池袋にある怪しい本屋さんには一度行くと二度と抜け出せなくなるから、行くなら覚悟を持つ方がいい。《プロフェッショナル・ゼミ》
*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2月開講申込みページ/東京・福岡・京都・全国通信】人生を変える!「天狼院ライティング・ゼミ」《平日コース》〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
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稲生雅裕(ライティングゼミ・プロフェッショナル講座)
「何だここは!?」
池袋にある天狼院書店というちょっと変わった名前の本屋を訪れた時、始めに抱いた感想は、そんな感じだった。池袋駅から徒歩15分くらいかけて、本当にこの道であってるのか、何度もGoogle mapとにらめっこしながらたどり着いたその本屋は、本屋ではなかった。そして、この本屋との出会いを僕は後に非常に後悔することになる。
階段を登りガラスばりのドアを開けると、目の前に飛び込んできたのは店いっぱいに敷き詰められたお客さんと、それに対峙するように話している、黒いシャツを着た少し強面で、綺麗に頭が剃り上げられた怪しいおじさんだった。若くて綺麗な店員さんに、こんにちは、と声をかけられたが、その光景にあっけに取られてしまい、上手く返事をすることができなかった。
あれ、自分は本屋に来たはずなのに、なんか宗教みたいなことが行われている。
来ているお客さんは熱心にメモを取りながら、時には頷きながら、真剣に怪しいおじさんの話に聞き入っている。対するおじさんの方は、絶えず口元に笑みを浮かべながら何かの講義をしていた。しかも、そのおじさんが座っている畳の上にはコタツが置いてあるのだ。その時は夏だったにも関わらず! さらに、その怪しいおじさんは片手にマジックを持ちホワイトボードに何かを書き込んでいた。そこには「ABCユニット」と名付けられて謎の図が書かれていて、「いやー、困りましたねぇ。本当は教えたくないんですけどねぇ」などと言いながら、黒服のおじさんは相も変わらずニヤニヤとしながら話を続けていた。
お店の中を見渡すと、確かに壁一面や入り口付近に本は置いてあるので、本屋であることは間違い無いようだった。
どうやら、場違いな場所に来てしまったらしい。
そう思って、帰ろうとすると、再び美人の店員さんに話しかけられた。
「初めてご来店されましたか?」
「あ、はい。ここは本屋なんですよね?」
「もちろんです。ただ、今日はライティング・ゼミ、というゼミをやっている日でして。ライティング・ゼミというのは、うちの店主でもあり、プロのライターでもある三浦が、お客様にプロのライティングスキルを伝授する大学のゼミのようなものです。三浦がこれまで自分がライターとして食べていくために経験値として蓄えて来た、いわば老舗洋食店の秘伝のソースのようなものを教えていて、この講義を受けてネット上でバズる記事を出した人も沢山いるんですよ。あ、講義中で狭いですが、本を見ることは全然可能なので、よろしければ是非」
「へぇ、そうなんですね。ありがとうございます」
胡散臭い。本当にそんなんでライティング・スキルが上がるようになるのか?
きっと、あの黒シャツのおじさんが三浦さんという店主なのだろう。書店員の店主にしては強面過ぎないだろうか。書店員の店主といえば、もうちょっと気弱そうで、ひょろっとしていて、丸メガネなどをかけているものではなかろうか。それに対して、三浦さんはエネルギッシュなオーラが体中から溢れていて、顔はつやつやで精力的だし、お世辞にもひょろっとしているとは言えないような体型をしている。なんだか、色々と裏切られたような気分になりながら、結局その日は何も買わずに天狼院書店を後にした。ただ、店員さんが美人だったという記憶が色濃く残っていた。
天狼院書店のことを知ったのは、都内でちょっとお洒落な本屋を探している時に、たまたままとめサイトか何かで見かけたのがきっかけだった。住んでいるところから近いということもあり、特に予定も無かったので訪れたのだが、なんだか衝撃的な本屋だった。それに、あの美人の店員さんが言っていた「ライティング・ゼミ」というゼミのことがどうにも気になって、訪れた日の夜、天狼院書店のホームページを訪れてみた。
