である。そのため車の所有は一家に1台ではなく一人1台が当たり前だ。 自動車免許を持っていない人間は、まるで変人のような扱いを受けることがある。

話す言葉はあの甲州弁だ。連ドラ『花子とアン』で全国区になり、甲州弁可愛いとか言われているようであるが、あれはドラマで可愛い人が使うからそう思うのであって、実際に普段の生活の中で聞くと、あれほど乱暴で汚い言葉はないと言われることが多い。

やはりどう考えても、山梨県が移住したい県のナンバーワンになったことは理解しがたい。

東京からのアクセスは意外に近くて、新宿から甲府まで中央線特急で約1時間40分と、その気になれば通勤も可能な距離である。自動車でも中央道を使えば都心から2時間程度で甲府に到着する。在京の人にとっては、ちょっとした日帰り旅行も楽しめるロケーションだ。

観光スポットも多く、世界遺産となった富士山をはじめ、人気リゾート地の清里高原、サントリー南アルプス天然水で有名な白州、渓谷美を誇る昇仙峡、武田信玄ゆかりの武田神社や恵林寺、日蓮宗の総本山である身延山久遠寺、富士山麓に位置する5つの湖の富士五湖、数え上げたらキリがないほどである。

「あれ?」調べてみると、何かいいところばかりが出てくる。そんなはずはないだろ。

甲府盆地を中心にした扇状地では、昔は桑畑として養蚕業が盛んであったが、近年は果実栽培に転用して名産品の桃やブドウだけではなく、すもも、サクランボ、いちご、リンゴなど、今では日本を代表する『フルーツ王国』になっている。

更にグルメな人たちに人気となっているのが高原野菜。八ヶ岳エリアの冷涼な気候を利用して栽培される高原野菜は、そのおいしさには定評があり、地元の高原野菜を使った人気レストランは、いつも観光客で賑わっている。

グルメといえば、B-1グランプリ受賞の『鳥もつ』やアイスにもなった『信玄餅』、伝統の家庭の味を継承する『ほうとう』等々、庶民派グルメも数多い。

さらにさらに、山梨は名水の里とも呼ばれるほど天然ミネラルウォーターが豊富で、平成の名水百選に4箇所も選ばれている。水晶の産地として発展したジュエリー産業が盛んで、宝石や貴金属の研磨技術に優れていて、高品質な山梨ジュエリーは歴史ある伝統産業だ。

これは困った。調べれば調べるほど、山梨の良いところばかりが出て来てしまう。

山梨の人は、山に囲まれて暮らしてきた土地柄からか、確かに社交性の低い人が多いのかもしれない。初対面で話したときは、何か機嫌が悪いのではないかと勘違いするほど、言葉がきつく聞こえてしまうこともある。
しかし、しばらく話しているとわかるのだが、実際はいい人なのだがシャイで甲州弁にコンプレックスを持っていて、初対面の人と話すことが苦手な人が多いのだ。

『無尽』文化にも表れているように、人のことを放っておけない性格で、自分のことを犠牲にしてでも人の世話を優先する人が多い。無関心な都会生活に慣れてしまっていると、最初は驚きと煩わしさを感じるのだが、身内以上に親身になってくれるような出来事は、当たり前のように日常にあふれている。

う〜ん『移住してみたくなる県ランキング第1位』
何の不思議もないではないか!

早いもので上京してから33年が経とうとしている。
そこで暮らしていた頃は、毎日感動もなく食べている物や、毎日なんとなく見ている景観、そして毎日顔をあわせる人たちの本当の良さに気付くことはできなかった。

故郷を離れて、長い年月が経過して、いろいろなことを経験して、そして大人になって、歳をとって、未来の長さが過去の長さよりも短くなってきて、ようやく自分の地元の良さがわかるようになるなんて、我ながらその感性の鈍さにうんざりする。

山梨に帰ってみるのもいいなぁ……。

そんなことを、ぼんやりと考えている秋の雨の夜であった。

 

***
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2016-10-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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