ふるさとグランプリ

あの世界的な小説家こそ、「ふるさとグランプリ」の常連だったのかもしれない《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:菊地功祐(ライティング・ゼミ)

「次は高円寺〜高円寺」

私はJR中央線沿いにある高円寺駅に降り立った。
13時過ぎに駅前のカラオケ店の前で友人と待ち合わせだったが、
それまで暇だったため、ずっと行きたいと思っていた場所へ向かうことにした。

愛読している、とある小説を手に持って……

私はそば屋の中に入る。
小説で描かれていたよりも大きな店舗だなと思った。

奥行きがあって広い。
サラリーマンの人から主婦まで多くの人で混み合っていた。
家の近所にある立ち食いそば屋に比べると明らかに大きい店舗だ。

そこで私は、そばを注文した。
1分ほどでそばが来る。

ぐいっと一気に、私はそばを食べる。

ここで、あの追跡者もそばを食べていたんだな〜と感慨にふけってしまった。

私が手に持っている小説。
それは数年前にベストセラーになった小説だ。

前から気になっていたが、とても厚い本で、単行本6冊分もある。

始めは読む気がしなかった。
内容はどうやら宗教的な話らしい。

なんか怪しいなと最初は思った。
分厚いし、長いし……

本が売れないと言われている今の時代でも、あれだけ売れるのなら、
さぞ、面白いんだろうな〜と思っていたが、読む気がしなかったのだ。

むしろ読めなかった。

前からこの小説家のことは好きで、何冊か読んではいたが、
いつも途中で挫折してしまっていた。

文体が独特すぎて、きついのだ。

作者特有のリズムがあって、それについていくだけの読解力が私にはなかったのかもしれない。

内容もほとんどなくて、登場人物に全く共感できなかった。

物語なのに内容がほとんどないのだ。
あるのは、独特なテンポとリズムだけ。

学生の頃に何度もトライしてみたが、いつも途中で挫折してしまった。
物語の中に入っていけなかったのだ。

なぜかわからないが……

あの有名な作者の本だから、もちろん多くの人に読まれている。

私だけが読みづらいと感じているのだ……と思っていた。

しかし、他の人も同じようなことを言っているのだ

「いつも途中で挫折する!」
「文体がきつくて、物語の世界に入り込めない!」

私が会った友人たちは皆同じことを言っていた。

なんで「読めない!」っていう人が多いのに、本はあんなに売れるんだ?
と正直思っていた。

この作者のことは本当に謎だった。
なぜ、あんなにも売れるんだ?

たぶん、多くの人が同様なことを感じていると思う。

なぜ、あんなに文体がきつくて、物語に中身がないのに売れるんだ……と。

私も本当に謎だった。
あの作者の小説が全く読めなかった。

だが、ある出来事を境に急に読めるようになったのだ。

その出来事とは……

就職活動だった。

社会に出て、いろんな出来事を経験し、いろんな挫折を味わう中で気づいたこと。
それは、「私は世界の中心ではない」ということだった。

学生時代は、私は心の底で
「自分は人と違う何かを持っている!」
と思い込み、大義名分のもと、自分という殻の中に閉じこもっていたと思う。

就職活動では、自分を大きく見せることに必死になり、大手ばかりを受けていた。
誰もが知っている有名企業に入り、同級生から
「やっぱり、君は人と違う」
「人と違うものを持っているね」
と言ってもらいたかったのだ。

その会社に入りたいというよりかは、大学で会う同級生に鼻高々に自分が内定を得た企業名を自慢したかったのだと思う。

そんな肩書きにこだわる奴など、どこの企業も欲しがる訳がない。
結局、受けた企業はほぼ全滅した。

家でエントリーシートを死に物狂いで書いているうちに、
自分って一体なんなんだ? と思い、苦しくなってきた。

自己PRを書こうと思い、自分という存在をグルグル考えていったところで
時間の無駄だと思う。

だけど、その当時の自分には、それをやるしかなかったのだ。

エントリーシートという、本当に採用担当者が読んでいるのかどうかわからない紙を死に物狂い書き、自分を大きく見せることで必死だった。

誰か私を見て!

誰か私の凄さに気づいて!

と就職活動中はもがき、苦しんでいた記憶しかない。

6月が過ぎて、多くの人が次々に内定を得ていく中、自分だけが取り残された。
私は内定ゼロだった。

その時だと思う。

なぜか私はその小説家の本が気になりだし、読み始めたのだ。

今まで、文体がきつくて、いつも挫折していたのに、何か吹っ切れたかのように
す〜と読めるようになったのだ。

面白い!
面白いぞ、この小説!