すると、そこには、その「ライティング・ゼミ」を受講している方によって書かれた記事が沢山掲載してあった。そのクオリティは本当に素人が書いたのかと思えるものばかり。何より、書店スタッフの方達の記事の質の高さは、さらに群を抜いていた。本当に普段彼ら、彼女らが大学生であったり、普通に働いていらっしゃるとは、想像がつきにくかった。しかも、1記事あたりの分量がそこまで多くないので、気づけば次から次へと記事を読みあさっていた。記事の最後には、「ライティング・ゼミ」の案内ページのリンクが貼ってあり、そこには「人生を変える」と銘打った文句が書かれていた。
−人生を変える。
楽に生きるとか、うまく生きるとか、そう言った類の自己啓発の本は何冊も読んで来た。でも、自分がそれで読む前より上手に生きられるようになったのかと聞かれた、決してそんなことは無いように思えた。でも、この「ライティング・ゼミ」だけは、何故か、受けたら本当に人生が変わるかもしれないと思わされた。それは、もしからた案内文がとてもうまかっただけかもしれない。そこには今まで普通の女子大学生がゼミを受けていきなりライターとしての素質をメキメキと表し始めただとか、お客様の記事が何百万回も読まれているだとか、はてなブックマークを尋常無いほどされた書店員がいるとか、普通の人が普通じゃなくなる可能性を秘めている、そんな文章だった。
実は、この書店に訪れた時、自分には何も無かった。ビジネスマンとしての職も、一人で食っていけるだけの何らかの実力も、社会的な信頼も、文字通り何一つなかった。そして、大学生でも世間的にいう何処かの企業に属した社会人でもなかった。いわば、落ちるとこまで落ちていて、もうこれ以上落ちるとしたら、住む場所を失うとか、家族が急に亡くなるとか、そんなことしかないように思えた。バイトで手に入れたなけなしのお金を投資するのなら、ここしかないと思えた。気づけば、案内文の最後の申し込みページのリンクに飛んでいた。そして、2週間後には今度は自分がゼミを受ける側として、店主には見えない店主、三浦さんの圧倒されるような熱く、力強い講義を受けていた。例の「ABCユニット」の秘密もしっかりと体得することに成功して、自分のコンテンツ力が評価されて、何と半年間無職の状態から正社員への切符を手にすることができた。本当に自分の人生が変わってしまったのだ。
「ライティング・ゼミ」でしか天狼院書店を訪れることのなかった僕であったが、ゼミで何度も天狼院書店を訪れるたびに、どんどんとその魅力取り憑かれて、すっかりと抜け出せなくなってしまっていた。
僕が初めて訪れた時に出会った美人店員さんを始め、天狼院書店のスタッフには魅力的で、話好きで、気さくな人が多い。例えば、天狼院書店オープン当初からインターンとして関わり、今では立派な書店員を務めている石坂くん。彼は、見かけは非常に好青年で、多分普通に高校とかで同じクラスであったら仲良くなっていなかったかもしれないタイプの人だが、たまたま年齢が同じということもあるのか、書店員さんの中では比較的すぐに話をするようになった。そんな石坂くんとは、月に1度「Soup.」というお洒落な20代の女性が読む雑誌に出てくる女の子について語り合ったりする。どうやら僕と石坂くんの女性の趣味はまるで正反対のようで、いつも話していて面白い。また、大手IT企業から転職してきた書店員の今村さん、通称まむさんは、誰とでもすぐに距離を詰める才能があり、訪れるお客さんといつも笑顔で話している。そんなまむさんはお酒が大好きで、不定期で天狼院書店をBARに見立ててイベントを開催している。まむさんと本の魅力に惹きつけられた人たちが、集まり色々なことを語らいあっているらしい。本屋なのにBARをやってしまうあたり、やっぱり普通の本屋と違うみたいだ。
そうそう、語り合うといえば、天狼院書店には「ファナティック読書会」というイベントが存在する。お客さんたちが、テーマに沿って、自分が好きな本について熱く、いい意味で狂ったように語るのだ。本当の本好きが勧める本なのだから、面白くないはずがない。自分が知らない世界が、たった一回の読書会でどんどん拓けていく。しかも、みなさん紹介するときの熱さが半端ではないのだ。本の面白さがグイグイと伝わってくる。最近面白い本読んでないなぁと感じたとき、「ファナティック読書会」に参加すれば、必ず、自分がカバーしていない範囲の本を知ることができる。天狼院書店の本棚には、「ファナティック読書会」で選ばれた本や、お客さん自身が作っている本棚が存在する。だから、普通の本屋であればで合わなそうな本や、Amazonのオススメからは絶対にたどり着けないような本に出会うことができるのだ。僕が思わず惹かれてしまったのは、仏像の本棚。全く興味がなかったのに、ついつい手を伸ばしてしまった。
