新しい線を引く
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記事:さすらいの情報屋(ライティング・ゼミ)
2017年、正月休み。
年末までの忙しさから、ほんのひととき解放された私は何気なくスマホをいじっていた。そんな折、ふと目に飛び込んできたワークショップの告知。
「ボールペン画講座」
(面白そうだな)
よし、とりあえず申し込んでおいて、友達を誘おう。そう思って、スマホでサクサクと申し込んだ。本当に便利な時代だ。
私には油絵を趣味にしている友人がいる。少し畑違いかもしれないが、それくらいの方が興味もありつつ、幾分か新鮮に楽しめるのではないか。そう思って誘ってみた。彼女ならきっと乗ってくるだろう。
だが私の目論見は外れた。既に予定がある日だったらしい。残念。
さて、どうするか。なんとなくその友人と行くことを前提に申し込んだけれど、私には絵心がない。ピアノがない西田敏行よりも、持ち合わせていない自信がある。
最後に絵を描いたのはいつだろう……中学校の美術の時間だろうか? いや、高校の授業中、空腹のあまり、ノートの隅にラーメンとカレーの絵を描いたことは覚えている。ラーメンとカレー、あれほど描くのに難しいものはない。よければ一度挑戦してみて欲しい。高校生の私が描いたそれは、食べ物にさえ見えず、空腹ながらに絶望した記憶は忘れられない。
(新年になったばかりだし。まぁ、行ってみるか。)
そう思った私は、そのまま一人で参加することにした。
迎えた当日。
やってしまった。諸事情が重なり、私はそのイベントに、2分ほど、遅刻をしてしまった。
ほんの2分とはいえ、ワークショップは時間通りか、もしかしたら少し早くに始まっていたのかもしれない。円卓にたくさんの雑誌や本が並んでいる。それを囲む形に着席した参加者が7〜8名ほど、講師の話をやや緊張の面持ちで聞いている。
空いている席が2つある。しかし講師と担当スタッフが、そのすぐそばで説明をしている。私はしばらく席に着くことは諦め、他の参加者の後方で、立って話を聞くことにした。しかし、あまり聴き取れない。これ以上近付くと、話を止めてしまいそうだったので、遠巻きに見守ることにした。遅刻した私が悪いのだから仕方ない。
事前の説明らしき話が終わるか終わらないかというところで別のスタッフに声を掛けられ、参加者としての手続きが終わり、ようやく着席することができた。他の参加者たちは、既に手を動かし始めている。どうやら、円卓上の好きな雑誌や本からイラストや文字を、真似をして描いてみよう、ということらしい。
私は、手の届くところにあった本に載っていた、鍋焼きうどんに使うような小さな鉄鍋のイラストが気に入り、それを真似ることにした。昼に入ったうどん屋で私は海老天うどんを食べたのだが、近くのテーブルの客が鍋焼きうどんを食べていて、それが脳裏に残っていたからかもしれない。
描いている間、講師が参加者の描いた絵を見て回っている。とても穏やかな方のようで、ゆったりと、後方から見守るように。
私の鍋焼きうどん風鉄鍋を見て、
「あぁ、いいですね」
そんな感じのコメントを頂いた。他の何かと組み合わせてもいいですね、とも。
そんな風に、参加者たちは思い思いにペンを走らせ、模写をしていった。具体的なアドバイスはほとんどない。ただ、体験的に絵や文字を描くだけ、といったところだっただろうか。見たものをアレンジしてオリジナル要素を加えることも勧められた。
少し場がこなれてきて、会話する雰囲気になったと判断した私は、講師が近くに来てくれたタイミングで、1つ質問をしてみた。
「鉛筆では描いたりされないのですか? 下書きみたいなものとか……」
言ったそばから、私は、しまった、と後悔した。仮にもボールペン画家である先生に私は何を訊いてるんだ!なんて浅はかな質問をしてしまったんだ、と。
しかしその穏やかな先生は、こう答えてくれた。
「いきなりボールペンで描きますよ。その線を引いて、繋げていけば、『何か』にはなります。まぁ、正解もないですが、間違いもないですし」
くだらない質問をしてしまったと悔やんでいた私の頭の中に、ズキュンと何かが飛び込んできた。肌が、ゾワっとするのを感じた。
何これ……これ、絵の話じゃないわ。
私が、これまでの人生で絵を描くことができなかったのは、描いても下手だと思っていたから。下手だと評価されるものしか描けないと思っていたから。そんなことをいちいち思考していた訳ではないけれど、でもそんな深層心理を覆すには充分な言葉であり、それは絵に留まらないだけの威力があった。
(やる前に、やりもしないのに、自分のできることの範囲を決めつけてはいないか?)
私はその言葉の後から、絵を描くことが怖くなくなった。何が出来ても、どんな風に仕上がってもいいや、と思えるようになった。それが楽しみにすらなった。
(あぁ、絵を描く人は、これが楽しいのか)
初めてその世界を垣間見た気がした。
描くことが怖くなくなった私は、何か宝箱の鍵を1つ開けることができたように思う。
人生も、常に本番。下書きは無い。恐れずに、やってみればいい。
1月最後の月曜日。天神の街を歩いた帰り道、ふと目に入った看板。
「天狼院書店」
(どこかで聞いたことがある気がするな)
そんなことを思いながら、階段を上る。何か、注文の多い料理店のような文章が書いてある。
(面白そうだ)
それが天狼院に初めて足を踏み入れた日。
2日後。
気付けば私はそのドアを再び開けていた。ライティング・ゼミの初日。私はまた、新しい線を引いてみることにしたんだ。何が描けるのか、ワクワクしながら。
***
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