僕はヒーローになりたかったんじゃない
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:菊地功祐(ライティング・ゼミ)
「こちらでお間違いないですか?」
レジにやってきた子供たちにパッケージを渡す。
「はい、大丈夫です」
子供たちはものすごい形相でゲームのパッケージを見つめている。
きっとゲームが気になって仕方がないのだ。
私は今、とあるレンタルショップでアルバイトをしている。
そこにゲームを買いに来る子供たちを見ると、いつも思い出すことがあった。
いつも思い出すことが……
子供たちに襲撃された、あの日の出来事を……
「襲来だ……」
ヒーロースーツを着ている男たちに向かって、
公園にいる近所の子供たち全員が襲撃してきた。
「あっヒーローがいる!」
「ヒーローだ!」
「みんなヒーローがいるよ!」
ヒーローに向かって話しかけてくる子供たち。
「痛い!」
「やめて!」
ショッカー役は、子供達からボッコボコにされている。
私は学生時代に、自主映画の撮影のために京王堀之内の公園を訪れた。
今回の映画は、ヒーロー特撮ものだった。
ドンキーホーテで3890円のヒーロースーツとショッカースーツを買い、
自主映画サークルの人たちとヒーロースーツを身にまとって、撮影を進めていった。自分はその時はカメラマンとして参加していた。
午前中は比較的スムーズに撮影を進行できたと思う。
天気が良くて、とても心地よい。
絶好の映画撮影日和だ。
ヒーローに憧れる女の子とショッカーとの絆のシーンもうまい具合、感動的に撮れた。
しかし、一つだけ誤算があった……
それは、撮影日が日曜日だったということだ。
日曜日の午後になると公園はどうなるのか?
近所の子供たちで溢れかえるのだ!
子供たちが公園へ遊びに来ると、我々撮影隊とヒーロースーツを着た謎の
男たちがいるのだ。
「あっヒーローだ!」
「ヒーローがいる!」
「ヒーローがいるよ!」
子供たちが、みんなで群がってきた。
ヒーロー役の役者はまだいい。
子供たちから握手を求められ、楽しそうだ。
大変そうなのはショッカー役だった。
子供たち全員からボコボコに殴られている。
3歳の小さな子供でも善と悪の区別はつくらしい。
ショッカーが悪だということを認識できているのだ。
だから、子供たちは群れをなしてショッカーをボコボコにしている。
「やめて! 許して」
ショッカー役が嘆いていた。
近所の子供たちに囲まれ、映画の撮影どころの騒ぎではなくなってしまった。
「この状況どうします?」
監督をしているサークルの先輩に聞いてみた。
「どうしようもないだろ……カオスだ」
どうしても予定通りに撮影を進めたいと思い、撮影隊は最終手段に出た。
監督はヒーロースーツを身にまとい、子供たちに話しかける。
「みんな聞いてくれ! これからヒーローの撮影が始まるんだ!
良い子のみんなは静かにしようね」
すると子供たちは
「はーい!」
と言って静かになった。
(案外、素直でいい子たちである)
今だ! チャンスだ。
子どもたちに囲まれながら、ヒーローとショッカー役はセリフを読み上げていった。
カメラを回す私。
約20人の子供たちが、カメラの周りを取り囲んでいる。
音は仕方ない……アフレコにするか。
「はい、カット!」
なんとか予定のシーンを撮り終えた。
安堵する監督……
「わーい!」
また子供たちが騒ぎ始める。
かれこれ3時間、子どもたちから軽い暴行を受けているショッカー役は
しんどそうだ。
撮影を終え、機材の片付けをしていると、子供たちが
「遊ぼう!」
と私に話しかけてきた。
どうやら一緒にゲームをしてもらいたいみたいだ。
3DS を渡された。
ゲームをするのは5年ぶりくらいで、私はボタンの操作が全くわからなかった。
結局、子供たち相手にゲームでボロクソに負けてしまった。
「あははは」
と笑う子供たち。
私は決して、ヒーローに憧れるような子供じゃなかった。
戦隊シリーズなどを見た記憶があまりない。
子供も正直言って、どちらかというと苦手だ。
だけど、今の子供たちはいったい、どんなことに興味を持って、どんな遊んでいるんだろう? とずっと心の中で疑問に思っていた。
私が子供だった頃は、まだ夕方の時間に子供向けのアニメが放送されていた。
しかし、今の時代、アニメはなぜか、大人が見るものになってしまった。
そのため、夕方のアニメ枠のほとんどが深夜に移行してしまったのだ。
深夜にアニメを流しても、子供たちは見れるわけがない。
今の子供たちは、どんなアニメを見て、どんな遊びをしているんだろうか?
私はずっと気になっていたのだ。
そんなこともあって、私は子供でも楽しめるヒーロー映画を作るのに興味を持ったのだと思う。
「おーい! こっちに来て一杯やらないか」
公園にいた近所のおじさんたちが話しかけてくる。
おじさんたちは京王堀之内に住む人々で、田植え体験などを通じて、地元の子どもたちと触れ合っているという。
ヒーロー映画の撮影がひと段落ついて、近所のおっちゃんたちと公園で飲むことにした。
泡盛を飲むおっちゃんたち。
こんなアルコールが強いのをよく飲めるな……
大学の映画サークルで、自主映画を作っていると言うと、
「ショッカーの登場シーンはここで撮るといいよ!」
と、ロケ地に最適な場所を教えてくれた。
撮影隊と近所の田植え帰りのおっちゃんたちが騒ぎながら、泡盛を飲んでいる光景を見ていると、なんだかしんみりとしてしまった。
映画作りはやはり面白い。
ロケを通じて、出会うことのなかった人と人とが出会い、多くの人の協力のもと一本の映画を作り上げていく。
いろんな人と出会いながら、新しいものが生まれていくのだ。
最後に田植えのおっちゃんたちと近所の子供たちで記念写真を撮ることになった。
泡盛を持ったショッカー……
ニコッと笑う子供たち。
私はシャッターを押す。
「パシャ!」
その時に撮った写真は今でも大切にとってある。
アルバイト先の店に来る子供たちの多くがゲームを買っていく。
みんなワクワクしながらゲームのパッケージを見つめている。
だけど、子供の心にいつまでも残るコンテンツって今の時代あるのだろうか?
アニメも深夜に放送されるようになり、子供向けのコンテンツはどんどん少なくなってきている。
あの日、京王堀之内の公園で出会った子供たちに向けて……
私は多くの子供たちの心にいつまでも残るようなコンテンツをいつか作りたいと思う。
そのためにも、今はひとまず、天狼院のライティング・ゼミで
面白いコンテンツを作る修行あるのみだ! と思っている。
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