「ファナティック読書会」のようにお客さんとの交流を図ることができるイベントは他にもあるらしいのだが、天狼院書店にいるとたまたま訪れたお客さんと仲良くなってしまうこともある。そんなお客さんの中に、僕が心の中で先生と呼んでいる中学生の女の子がいる。その子との出会いは、たまたま天狼院書店のカフェスペースで先ほど紹介したスタッフの石坂くんと話している時だった。その子と石坂くんは知り合いだったようで、普通に挨拶をしていたのだが、びっくりしたのは両手に大量の本を抱えていたことだった。本屋だから、本を買うことは何も不思議ではないのだが、中学生にして、これだけ大量の本を、しかも漫画とかではなく近代の小説ばかり、束にしてレジに持って行っていたのだ。僕はただただすごいと思い、その子に話しかけた。その子によると、将来は小説家になりたいらしく、今も自分で書いている小説があるらしい。オススメの小説を聞くと、随分といろいろな小説を教えてくれた。さらに聞けば、学校の図書館の本は全て読み終えてしまったらしい! これで先生と呼ばずしてなんと呼ぼうか。この子とは、一回限りの出会いかと思ったのだが、なんと年の瀬にたまたまもう一度天狼院書店で会うことになる。しかも、その時買っていたのが、トマ・ピケティの「21世紀の資本」。あの、白くて分厚くて、大人でも読むことを躊躇するよな経済書だ。
お客さんだけではなく、一緒にゼミを受けている受講生からもたくさんの刺激を受ける。特に、ライティング・ゼミの上位講座でもあるプロフェッショナル・ゼミには十人十色の人たちが集まっている。年齢も性別も仕事もバラバラ。全く異なるバックグランドの持ち主達が、書くことを極めたいという一心だけで集まっている。天狼院書店に来なければ仲良くなることはおろか、決して出会わなかった人たちだ。彼らの文章力は普段は別の仕事をしている一般の人とは思えない。もちろん、そこには日頃から積み重ねられた努力があるのは当然だが、それでもその内の何人かは、僕がいうのは非常におこがましいが、確実に今年中にデビューをすると思う。ライティング・ゼミでも、プロフェッショナル・ゼミでも非公式のfacebookページに毎週ゼミの課題を投稿する。毎週毎週、プロ並み、もしくはそれ以上の文章を読むことができる。中には、「今回は合格でも天狼院のwebには載せないでください」というものが存在する。なんという贅沢だろうか。将来確実に作家デビューする人たちの未公開作品を読み放題というわけだ。別に、昔から知り合いだったんだぜ、とドヤ顔をする気は毛頭ないのだけれど、やっぱりちょっとニンマリとしてしまうのは事実だ。特に、安達美和さん、市岡弥恵さん、小堺ラムさんの文章はそこらへんのウェブで読めるような小説より断然面白い。未来の小説家たちの文章は天狼院のウェブサイトで読むことができる。本当は教えたくないんだけど、是非検索して欲しいなと思う。
しかし、全くもってこの不思議な本屋との出会いは不覚だった。気づけば月に給料の4分の1程度はこの本屋に消えている。お金だけではない。自分の職場での役職上、平日は帰るのが遅くなってしまうため、土日は貴重な休みの時間なのに、ゼミの課題を書くのに少なくとも3時間を要する。もちろん、全くパソコンを叩くキーが進まずに何時間も経ってしまって、結局何も生まれず、提出もできず、一体今週の土曜日はどこに行ったんだ、ということもある。書く時間を他に当てれば、お酒が飲めたり、映画が見れたり、友達と遊びに行けたり、色々なことができる。それでも、僕が時間を書くことに費やすのは、きっと、止まりたくないからだと思う。書くことをやめても誰も困らない。ゼミをやめたって、天狼院にはいつでも遊びに行ける。でも、それじゃあ自分に負けた気になってしまう。もっともっと高みに行きたいと思ったら、立ち止まるわけにはいかない。それに、周りのライバルのゼミ生を見ていると、余計そんな気持ちになってくる。
天狼院との出会いからもう10ヶ月も経ってしまった。噂によると、京都にもまた天狼院書店がオープンするそうだ。福岡にも遊びに行けてないので、またお金と時間をかける場所が増えてしまった。三浦さんは、お金と時間をかけても良いもの、それがコンテンツだとおっしゃっていた。天狼院書店はまさに、究極のコンテンツだ。
すっかりと天狼院書店に依存しきっている自分だが、この関係はまだやめられそうにない。
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この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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