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私たちは、あの日のファーストキスさえコンテンツにしてしまう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:坂本えみ(ライティング・ゼミ)

今日もまた、誰かの過去が、シェアされている。
「感動せずにはいられない、本当にあった話」
「私たちに起こった、信じられない奇跡」
スマートフォンを開けば、至るところに、誰かの「感動しました」が転がっている。

***

2016年の大みそか。
日頃から仲の良い友人で集まって、年越しをした。

アラサーの男女5人。友人の自宅に集まり、お互いの近況でひとしきり盛り上がる。
そのあとは、日本酒をぐだぐだ飲みながら、簡単なカードゲームでひたすら遊んだ。
もし学生時代だったら、
「負けた人は罰ゲームで一気飲み!」
「うえーい!」
となるんだろうけど、さすがにもうそんな年齢じゃない。
「じゃあ負けた人が、昨年の反省をひとつ言うことにしよう」と、ゲームを始めた。

すぐに勝負のつく、簡単なカードゲームで、地味に盛り上がる。
負けた人が、真面目に去年の反省を口にする。
しかし気づけば、その真面目さは影を潜めて、
「2016年にやらかした恥ずかしい出来事」や、
「実は誰にも言っていない秘密」、
「これまでの人生でこんな恋愛してきました」まで、それぞれのぶっちゃけ話に発展しはじめた。
私もついつい、やだー話すことなんかないーと言いながら、昔のとんでもない恋人について、嬉々として話してしまった。

夜も更けて、徐々にネタがなくなっていく。少し停滞してきた空気は、「じゃあ次の人は、ファーストキスの場所とシチュエーションを答えること!」というお題で息を吹き返した。
そんな恥ずかしい過去、こんなアラサーたちの目の前で話せるか! という意地でゲームに集中する。
でもそんな時に限って、見事に一人ずつ順番に負けてしまったりして、きゃーきゃー言いながら、それぞれのファーストキスについて話を弾ませ、耳をダンボにして聞きまくっていた。

私にも当然順番は回ってくるわけで、もう何年も思い出していなかったファーストキスなんぞに思いを馳せることになった。

あの頃、二十歳を目前にした私は、「ああ、このままキスもせずに大人になるのか・・・・・・。なんでこんな非モテ女子に生まれてしまったんだろう」と、鬱々としていた。
そんな中、当時好きだった先輩の家で、飲み会が開かれることになった。
私は、参加者全員が帰るまで寝たふりで居座る、という露骨な手段に訴えたのだった。
いやー、あさましい。恥ずかしい。
しかしあのときは切実で、別にキスをしようとしたわけでも、告白しようとしたわけでもない。ただこの人と二人きりになりたい、という気持ちが止められなかったのだ。
本当に、どうにかして付き合いたいとか、そんなことは全く思っていなかった。
でも、結局その部屋が、記念すべきファーストキスの場所になったのだった。

と、そんな恥ずかしき過去を、べらべらと話してしまった。
みんながツッコミを入れながら爆笑してくれる。
それが嬉しくて、さらに話を重ねる。

ふと、これはコンテンツだ、と思った。

ゲームは続き、今度は向かいに座っていた友人が、自分のファーストキスのシチュエーションについて話し始める。
その30歳男子の初めてのキスは、大学の研究室だったらしい。
研究室! きゃーいやらしい! と、これまたひとしきり盛り上がった。

研究室でのファーストキス。
ああ、これもコンテンツだ、と思った。

いろいろ話しては爆笑して、気がついたら明け方の4時になっていた。
11時頃から始めたので、およそ5時間ほど、私たちはずっとカードゲームをして、負けたら自分の過去を披露して、ということを続けていたのだ。
それぞれのファーストキス、過去のお付き合いの一部始終、現在のパートナーとの出会い、その他云々。
不思議なもので、どの友人のどの話も面白かった。
ひとつひとつにドラマがあって、もっと知りたいと思わせるものだらけだった。

帰り道、しみじみと思った。
私たちはこうやって、過去の思い出も、あれもこれも、コンテンツにしてしまう。
その場が盛り上がればと、面白おかしく話してしまう。
当時はとにかく一生懸命で、まさか笑いを誘うなんて思いもしなかったファーストキスを、ちょっとしたオチをつけて、少し話を盛ったりしながら、一つのストーリーに仕上げていく。

それは、最近よく目にする、あれに少し似ている。
インターネット上によくアップされている、感動を誘うコンテンツだ。
SNSを眺めていると、「涙が止まらない、本当にあった話」という類の記事が、たくさんシェアされている。
過去に自分が体験した話だけではなく、知人や芸能人の過去の話まで、感動のストーリーとして語られている。
クリックすると、どんどん引き込まれて感動してしまう記事もあれば、あまりにもいい加減であきれ返ってしまう記事もある。

しかしどんな記事でも、過去のことはいつだって不完全だ。
私たちは、どうしても、過去を「完全に」語ることはできない。
たとえ本人が言葉を尽くしても、どんなに詳細に綴っても、「完全に当時の気持ちを書く」ことはできない。
うーん、何かが違う。
なんとなく、ニュアンスが違う。
そう思っても、当時の気持ちの小さな揺れは、もう自分でも完全には思い出せない。
そのことに気がつく度に、なんだか悲しくなってしまう。

それでも人は、多かれ少なかれ、みんな過去のことを語る。
たとえ、完全には再現できないとわかっていても、言葉にして、人に伝える。
恥ずかしいなぁとか、嫌だなぁと思っても、話を聞いてくれる人がいるというのは、幸せなことだ。
目の前にいる友人の相づちも、SNSについたコメントや「いいね!」も、自分を安心させてくれる。
そして、友人の書き綴った過去や、名も知らぬ人の過去を読んで、自分との共通点を見出したり、想像もしなかった考えに出会ったりして、大きな影響を受ける。

どうせインターネットの記事なんて、という人もいるけれど。
私たちはそうやって、これまで心の中に大切にとっておいたものを、交換し合って生きているのかもしれない。
「またお決まりの記事でしょ」「お涙ちょうだいの話でしょ」と言いながら、本気で感動して涙ぐんだりしてしまって、ああ私も明日から頑張ろう、と思う。

ぐだぐだお酒を飲みながら語った過去だって、同じだ。
一生懸命、自分たちが歩んできた過去を語って、誰かが歩んできた過去を聞く。
無意識のうちに、ああみんな必死に生きてきたんだな、と知る。
自分もここまで頑張ってきたな、と思い出す。
それは、そんなに悪いことじゃないような気がする。

私たちはもう、ファーストキスの時の切羽詰まった気持ち、あの真剣さを、思い出せない。
それでも、言葉を尽くして、お互いの過去をシェアして生きていく。
ハードな毎日にくたびれたとき、自分の過去や、誰かの過去が、私を何度も助けてくれる。

だから、10年後や20年後、
アラフォーやアラフィフの私を助けてくれるのは、
いま過ごしている毎日の苦しみや楽しみなのかもしれない。
そう考えると、なんだか少し、頼もしい気持ちになる。
未来の私よ。
どうか安心して待っていて。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2017-01-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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