春になると会いたくなるじいちゃん《ふるさとグランプリ》
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記事:なみ(ライティング・ゼミ)
「今行きたいところはどこ?」
そう聞かれたら、なんと答えるだろうか。
福岡で屋台を飲み歩く?
京都で歴史を感じる?
兵庫の港でおしゃれに過ごす?
行きたいところなんて、きりがなく挙げられる。
考えるだけでワクワクする。
これを食べて、
あそこに行って……
楽しいことをたくさん想像したくなる。
では、こう聞かれたらどうだろう。
「誰かに会うために行きたい場所はある?」
行きたいところは、たくさん挙げられても、
わざわざ人に会うためだけに行こうと思う場所は、限られてくるだろう。
両親、祖父母、恋人、子供、孫、親友等々……
遠ければ遠いほど、
会いに行こうと思わせる人は、
本当に自分の近しい人なのではないだろうか。
私にとっても、会いたいというか、
会いに行かなきゃと思わせられる人がいる。
それは、私のじいちゃんだ。
「次はいつ来るんだ」
家に着いてすぐ、よくじいちゃんにこう言われたものだ。
今会いにきたばっかじゃん!
着いてまだ10分だよ。
長旅は結構疲れるんだぞ!
片道6時間かけて、やっと会いにきたのに。
着いて早々、文句のオンパレードだ。
年賀状が届かない。
誕生日プレゼントが届かない。
土産はこれだけか。
「はっはっは」
と豪快に笑いながら、文句を言ってくる。
あー、また始まった……
なんて思いつつ、さすがに放っておきすぎたかなと反省する。
誕生日カードの一つくらい送ってあげればよかった。できない孫でごめんね。
それでも、文句を聞くと、元気そうでよかった、と安心する。
孫ながら、このわがままが聞きたくて、会いに行くようなものだ。
じいちゃんに会いに行く。
ただそれだけ。
一応観光できる場所もあるけれど、
わざわざ行かない。
きれいな浜辺も、
エサ目当てにうみねこが追いかけてくる遊覧船も、
どでかい岩の連なりも。
もう散々行き飽きたから行かない。
そしてそれから数日間、
じいちゃんのわがままに応えるだけの日々が始まる。
肩を揉まさせられたり、
お茶を淹れさせられたり、
チャンネル権がないテレビを一緒に見させられたり。
飽きてどこかに行こうとすると、ここにいろと言われる。
じいちゃんを見てつくづく思った。
どんなに年齢を重ねて、大人になっても、
人間は寂しさには勝てないんだと。
これからも、せめて一年に一回は会いに来なきゃな。
行くたびにそう思わされ、 毎年一回は必ず会いに行っていた。
あれから随分と月日は流れた。
じいちゃんが亡くなってしまった今、
行く理由がなくなりつつあり、ちょっと寂しい。
行くペースも、だんだんと減ってきている。
来るのを楽しみに待たれると、
半分急かされてるような気にもなりながら、
何十年もよく通ったものだ。
それが、心待ちにしてくれている人がいなくなってしまうと、
なんだか行きづらい。
人が一人いなくなるだけで、こんなにも寂しいものなのか。
私を待ってくれている人は、いなくなって行く。
それでも私にはまだ、会いに行きたい人がいる。
ずっと会いに行きたかったけれど、行けていない人がいる場所だ。
その人は、人生の大先輩だ。
生まれてからずっとそこに住んでいて、
今後も引っ越すつもりはないらしい。
詳しいことはよく知らないけれど、
年齢は私より、980才ほど年上だそうだ。
この前は雪の日に骨折をしてしまったそうだ。
もう年なんだから、あまり無理はしないで欲しい。
ところが6年程前から、
様子を観にくる人が、めっきり減ってしまい、最近は、しょぼくれているそうだ。
役所の人が見回りに来てくれたり、
お医者さんに、定期的に診てもらったりしているそうだけど、
たくさんの人に囲まれていた頃のことを思い出すと、
やっぱり寂しさを感じるらしい。
以前は、たくさんの人が観に来てくれていたそうだ。
それがある日を境に、毎年大勢来ていた人が、来なくなってしまったという。
その声を聴いたことがないくらい、口数は少ない。
しかし、もししゃべりだしたら、
私たち人間へのお説教が、たんまりと聞こえてきそうだ。
それでも、これから春にかけての季節は、
毎年、たくさんの人が来てくれるよう、
おしゃれをして待っている。
その姿は、日本でも三本の指に入るほど、
きれいなものだそうだ。
そんなきれいな姿でいるのに、
どうして人が来なくなってしまったのか。
きっと、心が離れてしまっているからだ。
何もなければ、きっと元気だろうと様子を見に行かない。
忙しいと理由をつけて、気にかけない。
大きな事故に遭ったときは、さすがに心配で見に行く。
けれどそれももって数年。
また時間が経てば、気にもかけなくなる。
きっと今年も、
たくさんの人が来てくれるのを待っている。
地元の人に支えられながら、今でも元気に生きている。
今年もきっと、待っているはず。
だから私は会いに行く。
ずっと観に行きたかった、三春の滝桜に。
あなたの近くにもきっといるはず。
6年経とうとしている今も、辛い思いをしている人が。
誰も被害に遭いたくて遭っているわけではない。
寂しい思いをしている人がいたら、
少しだけ手をさしのべればいいだけだ。
どうか、福島の風評被害がなくなりますように。
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