私の顔など憶えないでください。
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記事:との まきこ(ライティング・ゼミ)
今日は、ほんとうは近所のあの店に行きたい。でも、昨日行ったばかりだし、先週も2回くらい行ったような気がする。しかたがない。遠出したくない気分だけど、あっちの店に行くか……。
文章を書き始めてから、カフェによく行くようになった。家だとなかなか集中できないからだ。
普段からきれいにしておけばいいのに、書き始めようとするときに限って、窓のよごれが気になって、いきなり窓拭きを始めてしまう。
同居している猫が私の代わりにキーボードを打ってくれることもある。彼はあっという間に2000字を書き上げる。「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっv」ありがた迷惑だ。
図書館もだめだ。静かすぎるせいなのか、妙な緊張感にとらわれて集中できない。パソコン使用可の席であっても、静寂の中に私のキーボードの音だけがかたかたと鳴り響くのは、そこにいる全員の意識になんらかの悪影響を与えているような気がしてならず、落ち着かない。
いろいろと試した結果、文章を書くときはカフェがいちばんいいということがわかった。自分の家じゃないからほかにやることもないし、適度な騒がしさが不思議と集中力を増加させてくれる。
だが、東京中に無数のカフェがあるとはいえ、どこでもいいというわけではない。集中しやすい店とそうでもない店とがあるし、自分の行動範囲内にあるかどうかも重要だ。おのずと行く店は数軒に限られてくる。
そうすると困ることがある。お店のひとに顔を憶えられてしまうのだ。注意深くいくつかの店を代わる代わる利用しているのにもかかわらず、「いつもありがとうございます」とか「コーヒーはブラックですよね」なんて言われると緊張する。常連扱いしなくていいのに。「砂糖とミルクはお使いですか」と100回でも200回でも聞いてほしい。私もそのたびに「結構です」とこたえよう。
「よく来る客」と思われていることがわかっただけで落ち着かないのだ。
コーヒー1杯で長時間居座る客だと思われていないだろうか。
いつもアップルパイで飽きないんだろうかと思われているだろうか。
あるいは、コーヒーをこぼしたり、食器を割ったりといった粗相をしてしまったら。
もう行かれない。
自意識過剰なんだろうか。たぶんそうなんだろう。
よく行っていたレストランに、出入り禁止ではなく、二度と行けなくなったことがある。
そこは、中華風創作料理がおいしい店で、家族でときどき行っていたし、家族それぞれが自分の友人たちとも行くような、私たちのお気に入りの店だった。おまけにわが家の苗字はめずらしいから、予約の電話なんかで、お店のひとの記憶にも残りやすいと思う。
店主と馴れ馴れしく話すほどではなかったが、「よく来る客」としては認識されていたと思う。
ある日、家族とその店で食事をしていたとき、私は病み上がりだったせいもあって、気分が悪くなりトイレに行った。トイレにはだれかが入っていたので、私はドアの前で待っていたのだが、急にめまいがしてその場に倒れてしまった。意識を失ったのはほんの1秒くらいだったと思う。気がついたら目の前に床があり、その床には胃の中のものがぶちまけられていた。
お店のひとは「大丈夫ですよ、気にしないでくださいね」と言ってくれた。家族も私のことを心配してくれて、とがめるようなことは何も言わなかった。
でも、それ以来家族で食事に行こうという話になっても、あの店の名前は二度と出てこなかった。
そういうことがあるから、常連にはなりたくないのだ。なのに、困ったことに最近は知った店にしか行きたくなくなった。歳をとって冒険心が薄れたのか保守的になったのかわからないが、知らない店に行ってがっかりすると、心に受けるダメージが以前より大きいのだ。
それなら、いつも行く店に堂々と常連客として振る舞えばいいのか。
でも「いつもので」と言って、「いつものってなんですか」と言われたら。
常連らしい態度でお店に入ったのに、お店のひとによそよそしくされたら。
いたたまれない。
実際にそういうことがあった。毎月通っていた美容院で「先月と同じようにカットしてください」と言ったら、「先月ってどんなんだったっけ」と言われて、私は深く傷ついた。その美容師とは3年以上のつきあいだったのに。だから、常連客ぶることにとても慎重になってしまう。
私のこの自意識過剰はどうにかならないのだろうかとずっと思っていたが、どうせなら徹底的に自意識過剰になってやろうと最近決めた。過剰な自意識によって感じたことを、見ないふりをしないで、文字にするのだ。そして、知っている人たちに読んでもらう。それを読んでもらったことによって、さらに自意識を増幅させるのだ。
私の書いたこんなことやあんなことを友人たちが読んで、人格を疑っているかもしれない。友達をなくすかもしれない……。そんなこともすべて文字にするのだ。
そのために、私は今日もカフェをさまよっている。
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