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新幹線で出会った「先生」にビールをかけられて気づいたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:おおたき文庫(ライティング・ゼミ)

 

「あっ」

 

 

びしゃ。

 

 

ん。

 

 

ん?

 

 

んんん?

 

 

 

 

1泊2日の東北出張からの帰り。福島を出て東京へ戻るため、僕は「特急やまびこ号」に乗っていた。仕事の続きに取り掛かろうと会社で使っているMacを開いたが、日中の疲れもあり、すぐにうとうとし始め、気づけば眠りに落ちていた。

 

 

そして。

 

「間もなく上野、上野です……」

 

遠くで車掌さんのアナウンスが頭に届く。

 

あー……もう上野か。仕事、全然できなかったな。

ぼんやりとそんなことを考える。

 

電車がゆっくりと減速を始めた。

 

 

「あっ」

 

びしゃ。

 

 

ん。

 

 

2人席の窓側に一人で座り、眠っていた僕は、なにかの違和感を感じた。

 

 

少し目を開けようとするが、乾いたコンタクトが目に貼り付いてなかなか開かない。

頭を傾けて寝ていたため、頭がくらくらする。

 

 

なんだ?

 

 

何かが、左膝に落ちてきた気がする。

 

 

なかなか目が開かない。

 

ん?

 

やっと目が開いてきた。

 

左膝を見ると、ジーンズの一点が濡れている。

 

あれ?

 

僕は目の前の開いたMacに目をやった。

 

キーボードの左手前に「液体」がこぼれていた。

 

んんん?

 

やっと少しずつ寝起きの頭が働き出す。

 

なんか、臭い。

 

この臭いは……。

 

ビールだ。

 

 

全く状況がつかめない僕は、通路の方に目をやった。

すると斜め前に、ビール缶が浮いていた。

 

 

いや、浮いていた訳ではなく、持っている人がいた。

30代前半くらいの、メガネを掛けた色白の男性だ。

右手に缶ビールを持ち、まっすぐ前を向いている。

 

あれ?

 

僕は、混乱してしまった。

 

なんだ。この状況。

 

新幹線は少し前から速度を緩めていた。

ゆっくりと上野駅に入っていく。

 

「上野、上野です。お忘れ物のないようご注意ください……」

 

 

あっ。

 

まさか……。

 

 

やっと頭が状況に追いついてきた時、新幹線はゆっくりと止まった。

 

そして、メガネの男性は、何事もなかったかのように降りていった。

 

 

 

「まじか……」

 

取り残された僕は、思わずつぶやく。

 

見てみぬフリしたな。

 

僕は降りていったメガネの男性を目で追う。

どうやら後ろにいた数人も友達だったらしい。

 

新幹線はまだ停車している。

彼らは階段を降りていく時、僕と向かい合う形になった。

 

僕は「こっち向け」ビームを全力でメガネの彼に送ったが、缶ビールを持った彼は、こちらに目を合わせることはなかった。

 

おいおい。

 

 

やはり人は怒りを通り越すと「呆れる」気持ちになるらしい。

僕はビールがこぼされた左膝とノートPCを見ながらぼんやりと笑っていた。

 

エンジンがかからない頭のまま、ごそごそと鞄を探る。

普段ティッシュを持ち歩いていない僕だったが、出張前に「なにかで使うかも」と思って鞄に入れていた。

 

「まさかこのために使うことになるとは思わなかったな」と苦笑しながらも、Macにこぼれたビールを拭く。幸い、キーボードや画面にはかかっていなかった。

 

ジーンズも拭こうとしたが、既に染み込んでしまっていた。

こぼれたビール独特の臭いが膝からただよってくる。

 

「臭っ……」

 

普段ビールを好んで飲む訳ではないため、臭いに反応してやっと怒りがふつふつと湧き出てくる。

新幹線は再びゆっくりと発車していた。東京駅に着くまであと5分くらいある。

 

もう仕事をする気にもならなくなってしまったので、缶ビールを持った彼が何を思っていたのかを考えることにした。

 

もしかして、気づかなかったのかな?

そもそも彼じゃなかったとか?

