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ふるさとグランプリ

仕事にマジメな茨城のヤンキー《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:サイ・タクマ(ライティング・ゼミ)

午後6時を過ぎた新宿三丁目の薄暗い雑居ビル。蛍光灯が白い光を明滅させている。
その2階のアパートの一室で、外国人相手に電卓を叩く若い男。
「これね。オッケー??」
電卓の液晶を見せながら、眼光鋭く相手を見据える。
黒のキャップを被り、宇宙の柄をあしらったストリートブランドの長袖Tシャツ、首に黒いチェーンを垂らしている。風貌からして、筋金入りのヤンキーといった感じだ。

一見、面食らう。ここに来て最初に彼を見た私も、事実、ほんの少しだけ躊躇した。
ここは入っていい場所なのかと躊躇した。
だが、実はこういうヤンキーの兄ちゃんのほうが、下手な大手ショップより確かな仕事ぶりを発揮してくれる場合が多い。ここだ。ここにしよう。彼ならこの仕事を任せられる……。
私は順番を待ちながら、決意を固めた。

駅の階段でふとした拍子にiPhoneを落とし、液晶がバリバリに割れた。
割れてしまうとあっけないもんだ。亀裂をなぞりながら、溜息が出た。
都内にいる間に、ディスプレイの修理を行ってくれる業者を探さなければ。
修理業者は探せば沢山あるわけだが、信頼のおける技術者なのか、また、気持ちよく修理してもらえそうかどうかは、実際に会ってみないとわからない。
ルーペを片目につけた時計修理工の姿も消えた昨今、ケータイ修理ショップはいわばお客と職人のナマ感を味わえる数少ない場所だと言えるのではないか。

これは自分なりの仮説なのだが、「手に職をつけたヤンキーは仕事にマジメ」だ。
転勤で茨城にやってきて驚いたのは、工場に勤める茨城産のヤンキーのマジメさに対してだった。仕事にかけるその熱心さは、誠実の二文字が似合う。
ヤンキーは物怖じしない。ヤンキーは自分の腕に自信を持っている。
経験を糧に自分の腕に自信を得たヤンキーは、自分の仕事にプライドを持つようになる。
だから、ヤンキーの仕事には、信頼が置ける。
私が仕事で関わった茨城のヤンキーは、おしなべてこのタイプが多かった。

目の前にいるこの兄ちゃんも、こちらに近い目線でざっくばらんに話してくれるので、話が早い。
話が早い、というのは、いわゆるマニュアル一辺倒の融通の利かなさやもどかしさがないということだ。
先客の外国人に対しても、丁寧語を捨ててあえて「タメ語」で話をすることによって、言葉が丁寧かよりも言葉の意味が伝わるかを優先したのだと思われた。
不思議なもので、下手なカタコト英語よりも、友達並みにくだけた日本語で話したほうが、相手に自分の言いたいことが伝わるケースがある。彼はそれを知っているのだと思われた。
ためしに例外的な質問もしてみたが、帰ってくる答えが気持ちよい。
私は彼に修理を依頼した。

彼は仕事に取り掛かると、テキパキと真剣な目で作業を始めた。
修理に取り掛かっている間もお客さんの応対や電話対応を一人でこなしているのだが、礼儀正しく、見た目に反して物腰はソフトで、仕事ぶりが気持ちいい。
動作確認の時も、こちらよりよっぽど真剣な目で見てくれるのである。
目つきがマジ、なのだ。呼吸を止めて1秒、そこから何も聞けなくなる。
タッチした画面が光った。動作に問題はないようだ。

支払いを済ませて、このお兄ちゃんに任せてよかったなあと満足しつつ、帰ろうと席を立ったその時、背中の向こうから大きな声が聞こえた。
「えっ! お客さんって、絹の台なんですか?」
振り返ると、問診票に書いた私の住所を見て、兄ちゃんが目を剥いている。
「??」首を傾げる。
「いや、ああ、スイマセン。オレ、常総市出身なんスよ」
「エッ! そうなんですか!!」
常総市といえば私が住んでいるところの隣の市である。

「常総っつっても、水海道の近くなんですけどね」
「もっと近いじゃないですか!」
前の年に茨城県で起こった大規模な水害の話で盛り上がった。
あの水害は大変でしたねえ。俺はもうこっち(東京)に移ってたんで、大丈夫でしたけど……。
災害というのは、こういうときに心の距離を縮めてくれる。
みんなが生活の延長で、今ここにいる。同じ空の下。そのことを思い出すのだ。
「失礼ですけどお客さん、歳いくつっすか」
「今年で30になります」
「あ、じゃあ1個下の世代かあ」
「やばい! センパイじゃないですか」
「ちょっと今自分の名前は言えないんすけど、たぶん地元でオレっつったらわかりますよ」
と言って、兄ちゃんは照れくさそうに長袖を少し捲ってみせた。
「ココまでコレが入ってるの、オレひとりなんで……」
手首まで濃厚な‟イラスト“が入ったさまを見せてくれた。
「ヤンチャしてたんですか?」と言って笑いあった。

「いやあ、お兄さんに頼んでよかった。仕事にマジメですよね。怖いお兄ちゃんかなあって、ちょっとビビりましたけど、最初」と笑いながら打ち明けると、
「オレ、自分では超! マジメだと思ってるんで」と言って、背筋をピッと立ててニカッと笑った。
それを見て、私は心の中のいいねボタンを押した。

スリッパを履いていても、靴下がアンパンマンだったことを私は見逃さない。
家ではかわいい子どものパパをやっているのだろうか。
それにしてもアンパンマンの靴下に大人サイズがあるのか、折を見て調べてみなければならない。
また一つ、茨城のヤンキーは仕事にマジメだというささやかな仮説の裏付けが取れた夜だった。

***

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