メディアグランプリ

もう手の届かない場所にいた友達を引き戻したのは、流れる時間だった


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記事:つたちこ(ライティング・ゼミ)

 

「久しぶりに、ごはんでもどう?」

「いいね!」

「会いたーい!」

「みんな、いつごろが空いてる?」

 

めったに使わないわたしのLINEが急に活性化した。

LINEでしかつながっていない、新卒で入った会社の同期メンバー3人とのやり取りが始まったのだ。

 

そもそもLINEをあまり使わないって、今どきどうなのか、という話もある。

わたしは個人的に連絡を頻繁に取り合う人が少ない。

もっとわかりやすく言い直すと、わたしは友達が少ないのだ。

 

最初はその同期グループのやりとりも、きちんと気づいていなかった。

ふだんLINEに入るのは、うっかりフォローしてしまった企業アカウントからの広告メッセージがほとんどだ。

だから、スマートフォンのLINEアイコンに数字がついていても放っておいたのだ。

 

私がなかなか反応しないものだから、普通のメールでもメッセージが届いた。

「元気? LINE、もしかしてやめちゃった?」

 

ごめんごめん、ほんとごめん。うっかり見てませんでした。LINE、あんまり使ってなくて……。

言い訳とともに、それまでのみんなのやり取りを追いかける。

 

久しぶりに4人でごはんでも食べよう。でも受験生のお母さんがいるから、夜じゃなくてランチはどう?

そんなやりとりだった。

前回会ったのは2、3年くらい前だったろうか。

「いいね! ランチなら土日かな、私はいつでも大丈夫」と慌てて返事をする。

 

「いいね!」と書いたものの、正直言うと、少しだけおっくうだった。

当日、風邪を引いた、とかで欠席してしまおうか……。

 

3人と出会ったのは20年以上前のことだ。社会人になったばかりの私たちは学生気分が抜けきらず、クラスメイトのように仲が良かった。

当時の会社で、学校の「卒業」の代わりにあったのは、寿退社だった。

特に明文化されていたわけではなかった。でも、結婚が決まった女性社員は、自主的に退社して主婦業をメインにする人が多かった。

なんて古めかしい慣習だろう。

 

同期のメンバーも、寿退社や、結婚を前提に彼のいる地方に行く、といった理由で一人、二人と順に辞めていった。

集まる4人のうち、3人はその後子供を2人、3人と持って暮らしている。仕事もしているが、「扶養の範囲内で」らしい。

残るわたしは、そのなかではいわば異端児だ。

会社を辞めて結婚したもののあっけなく失敗、一人で生きていくために「なにかの仕事ができる人」にならないといけなかった。

必死でやれることを探して、自分の居場所を確保できるようになんとかやってきた。

3人からはいつも「大変そうだね、大丈夫?」と心配される対象だった。

必死さを理由に、普段こちらから声をかけることもなく、いつも連絡は受け身だった。

 

そんな私に「会おう」と声をかけてくれる貴重な数少ない友達。

それなのに会うのに少し気が重い理由は2つある。

 

4人で集まると、どうしても私には口を出せないことがある。

3人の主戦場は家庭と家族だ。

近況報告で子供の話題になると、子供のいない私には入る余地がなくなってしまう。今どきの受験事情、PTA、ママ友との付き合い方、どれもちんぷんかんぷんだ。

もしかしたらなんかの仕事のヒントになるかもなあ、と話を聞くけれど、子育てトークだけで盛り上がられるとちょっとつらい。

 

もう一つは、昔話だ。会社時代の出来事や、ほかの知り合いがどうしているか。

前に会った時にも同じ話をしたような気がする……。

同じフレーズを繰り返すオルゴールみたいだ。

嫌なこともあったはずだけど、それはもう記憶の底のほうであいまいになって、楽しかった印象深いことだけがノスタルジックな音楽を奏でている。

昔の出来事を何度もなぞって、笑いあう。たまに記憶が途切れれば、「あれはこうだったよ!」とフォローしあって「そうだったそうだった!」とうなづき合う。

お互いの記憶を補完し合ってオルゴールの修理を繰り返す。

 

同窓会なんてそんなものなんだろうか。

卒業した学校の同窓会にはずっと出ていない。というか、やっているかどうかも知らない。

学生時代のごく限られた友人とは立場が似ているうえに現在進行形でやり取りをしているので、昔話をすることもあまりない。

 

参加できない話題か、昔話の繰り返し。

日時が決まり、「楽しみにしているね」とメッセージを送ったものの、少し気が重かった。

 

 

 

当日は池袋にあるタイ料理のお店で待ち合わせた。

約束したランチタイムの5分前にお店に行ったら一番乗りだった。まるでわたしが一番待ちきれないみたいだ。

続々と3人がやってきた。やっぱり懐かしくてうれしくて、少しほっとする。

 

食事が始まった。

わたしが恐れていた2つの話題は、やっぱり出た。まあ、そうなるよね。

でも、少し変わっていた。

みんなの子供たちが、大きくなったからだろう。

以前のような「家を出るのに泣かれて……」とか「困ったママ友がいて……」といったちょっとウェットな話が少なくなった。

人の家の子供の成長は早い。一番大きな子はもう大学生だという。私が出産祝いに行ったのはいつだったっけ……。あっという間だ。

 

会社時代の昔話もするにはしたが、ボリューム的には少なくなったような気がする。

みんなで考えても、どうしても名前の思い出せない人がひとりいた。

私たちが年を取って記憶力が衰えたからだろうか。オルゴールもだいぶガタがきているようだ。

 

代わりに出てきたこと。それは健康についての話題だった。

40も過ぎればいろいろ支障が出てくる。それは立場が違ってもお互い様だった。

思わぬ展開にちょっと驚きながら、お互いの健康情報を交換し合う。

病気ネタや予防ネタで大いに盛り上がることになった。

 

結局タイ料理屋を追い出され、カフェに移動し、さんざん話をした。

一応途中で「受験生いるのに、長居しても大丈夫?」と聞くと、「いい、いい! どうせ私が家にいてもいなくてもやらないから!」と豪快に笑っていた。いいのか、それで。

 

夕方になり、さすがに話題も途切れたので解散することになった。

今度会うのはいつだろう。

またね、体に気を付けて、元気でね、と手を振って別れた。

 

一人になって地下鉄に乗ってから、どっと疲れが来た。空いた電車で椅子の背にもたれてぼんやり考えていた。

子供が大きくなり手を離れていく、ということは、つまりお母さんも子供から独立するということなんだな。

 

私は一生もう同じ潮流に乗ることはないと思っていた。

だから、自分とは違う流れを行く3人の「お母さん」たちを見失わないように、いつも必死に追いかけるのがキツイな、と思っていた。逆にわたしの行く流れを、同じように3人にきちんと理解してもらうのも難しいと思っていた。

もちろん彼女たちが「お母さん」であることは変わらないし、私がもう一生体験しない立場なのも変わらない。でもそこをたどるかたどらないかの違いで、また近いところに合流できるらしい。

 

あまり嬉しいものでもないけど、年は誰もが平等に取っていく。

でもそのおかげで、古い友達と新たな共通項ができることもある。つまり年を取ると健康トークが増えるのには、きちんとわけがあるのだ。

 

それにしてもうっかり、数少ない友達を自分で減らしてしまうところだった。あぶないあぶない。

おっくうがっていてはダメだな。次はもっと自分から話のネタを提供できるように、精進せねば。

そうそう、LINEのチェックも忘れずに。

 

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2016-12-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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