28歳で落ちた落とし穴
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記事:紗那(ライティング・ゼミ)
社会人になって6年目。28歳で私は大きな落とし穴に落ちた。
それは突然やってきて、これまでは息をするように普通にできていた前に進む方法がわからなくなった。自分が何をしたかったのか、何を目指してここまで進んできたのかさっぱりわからなくなってしまったのだ。
同時期の学生は皆そうだったと思うが、私は就職活動に苦戦した。ほんの数年前までは売り手市場と言われていたのに、リーマンショックという暗闇が私達の世代の就活戦線を大きく変えた。内定取消し、採用数の大幅減少、そういうフレーズを聞くたびにもう少し早く産まれていればよかったと時代を恨んだ。
当時の私は新聞社でアルバイトをし、大学のマスコミ専門のゼミに通い、新聞記者になりたいという淡く儚い夢があった。しかし、私の希望は現実という高い壁の前に砕け散り、興味のあった業界からは、ことごとくお祈りメールという悲しい返信を貰った。
「好きです。大好きです。どうか、私を受け入れてください!」
というラブレター、いや、悲鳴の声にも近いエントリーシートを送り、拒絶され続ける日々。
不採用通知の数を数えている内に私はもう夢なんて流暢なことを言っていられないと気づいた。就職浪人という選択肢は残されていなかった私にとって、夢を追うなどと言っていられなくなったのだ。生きてくためには少なくとも何かしら仕事が必要なのだ。だから、私は方針を変えた。
これが正しかったのかは今でもよくわからないけれど、世の中にある、ありとあらゆる企業を受けた。軸がブレているとお叱りを受けることも何度もあったけれど、その辺に落ちているチャンスがあるのなら、何だろうが掴みとってやりたいと思っていたので気にせずにラブレターを送り続けた。プライドなんて捨てて、働けるのならどんな仕事でもいいからくださいと這いずり回っていた。
それでも私に採用通知は一向に届かず、面接の帰りの夜道、見上げると見えるかすかに輝く東京の冷たい星を見て涙が止まらなかった。ふと、夜空を見上げただけなのに、何も考えなくてもポロポロと涙が止まらなくなる。その涙がこぼれないようにと上を向くと、目に溜まった涙で空がかすみ、そのかすんだ瞳にはもう何も見えていなかった。
私はこの世の中でどこにもだれにも必要とされていないのだ。私の生きてきた21年間は全部無意味だったのだろうか。そんなことを考えながら、不条理な世の中が、大人が、そして何よりも社会で必要とされていない無力な自分が一番憎らしかった。
就職活動というのは、ある意味社会の縮図だ。10分足らずの面接でどれだけ上手く自分を売り込むことができるかが大切。つまり要領がよく、ずる賢いほうが上手くいく。
何社もの企業の合格切符を手にした同級生は武勇伝のように面接で並べた嘘八百を自慢していた。
「就活はさ、要領さえ良ければなんとかなるよ! 自信満々に嘘つけば意外とバレないから!」
夏の足音が近づいても行き先の決まらぬ私にそう言い放つ無神経な友人に苛立ちを覚えながら、不器用な私はその要領をいつまで経っても掴めずにいた。
その頃の私は、飲み屋で見かける会社の愚痴を言う大人たちが死ぬほど恨めしかった。
「まったく、課長はねー、何にもわかってないんすよ!」
「本当だよな! なーんにもあいつはわかってない! 俺たちがやってることをちっとも見てくれやしない!」
ビールジョッキを片手に酒という幻に溺れて、上司の悪口をいう大人。そういう大人を見る度に私は蹴り飛ばしてやりたい思いを持っていた。私が死に物狂いで手に入れたい仕事を手にしているのに愚痴を言うなんて……なんて奴らだ。そんなに嫌なら私と変われよ! 少なくとも愚痴なんて言わずに働くのに……。社会や仕事のことをきちんと理解できていなかった青臭い私はそんなふうに大人の背中を憎んでいた。
そういう不安定な日々を送る中で受けた企業は情けないことに100社を超え、もう光なんて1ミリも見えやしないと思い始めた頃、泣きながら書いたエントリーシートで挑んだ一社から内定を頂けた。それは皮肉なことに就活を始めた頃の私が一番行きたくないと思っていた業界と職種だった。
ジタバタと地面を這いずり回っていた私はその会社に拾われた。
入社してからは必死だった。仕事に慣れるのに必死で、良いとか悪いとか考える余裕はない。その企業に対して理想も期待も持っていなかった私は、入社後のギャップに苦しむことはなかったし、ここで頑張っていくと決めていた。
事務職なのに営業をしろと言われれば無心で営業をしたし、風当りの強い先輩に遭遇してもあの終わりの見えない就職活動よりは遥かにましだと言い聞かせて、のらりくらりと過ごしてきた。不思議なことに全く興味のなかった仕事なのに、働いてみると意外にもやりがいや、達成感を感じることも多くあって人生とは本当にわからないものだと思った。
そして無心で働いて3年が経ち、5年が経ち、6年が経った頃。
私は落とし穴にすっぽりはまってしまった。
突然、自分のこの先の人生がわからなくなった。
今までは真っすぐにずっと続いていると信じてやまなかった道が突然そこで遮断されてしまったのだ。スポンと落とし穴に落ちるように私は自分の進む道がわからなくなった。
無我夢中で歩いてきて、ふと立ち止まったとき、私が欲しかったものは本当にこれなのだろうかと自信がなくなったのだ。このまま働き続ければおそらく、平均点の人生は歩めるだろう。だけどそれは本当に私が心から求めているものなのだろうか?
なぜなら、いつの間にか私は一番なりたくなかったはずの飲み屋で会社の愚痴を漏らす大人になっていたからだ。就職活動に翻弄されていたあの日、私が蹴りあげたいほど憎いと思っていた仕事の愚痴をこぼすイケテナイ大人に、自分自身がなっていることが何よりも情けない。
自分に与えられた仕事があるということがどれだけありがたいことなのか、身をもって感じていた就活中の私が今の私を見たら、大いに嘲笑うだろう。
「何バカなこと言ってんの? 何甘えたこと言ってんの?」
とピシャリとお叱りを受けるだろう。だけど、私は落ちてしまった落とし穴の中で身動きが取れなくなったのだ。
そんな時、私は「書くこと」に出会った。いや、正確に言うと意図的に自ら「書くこと」に向かっていったのかもしれない。自分の書きたいという気持ちに嘘がつけなくなった。
身動きの取れなくなった落とし穴の中で見つけたそのたったひとつの光が今の私を支えている。そして、少しずつその光の方へもっともっと近づきたいと思い始めているのだ。
私達は学生の頃は正解がある程度、わかっている。良い成績を取って、部活動をがんばって、いい学校に行って、会社に就職する。だけど一歩大人の世界に足を踏み入れれば「正解」なんてあってないようなものだと気づいた。本当の意味で正解な人生なんてたぶんどこにもない。どんなにいい仕事をしていようが寂しい人は寂しい人生だろうし、自分のしていることに誇りを持てている人はどこで何をしていたって無条件で輝いている。
私はまだ落ちてしまった落とし穴から抜けることができていない。この落とし穴を抜ける方法はきっとたった一つしかない。
「自分だけの正解」を見つけること。そして、選んだ道を正解だと信じ抜くこと。
ひょっとしたら、落とし穴だと思っていたこの穴は「自分だけの正解」への新しい抜け道なのではないだろうか。
長い人生なのだし、私は落とし穴の中で、書いて書いて書きまくって、もう少しもがいてみようと思っている。
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