時にはグズでもうまくいく
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記事:村井 武 (ライティング・ゼミ)
「お前のグズは、この先の仕事人生で致命的になるぞ」
社会人1年生のとき、アメリカ人の上司から繰り返して言われたセリフ。
この時「グズ」、「先延ばし」にあたる英語がprocrastination、動詞だとprocrastinateだと知った。
“Don’t you ever procrastinate!” (先延ばしするなって言ってるだろ! すぐやれよ!)
「海兵隊」になぞらえられた外資系企業で、何度言われたことか。仕事というものの意味もよくわからなかった頃、頭でっかちの新人だった私は、目の前の課題について、あれこれ、あれこれ、ごちゃごちゃと頭の中でだけ考え、なかなか手足を動かし、行動に移すことができなくて、上司の目には「何、先延ばししてるんだ」と映ったのだろう。
叱ってくれた上司がいたおかげで、また、自分の仕事のスタイルも変わってきたので、30代から40代の私の仕事スタイルは一転「とにかく速くこなす」ものになった。おそらく周囲からもそんな印象を持たれていたのだと思う。職場では「速い仕事は七難隠す」ともよく言われていた。
To doリストをつくり、その日のノルマを確認し、夕刻までに全部撃ち落とす。残業時間は最小にとどめる。
よっしゃ! 今日もノルマ達成!
To doリストを全部線で消して帰る快感。
職場ではちょうど裁量労働制が導入された時期。仕事が速い同僚がこの制度を分析して「残業を○○時間以内に抑えればアタシの勝ちって思って、毎月会社と勝負してんのよ」と言うのを聞いて、あー自分も会社と勝負しよう、と思った。
時代の空気とも合っていたのかもしれない。仕事を速攻終えていくこと自体に快感を覚えていた。さらに仕事の速度を上げるために速読を習いに行ったりもした。
本屋にはアメリカで出された本の翻訳を中心に「グズをなおすと、いいことだらけ」みたいな本が自己啓発棚にあふれていた。「グズ」はprocrastinationの訳語として使われていた。キャッチーだけれど、ちょっとキツイ。
「そうだよな。あのアメリカ人上司、いいこと言ってくれたよな」と思いつつ、他方で、ただ速いだけでも、遅いだけでもない、自分の体内速度のようなものがあるのも感じ続けていた。自分が心地よい速さ。
組織の中の仕事で、自分ひとりで完結するものなどない。速ければいい、と思っていた時期、自分の前後の工程を担当する人の仕事が遅いと、やけにイライラした。
Don’t procrastinate!
と心の中で叫んだ。
そのうち、社内でも仕事が速い同僚と組んで進める仕事でも、思ったように進行しないことがあるのに気付く。
人の思う速さとは、別の世界に、別の時間軸があるみたいなのだ。仕事が速い人たちと組んで速攻作業を進めても、別の世界の「時」が満ちてこないと、思った結果が実現しない。
時流とか、流行りとか、ビジネストレンドとも違う。
ある夏の夕方、仕事が速い人と一緒に案件を検討していた。予定の時間通り検討は終了。次の工程に回して今日の仕事終わり。
と二人とも思ったのだが、どちらともなく
「なんか、変な気がする」
と言い出した。
「ね、これ、一晩寝かせてみない?」
相手が言った。
「あ、ぼくもそう言おうと思ってた」
スケジュール的には十分余裕がある。理由はわからないのだが、ふたりとも、このタイミングで次の工程に作業を回してしまうことに違和感を感じていた。
「これ、今日は、次に回すのやめよう。明日の朝、もう一度眺めてみよう」
翌朝、顔を合わせるなり二人で同時に言った。
「あれ、あのままじゃダメだよね」
結構致命的な問題を二人して見落としていたのだ。おそらく二人の潜在意識がそれに気づいて、言葉にならない信号を送っていたのだと思う。
先送って、助かった。グズってよかった。
この体験以来、仕事の速度について、自問自答してみることが多くなった。この自問自答は、若いころの頭だけで考えていたのとは、どうも違う。
「これで、いい?」
と自分の潜在意識や、場合によっては、天なのか、あの世なのか、目の前に広がる世界とは別の世界に問いを投げる感覚。
あの夏の夕方の一件のように、問いに対して
「ちがうよ」
と答えが返ってくることもあれば、
「まだだよ」
とコダマが返ることもある。
まだ、その仕事には時が満ちていない、という暗示。
だんだんに、仕事だけでなく、私生活、大げさに言うと人生のあれこれについても、時が満ちているかを問いかけるクセがついていた。
どんなに急いで自分のやれることをやっても、時の利がないときにはうまくいかない。
メールやLINEが公私の生活に入り込んでから、私も含めて世の中の「待つ」ことに対する耐性が明らかになくなっている。みんなつまらないことで生き急いでいる、と言ったら言い過ぎか。
私じしん、表現に気を付けながらも「督促」のメールは結構出して来たし、今も出しているし、嬉しくないが受け取ってもいる。
が、しかし、「この件、いかがでしょうか。○○日までお返事を頂けることになっておりました。お忙しいとは存じますが……」とやるのを、ちょっと堪えて、待ってみる。
祈るような気持ちで待ってみる。
すると、思ったとおりの、あるいは、それを超える結果が、絶妙のタイミングで送られてくることが、やたらと増えたのだ。
スピリチュアルとか、正直たいへんに苦手なので、そういうものとして片づけたくはないのだが、やることをやって、祈って待つと、答えが返って来ることがわかる。
外観だけ見ると、これも「先延ばし」「グズ」に見えるのかもしれない。○速経営といった標語を掲げるスピード命の企業体からしたら、「待つ」はあり得ないのかもしれない。
けれども、「グズ」って、そんなに悪くないよな、と今は思うのだ。
自分の深いところに耳を澄ます時間を待つ。
時が満ちるのを待つ、祈りながら待つ時間の使い方って、アリだと。
時は魔物。速いだけが時に関わる価値ではない。いろんな時間軸とつきあってみてもいいかもしれない。
グズでも、いいこと、時には、あります。
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