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僕は東南アジアを放浪して、これからは書店の時代だと確信した


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:菊地功祐(ライティング・ゼミ)

「パシャ!」

丘の上から見えるラオスの古都ルアンパバーン。
その街並みをスマホで写真を撮る観光客に混じり、なんだか浮かない顔の旅人がいた。

観光客は皆、スマホで写真を撮る事に必死だ。
しかし、その旅人だけは写真を撮る事を躊躇していた。

今の時代、たとえ地球の裏側に行っても、どこに行っても、スマホを持った人がいる。
聞いた話によると、あのマサイ族ですらスマホを持っているらしい。

ベトナムから24時間も揺れる国際バスに乗って、ラオスにたどり着いたその旅人は、そんなスマホ時代の到来に飽き飽きしていた。

スマホで写真を撮っても、その写真を見直すことがあるのか?

せいぜいフェイスブックに投稿するくらいではないのか?

本当に心に残る景色は、写真などに収まらない。
ずっと記憶に残り、その人自身の風景になる。

そう思って、その旅人は旅をしている間、なるべくスマホを開かないようにしていた。

その旅人とは僕だった。

僕は去年の7月からバックパックを背負って旅に出た。

直前に駅前の本屋で「地球の歩き方」を買って、出発4日前に飛行機のチケットを取った。

行き場所はどこでもよかった。
ひとまず日本から逃げられればよかった。

その時、僕は精神的に本当に狂っていた。
新卒で就職した会社は、過酷だった。

自分で好きで選んだ道だったが、現実はそう甘くない。

同期は次々と辞めていった。
今思うと、いい先輩に囲まれていて恵まれた環境だったと思う。
しかし、当時の僕にはそんなことに気づきもしなかった。

連日深夜まで続く残業に精神が磨り減っていたのだ。
1日30分しかねれない日が4日ほど続いた。

始発の電車に乗って、家に帰ろうとしていると、
気づかないうちに駅の線路に吸い込まれそうになった時もあった。

その時は、ホームに電車が入ってきていた。

ふと、我に帰り僕はホームに倒れこんでいた。

電車がいつものようにホームに入ってきた。

停車する電車。ドアが開き、人がドバッとホームに降りてくる。
僕はホームに一人しゃがみこんで、唖然としていた。

自分がした行動に驚いたのだ。

本当に無意識だった。
全くその気がないのに、ホームに入ってくる電車が迫る中、
線路の方へ吸い込まれそうになったのだ。

僕は結局、会社を辞めた。

「辞める」と言った記憶すらない。
気づいたら辞めることになっていた。

上司に相談した記憶がないほど、その時の僕は精神的におかしくなっていたのだと思う。

家に2週間ほど閉じこもった。

閉じこもり、途方に暮れていた。

新卒で入った会社をたった数ヶ月で辞めた人間を受け入れてくれるほど、社会は甘くない。

SNSに流れてくる大学の同級生のつぶやきなど、一切見れなくなった。

そして、結局僕は逃げるようにタイ・バンコク行きの格安航空券を予約し、
日本を離れることにした。

沢木耕太郎の「深夜特急」に憧れて、バックパッカーをやってみたかったと言えば、聞こえがいいかもしれないが、当時の僕にとって、旅はただの現実逃避だった。

ただ、日本から離れたかったのだ。
社会からはぐれた人間を受け入れてくれる場所を探していたのだ。

スワンナプーム国際空港にたどり着き、人混みに流されるままに
バンコク中心部にあるカオサン・ロードにたどり着いた。

そこはバックパッカーの聖地と言われている場所だった。
安宿が集中していて、世界中からバックパッカーが集まっていた。

毎日夜中の2時過ぎまで大騒ぎだった。

慣れない英語を使って安宿にチェックインした。
一泊3ドルほどの宿だ。日本円にして300円。
もちろんエアコンなどない。

鉄格子で囲まれた窓の前に、使い古されたベッドが置いてあるだけの部屋だ。
ベッドの横になって、僕は天井に吊るされたファンを見つめていた。

ぐるぐると回っているファン。
一泊3ドルの安宿ではファンの音とカオサン・ロードの騒音しか聞こえてこない。

どこに向かって歩けばいいのか?

