「おまえの怒りはもう90秒で終わっている!」と、神さまは言った
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記事:ちこさん(ライティング・ゼミ)
「チッ、前の車はやく右折しないかな。信号が変わるじゃないか!」
夫は、せっかちで気が短いほうだ。
「はいはい、そうねー」わたしは、答える。
そんな夫と一緒にいると、なんてわたしの心は仏のようなんだろう……と思わせてくれる。
いや、正直に言おう。
顔には出ていないが、でも内心は怒ってますよタイプが、本当のわたしの姿だ。
動物に例えるとしたら、夫がトラで、わたしはゾウ、といったら分かりやすいかもしれない。
結婚したばかりのころは夫の怒り話を聞いて、
「それは大変だったね」と、やさしい嫁を演じていたとこともあった。
ところが慣れというのは恐ろしいもので、
「ええっ、そんなことがまかり通るのか!」と、むしろ夫より声を荒げていたことを思い出す。
残念だが、嫁はいつまでもやさしい嫁ではいられなかった。
二人で一緒に「ガッー」と怒れば、なんだか盛り上がってそれで終わりそうなのだが、案外そうでもない。後味が悪いというか、すっきりしないというか、何ともいえないモヤモヤ感が残るのだ。
いつの頃だったかある日わたしは、掃除をしながら健康番組を見ていた。
「イタッ!」
そうやってよそ見をしながら掃除をしていたせいか、中途半端に開いていたドアに、
足の小指を思いっきりぶつけたのだ。
あまりの痛さで悶えていると、だんだん痛さが怒りに変わってきた。
「もうー誰よ。ドア開けっ放しにしたのは」
「ホントにもう、他の人のこと考えてないんだから」そう大声に出すと、
なんのスイッチがわたしに入ったかわからないが、急に掃除をするのがイヤになった。
赤くなった小指をさすりながら掃除機を投げ出して、ソファーに座り込む。
相変わらずテレビでは健康番組がやっていたが、先生らしき人のある説明が耳に入って、
小指をさするわたしの手が思わず止まった。
「怒りのメカニズム、知っていますか?」
先生はまるでわたしの今の状況を見ていたかのように、語りはじめた。
先生が言う「怒り」の反応メカニズムはこうだ。
なんでも、脳から「怒り」の化学物質が放たれて、
↓
その化学物質がカラダに満ちわたり、「何だとー!」という戦いモードになる。
↓
そして血液の流れでその物質の痕跡が消えるまで、すべてが90秒以内に終わる。
ほう、なるほど。カラダの中でそんなことが起こっていているのか。
「ふーん、んっ?」ちょっと待てよ。整理しよう。
怒りの化学物質は、わたしの中で90秒たったら自然に消える……。
ということはだよ?!
もし、90秒が過ぎてもまだ怒りを感じているとしたら、
その怒りを感じつづけたいと、怒っていたいと、わたし自身が選んでいるってこと?
わたしの中で、そうした考えが浮かんだとき、
某アニメ番組のケンシロウが、神さまのような恰好をしてわたしを指さした。
「おまえの怒りはもう90秒で終わっている!」
そうか、そうだったのか、90秒で終わってたんだ。わたしの怒りは。
さらに勝手な考えが膨らむ。
いい人ぶる必要はない。
怒ることだって、生きるための反応だと思うから。
でも、あまり怒ってばっかりいたら、カラダにもよくなさそうだ。
あっ! だからこんな90秒システムがあるのかもしれない。わたしたちのカラダを守るために。
そういえば怒りを感じたときは、心の中で数を数えるっていう話もあるよなあ。
わたしは、さも自分がすべてを発見したかのように、この考え方に深く頷いていた。
わたしは人間なのに、知らないことばかりだ。
人間のメカニズムって、よくできていて面白い。
せっかく与えてもらった90秒システム。巧妙で、繊細な働き。
わたしたちを守り、生かすための働き。
見えない化学物質がわたしの中で動いているかと思うと、何だかモゾモゾするのだが、
健気に毎日働いてくれていると想像したら、逆にありがたみが沸いてきた。
健康番組はシーンが変わり、別の内容へと移ろうとしている。
頭の中のケンシロウはいつの間にやら消え、小指の痛みと、怒りはすっかり治まっていた。
「会社でこんなことがあってさ」と夫が怒っている。
「それは大変だったね」とわたしは声をかける。
神さまの姿をしたケンシロウの声を聞いたときから、自称、やさしい嫁が復活したと勝手に思っている。
なぜなら、あの90秒システムが思い出されるからだ。
夫には言わないが、怒っている本人のその後ろに、神さまの姿をしたケンシロウが立って、
「おまえの怒りはもう90秒で終わっている!」と指をさしているかと思うと、
夫には悪いが、心の中でニヤけてしまう。自分の妄想力に、ここは感謝だ。
月日がたって気がついたことがある。
「前の車ずいぶんゆっくりだな。まあ、俺らも急いでないからいいか」
「うん、そうだね」
夫は昔と比べると、ずいぶん気が長くなって、話す言葉が穏やかになった。
それは、お互いに歳をとったからかもしれない。
うんん、きっと自称やさしい嫁のお陰にちがいない。
そう思ったとき、どこかで神さまの姿をしたケンシロウが、苦笑しているような気がした。
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