逆上がりができない私の話
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記事:かおり(ライティング・ゼミ)
体育はずっと一番苦手な科目だった。
自慢ではないが、補助なしで逆上がりができたことは一度もない。
できない自分が嫌で、体育などなくなればいいとずっと思っていた。
よく晴れた日曜日。ベランダいっぱいに洗濯物が干してある。
そのほとんどがジャージである。
「ねえ、なんでこんなにジャージばっかり干してあるわけ? 普段ジャージ着てるの?」
「まさか。昨日、ダンスのレッスン3つ受けたからだよ」
体育が嫌いだった私には1コマ90分のレッスンを1日に3コマも受けるなど、まったくもって信じられない話である。
しかも、それをやっているのが社会人になった私なのだから、まったく人生何が起きるかわからない。
ダンスをはじめたきっかけの一つはうまくいかない恋愛だった。
人見知りで引っ込み思案の私は、社会人1年目にまさかの営業になった。
電話をかけるのはもちろん、電話に出ることすら苦手な私。
こいつは大丈夫なのだろうかというみんなの不安の目が向けられている中、たった一人、「この子はできる子だよ」と私を信じて仕事をくれていた部長に私は恋をしたのだ。
彼に認められたくて、信じてくれた彼に恩返しがしたくて私は一生懸命働いた。
社会人3年目。
気づけば私は会社始まって以来の大型案件を受注し、売り上げナンバー1の営業になっていた。そしてそれを見届けるかのように、彼は会社を辞めることになった。
17歳も年上のバツイチの彼に、私は付き合ってほしいと決死の想いで告白をした。
彼の答えは「ノー」だった。けれど、私と彼はずるずるとした関係になっていた。
それでも私は幸せだった。彼が私と一緒にいてくれるだけでよかった。
けれど、彼が会社を辞めてしばらくして、彼には彼女ができた。
私の斜め前の席に座る先輩。それが彼の彼女だった。
彼は私には何でも話せるといい、彼女と付き合い始めたこと、彼女のいやなこと、いろいろなことを話していた。そのころの私は彼が私を必要としてくれていると思っていた。
彼が彼女のことを話すたびに、苦しくたまらないのに、私はそれを口に出す勇気すらなかった。彼が離れていってしまうのが怖くて、いつもにこにこと笑っていた。
約束なんてない。いつも彼の都合で突然に連絡が来る。
だから呼ばれればいつでも会いに行けるように、仕事が終わればまっすぐに家に帰っていた。何をしていても常に携帯電話が気になって、いつもそわそわとしていた。
なんでこんなことをしているんだろうと、虚しくてたまらなかった。
それでも私は、彼と離れたくなかった。
「このままじゃだめだ。どうにかして時間をつぶそう」
そんな罰当たりな発想で、私はダンスを始めた。
ミュージカルが好きな私は、なんとなくジャズダンスを選んだ。
はじめは鏡に映る自分を見ることすら嫌だった。
太っているし、何をしても恰好の悪い奇妙な動きにしかならない。
教えてもらったステップも踏めず、頭の中では「できないできない、もう、いやだ」という言葉ばかりがぐるぐると回っていてちっとも楽しくなかった。
それでも、ダンスのレッスンの間はレッスンについていくのに必死で、他のことを考える余裕など一ミリもなく、嫌な虚しさは忘れることができた。そんな消極的な理由で私はダンスを辞めなかった。
そうこうしているうちに、少しずつ踊ることが楽しくなってきた。
慣れてくれば全然理解のできなかった先生の説明もわかるようになり、少しずつ身体も動くようになってくる。やればやるだけできることが増えていく嬉しさに私はどんどんダンスに夢中になり、レッスンの回数を増やしていた。
鏡に映る自分をしっかりと見つめながら踊るのが当たり前になってきたころ、
私は思い切って彼に別れを告げた。
「今までありがとう。もう二度と会わない」
そう言ったとき、もっと悲しいかと思ったけれど、妙にすがすがしかった。
ずっともやもやとしていた私の心から雲が消えて晴れ渡ったようなそんな気がした。
ダンスを通して気づいたことがある。
私はできない自分が認められなくて、自分を信じることなくいつもそこから目を背けていたということだ。
逆上がりができない自分。
できるまで練習することもなく、私は逆上がりができないと思ってしまった。
自分は仕事ができないと思い、信じてくれた彼にしがみついてしまったこと。
結果がついてきても私は自分の力を信じていなかった。
だから、自分を認めてくれた彼と離れられないと思っていた。
でも、私はダンスと出会った。
ダンスを通して自分と出会った。
私、やればできる……かもしれない。
いつの間にかそんな風に思えるようになった。
自分のことを前より見直したし、信じられるようになった。
もしかしたら。
逆上がりも練習すればできるかもしれない。
今はそんな気がしている。
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