そう思って途方に暮れていた。

僕はとにかく行動しようと思い、中心地にある駅を目指すことにした。

朝の4時過ぎに街の中心外にある駅に向かい、ホームレスと混じって駅の中で眠った。

バンコクの7月は蒸し暑い。

経済成長が著しいバンコクは、東京オリンピックで盛り上がっていた1964年当時の日本のようだった。

高層ビルが次から次へと立ち並び、人々の生活が一変しつつあった。

バンコクの中心外のサイアム・スクエア周辺など、東京のお台場よりも発展しているんじゃないか? と思うくらい、最先端の都市に生まれ変わっていた。

経済成長が著しいバンコクの中でも、取り残されている人々もいた。

都市が発展すると同時に、スラム街も広がる。

高層ビルの間には、貧しい人たちが暮らしていた。
雨宿りができるくらいのプレハブの家だった。

僕はそこで、富む人が生まれると同時に、貧しさも生まれる社会の仕組みを学んだ。

経済発展は、裕福な人を生むと同時に、貧しい人間も生んでしまう。

世界中が均等にお金持ちになって、豊かに暮らすことは不可能なのだ。

裕福な人が生まれる一方で、その分貧乏になる人が出てくる。
そのおかげで、経済が回っているのだ。

僕はその貧しい人たちの中に混じって、途方に暮れていた。

どこに向かっていいのかわからなかったのだ。

どこに向かって歩けばいいのかわからなかったのだ。

行き先がないまま、カンボジアとタイの国境沿いの町を目指すことにした。

約5時間の電車移動だ。
車窓から見える風景を眺めているうちに、再びバンコクの現実を目の当たりにした。

高層ビルが立ち並んでいるエリアを通過すると、景色が一変してスラム街が広がるのだ。

電車が駅に停車すると物乞いの子供達が押し寄せてきた。

手作りの饅頭のようなものを売っているのだ。

僕は買うことができなかった。
その饅頭には睡眠薬が入っていることを知っていたからだ。

僕が日本から唯一持ってきたものは「地球の歩き方」という本だった。
そこには世界を旅した旅人たちからの情報が載っていた。

その本の中には、
電車内にいる物売りには注意! 食べ物の中に睡眠薬が入っていて、眠らされている間に貴重品が盗まれたという報告がびっしりと書かれていたのだ。

もちろん全ての物売りがそんなことをするとは限らないが、
実際に被害にあった日本人が多くいるのも事実だ。

結局、僕は乞食たちが差し出してきた饅頭を手に取ることはなかった。

電車が終着駅に近づく頃、同じ車両にいたバックパッカーに話しかけられた。

どうやら一緒にトゥクトゥクに乗って、欲しいということだった。
二人で乗ったら半額で国境まで行けるのだ。

普通にオーケーと答え、僕はそのバックパッカーと一緒に国境まで目指すことにした。
彼はオランダから来たバックパッカーだった。

彼を見て不思議に思ったのが、常にipadを開いて、Googleマップを見ていたことだった。

ふと、僕は他の乗客を見てみた。
国境に向かう電車なので、多くのバックパッカーが乗っていたが、
みんなスマホをいじっていた。

彼と一緒に国境まで進んだ

国境についても彼はipadをいじっていた。

何を調べているのか気になり、彼に話しかけてみることにした。
一体何でいつもipadを開いているのか?

「今日泊まる宿を予約しているんだ」

僕は驚いた。

今の時代のバックパッカーは、スマホやipadで宿を予約しながら旅をしていたのだ。

その後、僕はアンコール・ワットを拠点とした街シェムリアップにたどり着くことになるが、そこの宿で出会ったバックパッカーも皆、スマホで宿を予約しながら旅を続けていた。

僕は行き当たりばったりに現地に飛び込んで、宿を探すのが旅だと思っていた。

これまでにインドなどに行ったことがあるが、そこでも「地球の歩き方」を手に取り、勢いに任せて現地の人に安宿などを聞いて、泊まる場所を決めていた。

行き先もその場のノリで決めていたのだ。

だが、インドを旅している時も感じたのだが、日本人や外国人を含めて、
世界中のバックパッカーはスマホ片手に旅をしているのだ。

バックパックを背負っているが、泊まっている宿は一泊1500円ほど、
日本円の感覚で8000円ほどの宿に泊まる旅人が圧倒的に多かった。

僕のような貧乏旅行をしている人なんてほとんどいなかったのだ。

みんなバックパッカーぽい旅に憧れて、旅に出ているように感じた。

旅人というライフスタイルに憧れて、スマホ片手に見様見真似に、旅を続けている。

そういう時代なんだなと思った。

スマホで現地の情報を得ながら旅した方が圧倒的に楽だし、自分だけのオリジナルの旅が体験できる。

しかし、スマホから得た情報で、擬似バックパッカー的な旅をしても、
その人の心に残るのだろうか?