私は無我夢中になってその小説家の本を読み漁った。

時間を忘れるくらい読んでいたと思う。

結局、とある企業に内定をいただき、私は大学生の最後の半年間を過ごすことになった。

私はほとんどの単位を取り終わり、大学に行く必要がなかったので、家に閉じこもって、その作者の本を読みまくっていた。

なぜかはわからないが読みまくっていたのだ。

今まで読めなかったのに突然、読めるようになったのだ。

この本が救いのような気がしていたのかもしれない。
何か生きづらさを緩和してくれるような気がしたのかもしれない。

私は夢中になって読みふけった。

一番感動し、心動かされたのが、高円寺を舞台にした長編小説だった。
とある宗教団体とその組織に巻き込まれた男女の恋愛を描く超大作だ。

単行本6冊分もあるのに3日ほどで読んでしまった。

面白い。面白すぎる……

特に運命のいたずらで引き裂かれた男女が高円寺にある公園で再会する場面は感動的だった。

組織から雇われた凄腕の追跡者が女殺し屋の居所を突き止めるために高円寺を探索する場面など、サスペンスに溢れていて読むのが止まらなかった。

これだけ面白い小説なら、大ベストセラーになるのもわかる。

読んでいて不思議な感覚に陥った。
あまりにも小説の世界がリアル過ぎるのだ。

もしや、この公園って本当にあるんでは?
作者が高円寺をふらふら歩きながら、妄想を膨らまして書いたものなのではと思った。

そう思っている矢先、私は友人との待ち合わせで高円寺に行く用事ができた。

私は小説の中の世界を歩き回ってみようと思ったのだ。

友人との用事も午後6時過ぎには終え、私は一人で高円寺を探索することにした。

驚いたことに小説の世界のままなのだ。

運命の糸で結ばれた男女が行き来していた世界がそこにあったのだ。

近所のスーパーで食材を買いに行った場所。
追跡者が女を探すために立ち寄った珈琲店。
駅前にある蕎麦屋。
尾行のために使うカメラを買ったカメラ屋。

小説家が描いた世界のままだった。

私はなんだか不思議な感覚に苛まれた。
現実なのかフィクションなのかわからなくなってしまったのだ。

なんだ、この感覚……

作者が切り取った世界観の中を歩き回っているのだ。

そして、私はあの公園にたどり着いた。
お互いを探し求め、運命の人と再会する、あの滑り台がある公園へ。

そこは駅から数分の距離にあった。
道が少し入りくんでいて、迷ってしまったが、小説家が書いた描写通りに
角を曲がったら公園があったのだ。

私はそこから月を眺めているうちに、月が二つあるのに気付き、別世界へと迷い込んでしまった主人公の気持ちを思い出してみた。

その滑り台を見ていると小説の世界の物語がフラッシュバックしてきて不思議な感覚に陥った。

この滑り台の手前にあるマンションが、あの女性が隠れていたマンションということになる……

全て小説で書かれていた通りだった。

そうか……
作者は思い出の地を小説の中に落とし込んでいたんだなと思った。

作者は学生時代に高円寺のジャズ喫茶でアルバイトをしていた経験があったらしく、その当時の思い出を小説の物語の中に落とし込んでいたんだと思う。

自分の心のふるさとを小説という物語の世界観の中にはめ込んでいったのだ。

私はいま、天狼院のライティング・ゼミに通っている。
そこでは「ふるさとグランプリ」という、
多くの人が参戦している「メディグランプリ」とは違ったレースがある。

心のふるさとについて書かれた記事が投稿条件だ。

私は10月から天狼院に通い始め、量を書かなきゃダメだ! と思い、
毎週欠かさず、「メディアグランプリ」と「ふるさとグランプリ」の両方に記事を投稿していた。

「ふるさとグランプリ」といっても、ひとりの人間に、何個もふるさとがあるわけではない。
結構ネタが切れてくる。
(だから記事投稿も「メディアグランプリ」に比べると少ないのか……)

私は学生時代に行ったバックパッカー旅行のネタが切れてからが大変だった。
自分のふるさとを探さねきゃならないのだ。

ふるさとって何かな?
自分の心のふるさとは何だ?

と毎週木曜日の締め切りに向けてもがいていると、あの小説家のことを思い浮かべていた。

あの小説家とは……
毎年、ノーベル賞の受賞発表のシーズンになると世間からの注目を一気に集めるあの小説家だ。

その小説家とは……

村上春樹だ。

多くの人が名前ぐらいは聞いたことがあると思う。

私は就職活動で、もがき苦しんでいた時に彼の小説を読みふけっていた。

社会に出て、いろんな挫折を経験して、自分は世界の中心でないとわかり、
変なプライドが消えてから、やたら彼の小説が気になるようになったのだ。

自分の中にあった無駄なプライドが消えてから、す〜と彼の文章が心にしみるようになった。

独特な文体が心地良くなったのだ。

村上春樹は小説を書く際に、何よりも自分の中にある音楽を大切にしているという。
自分が持っている独特なリズムを文章に落とし込めているのだ。

大義名分のもと、自分をいかに大きく見せるかにこだわって生きてきた私は、
一歩立ち止まり、社会に出ていろんな挫折を味わう中で、余計なプライドなど捨ててしまった。

そうしたら日々の生活に眠る些細な出来事や家族のことが、どれだけ愛おしい存在なのかが理解できるようになった。

一歩立ち止まって世界を見るようにしたら、ありふれた日常や芸術性に気づけるようになったのかもしれない。
村上春樹の小説が持つリズムが居心地良くなったのだ。

無駄なレッテルにとらわれていた自分には、ありふれた日常こそ、愛おしい存在であることに気付けなかったのだ。

村上春樹は世界的に人気だが、彼の小説はほとんど、自分の心のふるさとを文章にしているにすぎなのかもしれない。
自分の思い出の地を小説という物語に落とし込んでいる。
ありふれた日常を小説で描いている。

「ノルウェイの森」も早稲田での思い出の話だし、
「世界の終わりとハートボイルドワンダーランド」も20代に住んでいた、
千駄ヶ谷周辺の物語だ。

私は村上春樹の小説「1Q84」を手に持って、高円寺を歩きながら、
ふと思ったことがあった。

ありふれた日常を切り取り、自分なりの角度で身の回りの世界を見つめることこそが、彼のように世界に通じるコンテンツを作る鍵になるのかもしれない。

海外の人も特別に面白い物語を求めているわけではない。
日々の暮らしの中、ありふれた日常の大切さに気づかせてくれる小説が世界の人に読まれるのだ。

特別に自分を大きく見せなくていい。

天狼院の「ふるさとグランプリ」で毎回投稿していくと、自分の身の回りをあらゆる角度で見つめるようになった。

きっとその中から世界に通じるコンテンツが眠っているのかもしれない。

そう思って私は毎週木曜日の締め切りに向けて記事を書いている。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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