英語の授業で笑われ者だった出来損ない女子高生が、やがて一人でインドに行くようになるまで
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記事:なみ(ライティング・ゼミ)
「internet」
それがディビヤとの合言葉だった。
なんで来てしまったんだろう。
英語が話せないのに、インドに来てしまった。
思えば出来の悪い高校生だった。
先生や同級生からの印象は、勉強ができない子。
授業中にも散々からかわれた。
中でも一番大嫌いだった科目が、英語だった。
英語の授業中は、おやすみタイム。
成績はお情けで2。
センター試験では半分も点数が取れない。
授業中に先生から指名されて答えると、よほどの珍解答だったのだろう。
クラスメイトから笑いがおきたほどだ。
アルファベットを見るだけで具合が悪くなる、そんな気がするくらい大嫌いだった。
そして、私は英語をあきらめた。
例えば元プロ野球選手の松井秀喜さん、
彼がもし走るのが遅かったとしても、
ホームランをたくさんを打つ、最高の野球選手であることに変わりはない。
もちろん、足が速い方がいいに決まっている。
それでも、足を補うくらいの一流のホームランバッターになれば、それでいいのだ。
私は英語じゃない、他で頑張ろう。
そう思っていたはずなのに。
大学生2年生の冬。
ひょんな事から、1か月間、インドを周る学生団体に入ることになった。
インド人大学生との交流を目的とし、4都市に滞在した。
ディビヤとは、コルカタという街で出会った。
私より2歳年下の、ホームステイ先の女の子だった。
ホームステイは2泊3日。
現地にある日本語学校の生徒たちに協力してもらい、
1人1家庭ずつ、受け入れ先が決められた。
「こんにちは、今日からよろしく」
他の日本人メンバーには、次々とお迎えが来る。
どんな子なんだろう。
楽しみだけど、少し不安だな。
3日間も1人だけど、相手は日本語学校の学生だ。
日本語もある程度話せるだろうし、大丈夫だろう。
そこにやって来たのがディビヤだった。
可愛い細身の女の子。この子となら楽しく過ごせそう。
ところが、はじめましての次に聞こえた彼女の言葉に、一気に不安が勝った。
「私、あまり日本語が話せないの」
彼女は、日本語を勉強してほんの1ヶ月といったところだった。
なんということだ。
よりによって、一番英語ができない人と、
一番日本語ができない人が一緒になってしまったのだ。
ディビヤとの会話はしょっちゅう止まった。
詰まるたびにお互い気まずくなると、決まって彼女は「internet」と言った。
「翻訳サイトを頼って、なんとか会話をしよう」
私たちの中では、そういう意味だった。
「internet」を一番聞いたのは、1日目の夜だった。
「これ、どんなお話なのか教えて!」
彼女が目を輝かせて持って来たのは、日本の少女マンガ、「ぴんとこな」だった。
「ぴんとこな」とは、若手歌舞伎役者とファンとの恋愛を描いた、少女マンガだ。
きっと、ほかの日本人メンバーが彼女にプレゼントしたのだろう。
普段なら、
「いいね、読もう!」
なんて、喜んで誘いに応じるのだが、
私だけでは日常会話すらままならないのに、嫌な予感しかしない。
「ホームステイが終わったら、みんなと一緒に読もう。他の子が説明してくれるよ」
そう提案しても、
ディビヤは少女マンガを初めて見たようで、
まるで少女に戻ったような、純粋な好奇心を抑えきれていない顔で頼まれれば、断ることなんてできない。
ああ、世の男性は、おそらくこれを、男の性というのだろう。
同じ女であれど、こんなの断れるわけがない。
結局、恐る恐るページを開いた。
全部は説明できるわけがない。
つまづいても、あーとかえーとか言いながら、笑ってごまかせばいいや。
そんな悪い考えが浮かんで、ページをどんどんめくろうとした時、容赦なく質問が飛んできた。
「歌舞伎って何?」
「なんでこんな化粧をするの?」
「恭之助はなんで2つ名前があるの?」
「木嶋屋って何?」
ああ、それは屋号と言ってね、
えーと、えーと、えー……
困った。
なんて言えばいいんだろう。
最初は、さっさと説明して早く終わらせるつもりだった。
長く説明しても、こんな英語では伝わらない。
そう思っていた。
しかしディビヤは真剣だった。
「本気で知りたい」
彼女の英語はそう聞こえた。
ちゃんと答えなければ。
その一心だった。
ディビヤはボロボロの英語を、一生懸命聞き取ろうとしてくれた。
恥ずかしさなんて忘れて、思いつく限りの単語、表現をフルに使って話した。
どれくらい正確に伝わったのかは分からない。
しかしこの日、私は初めて英語に本気になった。
どんな人でも、苦手なものを好きになるには、苦労がつきものだ。
まじめに真っ向から取り組もうとしても、なかなか長続きしない。
けれども好きなものと一緒だったら、どうだろう。
ピーマンの肉詰めという料理を、食べたことはあるだろうか。
縦に半分に切られたピーマンに、ハンバーグが詰められている。
子供たちにピーマンを食べさせるために、生まれたような食べ物だ。
私にとって、英語とインドとの関係は、まさにこれだった。
子供が嫌いなピーマンと、子供が大好きなハンバーグ。
この2つを組み合わせたら、子供でもなんとなく食べられる。
そのうちにピーマンの苦味に慣れていく。
好きなものと一緒なら、
少しずつ食べられるようになっていく。
小学2年生の頃、
マザーテレサの本を手にしたあの時から、
インドへの道は開かれていたのかもしれない。
しかしインドに変えられたのではない。
インドに興味をもって、そこにディビヤがいたから、英語が好きになっていったんだ。
ディビヤと一緒に、いろんなところに行った。
彼女の大学。
ショッピングモール。
行きつけのマーケット。
近所の公園。
3日間一緒にいて、
同じものを食べて、
笑いあったり、
ふざけあったりした。
将来のこと、
社会のこと、
そんなことも話した。
いつの間にか、「internet」の合言葉は必要なくなっていた。
あれから3年が経った。
出来損ないで英語が大嫌いだった私の周りには、最高の英語講師がいる。
インドを通じて出会った、たくさんの友人たちだ。
英語でメッセージのやり取りは、もはや日常になっている。
週末には、日本に住んでいる友達と遊びに行くこともしばしば。
昨年は一人でインドへ旅行に出かけた。
ディビヤと出会い、22年間続いていた食わず嫌いと向き合えた。
人生が、大きく変わった。
たまに、ディビヤからメッセージがくる。
「次、いつインドに来るの?」
私の英語レベルは、まだまだビギナーレベルだ。
次にディビヤに会う時には、
絶対に「internet」とは言わせない。
彼女と会う、その日のために。
それが私が英語の勉強をするモチベーションになっている。
そしてもっと、世界を広げるために、英語を学び続けていきたい。
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