僕はその後、ベトナムやラオスも巡った。
現地で出会ったバックパッカーには世界一周中の大学生や脱サラした社会人がいっぱいいた。

みんな生き生きと自分の旅について語っていた。

だけど、正直僕は違和感を感じていた。

みんなスマホで安宿を予約して、旅している感じを装っている風にしか見えなかったのだ。

今の時代、世界一周しようと思ったら案外簡単にできてしまう。

世界中にLCCの格安ジェット機が飛んでいるため、安い移動費で旅を続けられるのだ。

ちなみに僕はタイまでの往復航空券は2万2千円だった。

東南アジアを一ヶ月ちかく旅したが、旅費はトータル10万円ほどで済んだ。

スマホ一つあれば、現地の思い出を写真に残せるし、安宿の情報などもすぐに調べられてしまう。格安航空券もすぐに買えてしまう。

だけど、その旅ってその人自身の思い出になるのか? と疑問に思ってしまう自分がいる。

現に僕は東南アジアを放浪して、数多くの写真をスマホで撮ったが、
日本に帰ってきてから見直すことがほとんどなかった。

リアルじゃないのだ。
スマホにある写真やデータはどうしても感情移入できないのだ。

思い出深いのは、ボロボロに擦切れるぐらいに使った「地球の歩き方」だった。
本だったのだ。

やはりスマホの画面で移される文章よりも、手に持てる本の方が、愛着がわくのだ。

僕は「地球の歩き方」を片手に持って、数々の困難を乗り越えてきた。
ラオスまでの24時間にもわたる国際バスの旅も、その本に書かれてあった
ラオスの秘境の絵を眺めながら耐え抜いた。
ベトナムの旅行会社に金をぼったくられた時も、本からの情報でなんとか乗り切ってきた。

僕の旅を彩ったのは全て本だった。

物理的に手に取れる紙の本は、その人自身にかけがえのない体験を生んでくれるのだ。

電子書籍が普及し始めても、未だに紙の本は絶滅していない。
いくら日本人が本を読まなくなったと言っても紙の本はまだ残っている。

しぶといくらいに生き残っている。

旅から日本に帰った今、僕は池袋にある小さな本屋に通うようになったが、
そこで出会う人たちは案の定、本好きな人たちだ。

一ヶ月で本を7冊以上読む人は日本人の4パーセントぐらいしかいないと
言われているが、ちゃんと本を読む人がここにいるではないか! と思ってしまった。

どこに埋もれていたんだ! と思うくらい、紙の本に愛着を持っている人がいるのだ。

「これからは書店の時代だ」
と信じきって、天狼院書店店主の三浦さんは池袋に15坪の本屋を開店したらしい。

本当にこれからは書店の時代なのだと思う。

「インターステラー」を監督したクリストファー・ノーランはこう語る。

「今の人たちは下ばかり見ている。スマホをいじってばかりで誰も宇宙を見上げない。僕は60年代、多くのアメリカ人が宇宙を目指していたあの時代が大好きなんだ。今の人ももっと宇宙を見上げてほしい。だから、この映画を作ったんだ!」

スマホを持たないことで有名なクリストファー・ノーランは大の読書家だという。
「インターネットから得られる情報なんて、ほんの一部分だ。
図書館に行けば、人類の英知が詰まった本があるではないか?
スマホをいじらなくても、本の中には大切なものが転がっている」

そのように考えるクリストファー・ノーランだからこそ
「インターステラー」のオープニングは本棚から始まるのだ。

人類が移住できる星を探して宇宙探査の旅に出るこのSF映画は、本棚から物語が始まる。

今も昔も世の中を変えていくような人たちは本を読む。
クリストファー・ノーランのように世界トップクラスのクリエイターはみんな本を読んでいる。

人を惹きつけるようなコンテンツを作り上げる人たちは、多くのものを本から得ているのだと思う。

東南アジアを旅しても、自分の居場所を見つけられなかった僕は今、
池袋にある15坪の本屋に入り浸っている。

自分がやっと見つけた小さな居場所だ。

そこに集まってくる多くのクリエイターと話をしていく中で、薄々感じたことがあった。

それは……

「これから世界を変えていくような人たちは、本屋に集まるのかもしれない」
ということだった。

人類の英知が詰まった本に囲まれた空間から世界に羽ばたく人たちが生まれてくる。
そんな気がするのだ。

だから店主の三浦さんが言っていたことは本当なのかもしれない。

これからは書店の時代なのだ、きっと。

***

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2017-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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