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もしもカンニングを目撃してしまったなら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:との まきこ(ライティング・ゼミ)

 

そのとき、マツザカくんは机の下で教科書を開いていました。

 

私が小学校五年生のときのことです。

国語の授業では、毎回漢字テストをすることになっていました。テストといっても正式なものではありません。テストが終わったら隣の席の子と答案用紙を交換し、先生が黒板に書いた回答と照らし合わせて、お互いの答案を添削し合うという方式でした。

 

マツザカくんは私の隣の席に座っていた男の子です。彼の成績は、クラスでも学年でもトップクラスでした。やせっぽちで黒縁のメガネをかけていて、絵にかいたような秀才くんでした。

彼は早熟でもあったのでしょう。「将来の夢は、東京農大に入って大根踊りを踊ることだ」などと、どこで仕入れた情報なのか知りませんが、今思えばずいぶんと子供らしくないことを言っていました。

 

その漢字テストでは、彼はいつも100点でした。

私は漢字だけは比較的得意だったのですが、いつもおしいところで満点にとどかず、90点とか95点といった結果に終わることが常でした。

後の席替えで彼の隣になった友達が、

「マツザカって厳しいんだね。横棒の長さがちょっと足りないだけでペケを付けるんだよ」

とぼやいていました。どうやらマツザカくんの採点は厳しかったようです。

でも、私にとってはマツザカくんが初めての採点者だったので、こんなものかと思っていました。

 

1学期も半ばに入ったころの漢字テストだったでしょうか。私は、視界の端で不穏な動きをとらえました。なんだろうと思い、そちらの方にわずかに顔を向けると、なんとマツザカくんが机の下で教科書を引っ張り出して見ているではないですか。

 

「ど、どうしよう!」

彼がカンニングをしているという事実よりも、自分がカンニングの現場を見てしまったことに困惑しました。

周りの子たちは静かにテストを受けています。だれも気づいていないようです。

 

「マツザカ! 何をしているんだ!」

と先生が言ってくれればいいのに。

 

「あー! マツザカがカンニングしてるー!」

とほかの子が見つけてくれればいいのに。

 

でも、幸か不幸かだれも気づきません。

 

このときの担任は、まだ二十代半ばの熱血教師でした。私はこの先生がちょっと苦手でした。

私は好んで静かにしているだけだから放っておいてほしいのに、学芸会で目立つ役をさせたり、卒業生への送辞を言わせたりと、おとなしい子たちを何かと前に出そうと余計なことをするのです。まるでおとなしいことが悪いことだと言わんばかりです。

そうやって、自分が正しいと思っているところを押し通すようなところが、この先生にはあるのです。

そんな先生ですから、カンニングなんて許しません。まあ、この先生に限らず、常識的にいえばカンニングは許されるものではないのでしょうが。

 

もし、私がマツザカくんのカンニングを先生に言いつけたら。

本人を職員室に呼んで厳重注意して終わり、で済まないところが、この先生のやっかいなところです。

「なぜカンニングが悪いことなのか、みんなで話し合おう」

などと言い始め、中途半端な白熱教室が繰り広げられることは必至です。そんなことをされたら、カンニングを目撃した私にまで火の粉が飛んで来かねません。こっそりと生きていたい私には、それは何が何でも避けたいことです。

 

普段ぼーっとしている私が、このときばかりはフルスロットルでこの事態をどうしようか考えているうちに、マツザカくんは教科書を戻し、何くわぬ顔でいつものようにテストに取り組み始めました。

カンニングが無事に終わってホッとしたのは、マツザカくんよりも私の方ではなかったでしょうか。なんだかいい迷惑です。

 

テスト終了の合図があり、いつものように答案用紙を交換します。

今思えば、そのときに「あんた、カンニングしたでしょ」とマツザカくんに耳打ちして、二人だけの秘密にしておくという方法もあったのですが、奥手だった私にそんな発想はありませんでした。

 

カンニングが功を奏したのか、マツザカくんの答案は100点でした。カンニングしたのだから、100点くらいはとってもらわないと、目撃してしまった私としては納得がいきません。

私はといえば、いつものとおり90点あたりだったと思います。どんなことがあっても、人には相変わらず厳しいマツザカくんです。

 

 

結局、私は、先生にも友達にも家族にも、マツザカくんのカンニングのことは言いませんでした。マツザカくんをかばいたいという気持ちがあったからではありません。

熱血教師のせいで話がややこしくなるのを避けたいというのもありましたけれど、一番の理由は、人の不正を暴くことが怖かったことだと思います。私はその怖さを、幼いながらも感じ取っていたのでしょう。

 

仮にマツザカくんのカンニングを先生に言いつけたとして、その後に私は彼に対してどういう態度で振る舞えばよいのかがわかりませんでした。

正義の人らしく堂々としていればいいのか。

それとも、逆恨みされないように「ばらしてゴメンね」などと一応謝っておいた方がよいのか。

人の不正を暴いていい気になっているうちに、自分の方が悪いことをしたような立場に追いやられてしまわないだろうか。

自分がうっかりおかした小さな不正をつつかれて、仕返しされないだろうか。

 

はっきりと言語化はできないなりにも、こうした諸々の心配ごとが頭に浮かんでいました。そして、カンニングのことは、自分の胸の内にしまっておくことにしたのです。

 

ようするに、私は自分を守りたかったのです。自分にも後ろめたいところがあるから、彼のカンニングを白日の下にさらす勇気がなかったのです。

万が一、マツザカくんに逆ギレされたり仕返しされたりしたら、太刀打ちできない何かが私にあったのです。自分でも気づかないところで、たくさんの不正をしでかしているような気がしたのです。

自分では忘れてしまったような不正を、他人はちゃんと見ているし、覚えているということ。そういうことが、私にはわかっていたのです。

だから、カンニングを目撃しても黙っていたのです。自分が清廉潔白ではないことを暴かれてしまうのが怖かったのです。

 

優秀だったマツザカくんにとって、一度上がってしまった点数を下げることは、彼の命にかかわることだったのかもしれません。

たかが漢字テスト、されど漢字テスト。不正をおかしてでも守りたいことだったのでしょう。私が自分を守りたかったのと同じように。

 

 

私は自分を守るために、彼の不正を見逃しました。

でも、だれでも無意識に、悪気もなく、不正をおかしていることがあるかもしれないことは、覚えておいてもよいのかもしれません。よかれと思って言ったことが人を傷つけたり、慈善行為が思わぬところに悪影響を与えていたりすることがあるのですから。

他人の小さな不正にプンスカしていると、自分がいつも正しいことをしている人間であると勘違いしてしまい、自分がうっかりおかした不正に気づかなくなるのかもしれません。

などということを、あのときの自分を振り返って思うのです。今は正しさばかりを主張する大人になってしまいましたが、時には「なあなあ」もよいではないかと。

 

 

後に聞いた話では、マツザカくんの大根踊りの夢はかなわなかったようです。なぜなら東大に進学してしまったから。

マツザカくん、きみは正真正銘の秀才くんだね。でも、カンニングは見つからないように頼むよ。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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