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翻訳は愛だ


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記事:三根翼(ライティング・ゼミ)

 

 

「翻訳っていうのは、愛することだから」と先輩は言った。

その時、私にはその言葉が理解できなかった。

 

その頃私はIT企業に勤めていたが、「アメリカに留学していたから」という理由だけで医療システムに関する英訳を会社から任されて途方に暮れていた。そんな時期、クリスチャンの信仰と職業との関わりについて、ふっと先輩から口に出たのが、この「翻訳っていうのは、愛することだから」という言葉だった。

 

その時の私には、どうもその言葉がこじつけにしか感じられなかった。およそあらゆる仕事は愛だ、というのならまだわかる。相手のためを思い、相手にサービスを提供すれば、報酬が得られる。あらゆる企業は消費者に愛されなければならない。そういうことならまだわかる。でも、なぜ先輩は、翻訳のことだけを特に取り上げて「愛」という言葉で表現するのだろうか。クリスチャンであることと自らの職業を無理にこじつけているだけではないか。当時はそう思っていた。

 

それから何年経っただろう?

いろいろなきっかけを通して、私はIT企業を辞めて翻訳の道を進むことになった。これまでの人生にあったできごとを振り返る中で、今では少しだけ先輩の気持ちがわかるようになった。

 

私がアメリカに留学していた時、学食であるおばあちゃんが隣に座ってきて、少し深刻そうな顔で尋ねてきた。

「日本語には複数形がないってきいたけど、ほんとなの?」

「もちろん。逆にどうして複数形が必要なの?」

私は聞き返した。日本語に複数形がなくて何か困ったことは、少なくとも自分の人生の中ではまったくない。逆に私は困ってばっかりだ。冠詞だの単数だの複数だのを間違えるだけで論文が減点されてしまう。それに複数といっても、2つの時もあれば100の時もある。だから複数形にしたところで、駐車場にいくつ車があるかなんてわからないし、そういったことを説明したければ後で説明を加えればいい。「車が10台あるよ、駐車場は混んでるよ」といったことを伝えることは日本語でもできる。でも、とりあえずは「車がある」と言えば、単数か複数かを説明しなくても日本語としては成立する。そう説明した。

 

でも、おばあちゃんにはどうしても複数形が必要らしかった。おばあちゃんは困惑しながらさらに尋ねてきた。

「じゃあ、駐車場に車が1台停まっているときと、いくつか停まっているときとをどうやって区別するの?」

「だから、どっちも『car』だよ。区別しないんだ」

こう答えたとき、おばあちゃんは「ああ、わからない、わからない」と、まるでこの世が終わったかのようなそぶりで頭を抱えてしまった。

 

その時私は気付いた。同じ言葉を聞いても、おばあちゃんの頭に浮かぶ像と、私の頭に浮かぶ像は違うんだ。

 

たとえば、空から「水」が降っているという言葉は不自然に聞こえるかもしれない。日本人なら、普通は雨か雪かくらいの区別はつけて表現する。でも、水が降ってくるというだけでも間違ったことは言っていない。もし、雨と雪の区別をつけない言葉を話す人が日本人に向かって「雨も雪も水じゃないか」と言ったとする。

「それはそうだけど……でも雨か雪かがわからないと、頭の中に光景を描くことができないじゃないか」

「でも、雨だってザアザアとたくさん降ることもあれば、パラパラとしか降らないこともある。雪だって水っぽい雪から粉雪まであるじゃない? なのにどうして雨と雪っていう言葉だけで区別しようとするの? どっちも『水』でいいじゃない」

そう言われればそうだろう、でもそれは言葉として不自然だし、「水」の一言だけでは頭に像が浮かんでこない。ただ、雨だとか雪だとか聞けばそれでわかった気になるのも確かにおかしい。でも、どこまでわかりたいのか。結局、短い言葉を聞いて写真のような正確さでものを描くことはできない。どこまでわかりたいと思うのか、どこかで折り合いを付けるしかない。

 

翻訳のゴールとは、原文を読んだ人の頭に描いた像と同じものが、訳文を読んだ人の頭の中にも作られることだ。もちろんこれは理想の話で、実際はなかなか難しい。まともな翻訳をしたければ、原文を書いた人が何を思い描いてそれを書いたのかを思い巡らす必要がある。そしてそれを、訳文を読む人にどうやって伝えたらいいのだろうかと思い巡らす必要がある。対象に深い関心を持とうとしなければ、翻訳なんてできないのだ。

 

「翻訳っていうのは、愛することだから」といった先輩は、原文を書いた人の思いと訳文を読む人の思いを行ったり来たり、何度も経験してきたのだろう。そして、熱心に思いを伝えてきたから、そうした営みを重ねてきたから、それで「愛」という言葉がふっと出てきたのではないだろうか。そうだ、確かにあらゆるサービスには愛が必要なのかもしれないが、翻訳に求められる愛はとりわけ深いものなのだ。

 

***
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2016-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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