断捨離が得意な叔母が教えてくれた後輩の育て方
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:かのこ(ライティング・ゼミ)
「趣味がたくさんあっていいなぁ~! いつも忙しそう!」
読書が好き、旅行が好き、博物館や美術館に行くのが好き、音楽のライブが好き、お笑いが好き――。
休日にしたい事がいくつもあると、人からこう言われることが多いが、実際にはリア充とはほど遠い生活をしている。
趣味が増えると、まず、掃除をする時間が削られる。
やりたいことは時間の融通が利かない事もあるので、ついいつでも出来ることはサボりがちになってしまい、結果として掃除や自炊よりも睡眠時間の確保が最優先になる。
そして人付き合いにも余裕がなくなる。
忙しくても、返信の早い仕事の出来る人だって世の中にはたくさんいると思うが、私は忙しくなると、メール不精になってしまうダメなタイプだ。
外に出掛けることは好きなくせに、自分の場所を変えることは昔から苦手だった。
今まで、引っ越した数はたったの2回。大学進学のため上京する時と、社会人になってからの1度だけだ。
重い腰を上げて引っ越しを決めた時も、趣味に仕事に、忙しいことを言い訳に、引っ越しの1週間前まで荷造りは全く進んでいなかった。
1度、引っ越し準備の様子を見に来た母は、ドアを開けるなり驚愕した。大学時代から集めた、数千冊はあろうかという本の山、何百着という服の山が立山連峰のように母の前にそびえ立っていた。
「次は助っ人を連れていくからね」
母が帰ったあと、不気味に頬笑むウサギの絵文字と共に送られてきたこの一文が、自分を大きく変えることになろうとは、この時の私にはまだ予測出来ていなかった。
「ピンポーン」
玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けるとそこに立っていたのは叔母と母だった。
叔母は私の母の2番目の姉だ。三姉妹の真ん中で、竹を割ったようなさっぱりとした性格の人だった。
確かに、叔母の家はいつも整理整頓されていた。
本棚はぎっしり埋め尽くされているものの、私のように雑多でなく、種類ごとに綺麗に並べてあったし、お風呂やキッチンはいつでもピカピカだった。
母の言う事には、素直に頷けなかったり、甘えて手伝ってもらいがちな分、よそでは猫を10枚くらいかぶる私の性格をよく分かっているな、と母の作戦に身内ながらあっぱれと思った。
「まずは、捨ててもいいかなと思うものを左側のボックスに入れる。10秒迷うものは真ん中のボックスに。必要だな、と思うものは右に入れてみて」
今では断捨離の本を読めば当たり前に書いてあることだが、その時はまだ断捨離という言葉さえ世の中でブームになっておらず、叔母の言うことはいちいち新鮮だった。
それまで私は、モノを減らすには捨てるか捨てないかの2択しかないと思っていた。
迷ってもいい、という選択肢があったことが驚きだった。
その方法に沿って所持品を分けていくと、迷ってもいい、というグレーゾーンがあるせいか驚くほど簡単に仕分けが出来る。
仕分けが全て終わった頃には捨て癖もついていて、迷っていたものの、「まぁ、いいか」と捨てられるようになり、結果として持っていたものの半分以上を処分することが出来た。
本や服の多くはリサイクルに回すことが出来たので、ゴミもそこまで多く出さずに済んだこともありがたかった。
一人では全然進まなかったのに、あまりに順調に荷造りが進んでいくので、何故だろう? と教わりながらふと考えたのだが、叔母の教え方には全く無駄がなかった。
教え方の上手い人は、「何で分からないの!」とか、「何で出来ないの!」とは絶対に言わない。社会人も3年目を過ぎ、教わることだけでなく少しづつ教えることも増えてきた私にとって、相手のペースに合わせることを前提にしている叔母の教え方は目から鱗だった。
休憩をとる時も、基本は部屋でお茶を淹れる。お昼ごはんは引っ越し前に作るとゴミが増えるから、という合理的な理由で30分程、近所にそばを食べに行ったくらいだ。
不思議と最後まで集中力は落ちなかった。きっと叔母が私のペースに合わせて、適度に作業内容を変えたり、休憩をはさんでくれていたのだろう。
朝から始めて、夕方16時にはほとんどの作業が終わり、彼女たちは車に乗って颯爽と帰って行った。
私一人だったら三日三晩掛かっても終わらなかったに違いない。
がらんとなった部屋で、ベッドに寝転がり、天窓から見える夜空を眺めてみる。
「こんなに天井、高かったんだな~……」
チームで働いていると、四方八方から急な仕事が飛んで来たり、後輩のフォローをしたり、中々自分のペースで仕事が出来ないこともある。
気分転換にコーヒーショップに出向いたり、同僚と話す時間だって時には大切だと思う。
でも、まるごと相手に向き合って、目の前の仕事に集中し、まずその仕事を終わらせると、自分も相手も、心と時間に余裕が出来て、それまで見えてなかった景色が見えてくる。
そういう時間から、新しいアイディアが生まれてくるんじゃないだろうか。
教えられる後輩のほうだって、効率よく仕事が終わって余裕が出来たことで、先輩のやり方を真似しようと思ったり、もっと意欲が湧いて来たりすることもあるんじゃないだろうか。
2日ほど前に、焦って小さなミスをしてしまった部下に、頭ごなしに「ちゃんと考えたの!?」と言ってしまった自分が急に恥ずかしくなった。
部屋にはコーヒーのいい薫りが漂っている。
朝から掃除して、綺麗に片付いた自分の部屋で飲む一杯はやっぱり格別だ。
あれから数年たったが、人の性格とはそうそう変わらないもので、気付けばまた本の山と、服の山が出来てしまっている。
でも、あの日の学びは、ちゃんと役立っている。
あれから一度も、誰かに片づけを手伝って貰ったことはないが、月に何度かは、徹底的に掃除をする! と決めて終わるまでは絶対に家から出ない。
この掃除は、部屋の片づけや思考の整理の為もあるが、一番は、叔母が教えてくれた指導の姿勢を忘れないためにやっているのだと思う。
「来年もよろしくお願いします!」
昨日元気にあいさつをしてくれた後輩の笑顔を思い出し、さぁ、あとちょっと、と私は再び腰を上げた。
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