警備員のおじさんからのスルーパス
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記事:NMR(ライティング・ゼミ)
朝の通勤で使っている地下鉄駅の改札を出たところに、交通誘導の警備員さんが立っている。
駅の利用客が多いために、朝の時間帯だけ片側通行になる通路の案内をする役目だ。
通路の脇に立って、改札から出てくる客とこれから改札に入る客の動線をさばいている。
立っている警備員さんは毎日1人。3〜4人がローテーションで勤務にあたっているようだ。
毎日同じ駅を使っていると、さすがになんとなくその顔ぶれがわかってくる。
その中の1人に初老の警備員さんがいる。見たところ70歳も近いだろうか。
年齢の割にがっしりとした体格で、とても元気そうなおじさんだ。
そのおじさんが他の警備員さんと違うところが、来る人来る人に挨拶の声をかけていることだ。
他の警備員さんは基本的に立っているだけ。一方通行の道を外れて歩いている人を見かけた時に注意を促す程度である。
しかし、そのおじさんはみんなに挨拶をしている。多分、挨拶は業務内容に含まれていないはずなのにだ。
「おはようございます! 行ってらっしゃいませ〜!」と、かなり声が大きく、よく響く声である。
通勤客のほとんどはそれに受け答えすることなく素通りしている。我関せずといった具合だ。
僕も始めはそのおじさんを遠巻きに見るだけで素通りしていた。
だが、一生懸命に声をかけているのを見て素通りするのもなんだかなあと思い、ある日、そのおじさんの前を通る時に軽くお辞儀をしてみた。
すると、おじさんはとても嬉しそうに「行ってらっしゃいませ!」と、いつもより大きな声で挨拶を返してくれた。
その時に気づいたのだが、そのおじさんは必ず通る人の顔を見ながら声をかけているのだった。
返事がないのに、しっかり顔を見て挨拶をし続けることは、なかなかできないことだと思う。
それから僕は、そのおじさんに会うと顔を合わせて「おはようございます」と挨拶をするようになった。
おじさんは多分だけど、こちらのことを認識してくれたようで、毎回笑顔で挨拶をしてくれるようになった。どことなく、おじさんも嬉しそうにみえる。
その度に、これは挨拶のスルーパスだなあと思う。
スルーパスとは、サッカーで敵の背後のスペースを狙ったパスのことで、ゴールのお膳立てになる決定的なパスになることが多い。受け手が受け取りやすい場所に、絶妙なタイミングで出すもので、足元に出すのではなくスペースに出すのが特徴。
味方はそこに走り込んでパスを受け取る。つまり、味方を動かすパスなのだ。
おじさんの挨拶はまさにこれで、毎回絶妙なパスをくれる。
声が大きくて、顔をこちらに向けてくれているので、こちらも反応がしやすい。
アイコンタクト付きなので、どことなく意思疎通もできている、と勝手に思っている。
おじさんと会う時は勝手に、そんなパスのやり取りをしている気分になっている。
このニッコリ挨拶を受け取るだけで、眠くてだるい朝の時間の気分が晴れやかになる。
大半の人は返事をしないのを見ると、この挨拶のやり取りが自分だけの特典のようで、かえって得した気分になってくるから不思議だ。
それから、そんなに積極的ではない僕がいろんなところで自分から挨拶をするようになった。
同じマンションの住民とエレベーターに乗り合わせた時や、ゴミ捨ての時に一緒になった時にちょっとだけ声をかける程度のものであるが。
今までも軽い挨拶はしていたつもりだけど、より意識するようになった。
こちらから挨拶をすると多かれ少なかれ反応が返ってくる。
それが嬉しくてこちらもパスを出すのかもしれない。
逆に、挨拶をしてもなんの反応も返ってこないこともある。
相手の反応が悪い時は、多分いいパスを出せていない時なのだと思う。
声が小さかったとか、タイミングが悪かったとか、そもそも聞こえていないとか。
わかりやすく受け取りやすいパスを出さなければ相手は反応できない。
小さいころから親や先生に、礼儀として挨拶はきちんとしましょうね、と教えられてきた。
挨拶は相手のためにするものだと思っていたが、実は自分のためではないだろうか。
相手が返してくれたら嬉しい、それだけのことだが案外自分のためになっているのだと思う。
今までの生活を考えてみると僕は、挨拶にかぎらずパスを出してもらうばかりだった気がする。
しかも、誰かが出してくれたパスにきちんと走り込めていたかどうかも怪しい。
パスを出すことは勇気がいることだし面倒なことだ。相手を動かすスルーパスなら、なおのこと。
でも警備員のおじさんを見習って、どんどんパスを出す方に回ってみると少し世の中が違って見えるかもしれない。
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