メディアグランプリ

大掃除にてライティング・ゼミを想う


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:犬井ジロ(ライティング・ゼミ)

「5時半には家を出ようよ。それまでにビシっと終わらせるからさ」

そう宣言して、私はキッチンの大掃除を始めた。
新年開けて1月3日、午後2時半のことだ。年末ならぬ年初大掃除である。

「うん。わかった」

連れ合いは、にこにこしている。
どうせそんな事言ってても6時過ぎだな、と、思っているに違いない。
無理もない。私って奴はだいたいいつも、なんでも遅れてしまう。
年末大掃除だって……

いや、一応年内に終わらせようという気持ちはあったのだ。まあでも、うん。暮れはなんやかや用事が入りがちで。予備日を入れて3日もあった大掃除のスケジュールは全て、他の予定に書きかえられて。そのまま正月を迎えてしまい、三が日の挨拶まわりやらの合間に掃除をする羽目になったのだ。

ぱぱっと終わらせよう。まずは換気扇だ。

この部屋に越して来て1年半。初めての換気扇掃除だ。
ファンと外枠をはずして良く見ると、内枠や外につながるルーバーに、油とほこりががっちりタッグを組んでこびりついている。

これは……この汚れは落ちるのか?

ずいぶん前に購入したものの全く使っていなかった強力洗剤をひっぱり出し、原液のまま、分厚いキッチンペーパーにつけて拭いた。が、拭けない。汚れの粘度が高すぎる。ならば、と、キッチンペーパーに洗剤をしたたるほどしみ込ませ、汚れに張り付けようとした。そのまましばらくおけば、汚れが溶けるかもしれないと思ったのだ。が、張れない。キッチンペーパーはペロっと重力に負けて落ちてしまう。洗剤が飛び散った。そこで落ちたペーパーを拾ってもう一度、指先に力を入れ、汚れをはぎ取るように、こそいだ。するとやっと、しぶとい汚れがくっついてきた。

よしよし。これで行こう。

キッチンペーパーを何枚使っただろうか。気がつくと小一時間たっていた。思ったより時間を食ってしまった。換気扇はもういいことにして、と取り外したファンと外枠を洗って取り付ける。すると、周りの壁がうっすら汚れていることに気がついた。

せっかくの大掃除だ。壁も拭いておくか。

洗剤と雑巾でざっと拭いた。たったそれだけだが白くなったように見える。そうなると、さっきまでは気にもとめなかった換気扇のひもや、電源コードが妙に黒っぽい。ここまで来たらやるしかない。黒い汚れを雑巾ではさんでこすり取った。換気扇終了。

続いてレンジ周りの焦げ付きをはがした。流しと排水溝をピカピカにして、冷蔵庫を上から下まで磨いた。時計を見ると5時少し前。

もういいかな。出かける準備もあるし。

と思いきや、洗った食器を置いておく水切りカゴが目に留まった。まわりが少しきれいになると、カゴの汚れが目立って見える。そういえば、ほとんど洗ったことがない。

これを洗って終わりにしよう。

小さいシンクで苦労しつつ丸洗いしたが、思ったほどにはきれいにならない。

なぜだ? 

この水切りカゴはステンレス製のシンプルな作りだ。格子状になったステンレスの、交差部分の一つ一つに、黒っぽい汚れがたまっている。

この黒ずみを落とせばいいのか。

使い古した歯ブラシを持ち出して、その細かい作業にに取りかかった。大雑把にこすっても落ちないが、一カ所で歯ブラシを細かく動かすときれいになる。ひとつひとつ、全ての黒ずみを制覇した時にはもう、5時半をすっかりまわっていた。

しまった! まあ、仕方ない。身内の用事だから少し遅らせてもらえばいいか。

……ん? なんかこういうの、知ってる。ごく最近、これに似た経験をした。

……ああ、そうか。ライティング・ゼミの課題だ。

去年の暮れの12月19日、私は朝からライティング・ゼミの初の課題を書いていた。19日の夜11時59分が締め切りだと、前日の講義で知ったのだった。
夕方から用事があり、4時には終わらせなければと必死で書きあげたのが4時半。アップロードは後にしようと大急ぎで出かけ、11時すぎに帰宅した。提出前にもう一度、と読み返したところ、まあなんというか、雑。まだ少し時間があるからと修正し始めた。語尾を合わせたり、わかりにくいところを書き直してみたり。そうこうするうち、気づけば深夜0時をまわっていた。

しまった! 締め切りが! まあ、仕方ない。雑なまま出すよりは良かったか。

その日から次の締め切りまでの一週間、ほぼ毎日、課題のファイルを開いては書き直した。 一カ所なおすと、ほかのところがダメに見えてくる。そこに手を加えると、また別の箇所が気になる。書き足したり、省いたり。あれこれいじっているうちに訳がわからなくなってくる。一度整理しよう、と頭から読み直すとまた新たに、おかしなところ、が見つかる。
結局、書き終わった、と思えるまでに一週間を丸々使い切ってしまった。

掃除は一カ所きれいにすると、他の汚れが目立つ。それを磨くと、また別の場所が汚く見える。文章も同じだったな……そういえばライティング・ゼミで三浦さんが「修正するより書き直した方が早い」と言ってたっけ。あれは本当だったなあ。

と、妙に納得しながら、シンク下の扉と床まできれいにしてしまった。気持ちがいい。素人仕事ではあるが、キッチン全体が明るくなった。少し広くなったようにさえ感じる。

さあ、出かけよう。

汚れた手を洗おうと、換気扇を回してお湯を出した。手が湯に触れたところが、ピリピリとしみて痛い。

なんだろう?……ああ、そうか。強い洗剤を使ったから手が荒れたのかな……ふうん。そういうところもちょっぴりライティングに似ているな。最初の課題ではなぜだか、思い出したくない過去や、見たくもない自分のダメさ加減を文章にしてしまって、心が荒れたもんなあ。

私にとって、ライティング、という行為は強力な洗剤でもあったようだ。痛みもあったが、同時に、心にこびりつい汚れも随分と洗い出した。課題を書き終えた後、出来映えは別として、気持ちがすっかりと整理されていた。

「換気扇、音が変わったね」

声に驚いて振り向くと、連れ合いがすぐそばに立っていた。

「ああ、びっくりした。そう?」

「うん。勢いが良くなった」

見上げると確かに、換気扇はブンブンと気分良さげに回っていた。

***

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2017-01-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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