 

でも、「あっ」という声を聞いたぞ。男の人の声だ。

そして、ほぼ同時に左膝に何かが落ちてきた感触も。そして周りでビール缶持ってたのは彼一人。うん。まあ彼だろう。おそらく僕の膝とMacにこぼれた瞬間も見ていたはずだ。

 

もし僕が起きていて、すぐ気づいていたら。彼はきっと謝ったのではないかと思う。イケダハヤトを少し肉付きよくした感じだったが、決してその場で目が合っても逃げていくような雰囲気の人ではなかった。

 

でも、僕がまだ眠っている様子を見て、

「このままなら気づかれる前に行けるぞ」という悪魔のささやきが聞こえてしまったのかもしれない。

酔っていて少し気が大きくなっていたのかもしれない。

 

それにしても。後ろには友達もいて、その一部始終を見ていたはずなのに。振り返れば揃いもそろって静かにしていたな。もし気づいていたのなら、友達も友達だ。

 

なんだか……

 

 

 

「そこは謝れバカヤロー!!!」

 

叫びたい。叫びたいぞ。

でもここは車内。叫びたくなる気持ちをぐっと抑える。

 

すぐに謝ってくれていたら。ジーンズのビール臭さには参っただろうが、Macも無事だった訳で、「いえいえ、気をつけてくださいね」くらいで済んだだろう。少なくともここまでは悶々としていなかった。

 

やっぱり見てみぬフリは駄目だよ。失敗したと思ったらすぐに謝る。謝るのって大切だよ。うんうん。

 

 

 

……あれ。

 

見てみぬフリ。失敗したらすぐ謝る。

 

チクリ、と何かが胸を刺す。

 

 

一年ちょっと前の記憶がフラッシュバックする。会社に入って数ヶ月がたった頃だ。仕事が遅くてやってもやっても終わらない。仕事ができないのにプライドだけ高く、先輩に相談をすることもしなかった。当然のように、期日が迫っているのに終わっていない仕事がうず高く積もっていく。

 

見かねた先輩2人が自分たちも仕事が忙しい中、僕ができていない仕事を整理し、分担してくれた。

今思えば相談もできない後輩に、気を回してくれた優しい先輩たちだった。しかしそんな先輩のフォローも、僕は「自分の仕事がやっと少し楽になる」「助かった」くらいにしか考えていなかった。

仕事を分け持ったおかげでより忙しく働いてる先輩を「見てみぬフリ」し、「すみません」や「ありがとうございます」すら伝えていなかった。

 

 

ある日、1人の先輩が「ちょっと」と僕を呼んだ。

 

向かい合って座り、先輩は暫く僕の方を黙って見ていたが、意を決したように口を開いた。

 

 

「やってもらって当たり前、じゃないよね」

 

「いいよ。入ったばっかりなんだから、仕事できないのは当たり前だよ。でも、こんなことこっちから言いたくないけど、助けてもらってて『見てみぬフリ』は良くないよね。できなかったらまずは『すみません』。そして、『ありがとう』。

謝罪と感謝のできる人間になれ!!!」

 

 

はい、その通りです。本当にすみませんでした。

 

大丈夫か。自分こそ、見てみぬフリしてないか?

 

 

……はっ。そういえば。

 

今週のゴミ出し、寝坊して出せなかったのを同居人の先輩にフォローしてもらってたぞ。出してもらったの気づいてるのに「見てみぬフリ」して、お礼も言えてない。

 

うわっ。

 

先輩に借りた本。自分の本棚に「見てみぬフリ」して入れっぱなしだ。

 

思いっきり自分に壮大なブーメランが飛んできていた。

 

失敗したと思ったら、すぐに謝る。当たり前の話なのだけれど、これがなかなかできない。相手の失敗はよく気がつくのに、自分の失敗は思わず目を背けたくなる。見てみぬフリをしてしまう。

 

 

自分が何か失敗してしまったら。まずは、ちゃんと謝れるような人間になりたい。

 

 

新幹線で出会った「反面教師」にビールをかけられて気づけた大切なことは、胸に留めておこう。

 

ビールをかけられた怒りとジーンズについた臭いは、帰ったら洗濯機に入れて水に流すことにしよう。

 

 

「間もなく終点、東京、東京です……」

 

新幹線はゆっくりと減速していった。

 
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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