メディアグランプリ

旅行先でお土産に買う食べ物は、薬のようなものかもしれない。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講申込みページ/東京・福岡・京都・全国通信】人生を変える!「天狼院ライティング・ゼミ」《日曜コース》〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
【東京・福岡・京都・全国通信対応】《日曜コース》

記事:須田 久仁彦(ライティング・ゼミ)

それはトラベルプランナーとして、仕事を始めた頃のことだった。私が作った旅行プランに、クレームが入ったことがあった。お客様が言うには、「ある場所」が入っていないということだった。

当時、トラベルプランナーとして右も左も分からなかった私は、その場所が旅行の中でどれほど重要かが分かっていなかった。むしろ、それまで旅行プランの中には出来るだけ入れないほうが良いのでは? と考えていたくらいの場所だったのだ。

お客様のご希望通りに、その「ある場所」を組み込んだプランを改めて出すと、お客様は非常に満足された。しかし私は、クレームが入った理由がその時にはまるで理解できなかった。

その理由が分かったのは、添乗に出た時のことだった。旅行の最後、「ある場所」を訪れる時が近づくと、観光バスの車内に独特の雰囲気が流れてくるのを感じた。それは期待感だけではなく高揚感が入り混じったように感じられるもので、私は心の中で驚いていた。その日は、観光スポットだけでなく、くだもの狩りや、ご当地ならではの美味しい昼食もプランに組み込まれていたのだが、どの場所よりも明らかにお客様の反応が違っていたからだ。プランニングした私でも知らない、特別なモノがそこにはあるのか? と考えてしまったくらいだった。

そして、その場所に到着するとお客様達は一斉にバスを降り、見る見るうちにその場所に吸い込まれていった。あまりの勢いに、私は呆然とするしかなかった。しかし、驚くのはまだこれからだった。

バスに戻られたお客様達は、到着直後とは明らかに違っていた。身軽な装いでバスから飛び出して行かれたのとはとは裏腹に、それぞれの手には袋が握られていた。しかもその袋の大きさは、私の想像を遥かに超えたものだった。中には段ボールや発泡スチロールの箱を抱えてくるお客様までいたのだ。

「添乗員さん、これだけ入って1,000円よ! 安いでしょ!」お客様の一人が興奮気味に話してくれた。ここは、お土産だけではなく新鮮な野菜なども豊富に取り扱う産直センターだった。「ある場所」とは、このようなお土産や野菜、海産物などがお買物できるお土産所なのだ。

戻られたお客様達の顔を見ると、本当に嬉しそうで、しかも達成感すら感じさせられたくらいだった。この日の中で一番、お客様が喜ばれた場所だった。

プランニングした私としては、お土産所が最も喜ばれたことを少し不本意にも思った。しかし、皆様がここまで喜ばれている顔を見ていると、そうも言っていられなかった。

当時の私は、ここまでお土産所が必須だとは思いもよらなかった。観光を目的としているのであれば、観光地をコースに出来る限り組み込んだ方が良いと考えていたのだ。新鮮な野菜や海産物を安く売っている場所など、都内にもあった。わざわざ旅行に出かけてまで、お買物をするなんて理解出来なかった。

しかし、団体旅行の希望で最も多いのは、このお土産所を組み込んで欲しいということだ。特に産直センターのように、地元の新鮮野菜や、海が近ければ海産物が売られているような食品関連の施設の人気が高い。確かに野菜や海産物も、その土地ならではのものだ。中には目新しいものもある。

旅行には実体がない。残るのは思い出だけだ。何か旅行の記念という形で物を残そうというのなら話しもわかる。しかし、食べ物は残すことが出来ない。それを自分たちで食べるだけではなく、ご近所に配るにしても明らかに多い量を購入される理由が、私にはどうしても分からなかった。

もちろん、旅行という非日常の体験が、普段であれば絶対に買わない量を買わせているというのもあるのだろう。しかし、どうしてもそれだけではないような気がしていたのだ。

それが分かった気がしたのが、ある一本の電話だった。旅行後に、お客様からお礼の電話を頂いた時のことだ。その旅行でも最後に大きなお土産所を組み込んでいたのだが、そこで皆様やはり大量のお土産をご購入されたそうだ。そのお客様も野菜や海産物など購入し、夕食の食材として多いに活用したそうだ。

「旅行で楽しかったことをまた思い出しながら美味しく食べたのよ。そうしたら、また次の旅行に向けて頑張らなきゃねって思うのよね」

それを聞いて、ふと思い当たった。旅行先で買った食べ物は、薬のようなものなのではないかと思ったのだ。

旅行は、いつもの生活から離れた非日常を楽しむものだ。お土産にその土地の食べ物や食材を買い、帰ってから食べることは、非日常の世界から日常の世界へと引き戻す薬のようなものではないのだろうか。

記念品や写真なら、その時の旅行をいつでも思い出すことは出来る。しかし、その旅行で買った食べ物を食べるという事は、ちょうど非日常と日常の中間にあたる体験だ。家で食べることで、次の旅行へのモチベーションを大いに高めてくれるのだ。だからこそ、現地でのお土産、特に食べ物の購入は必要なのではないのかと思ったのだ。

そうすると、あれだけ大量に野菜や海産物を購入される理由がわかる。旅行そのものを楽しみ、帰ってからも楽しんで非日常から日常へと意識を戻す。そしてまた新たなる旅行へと思いを馳せる。そんな薬のような効果があるのだ。

それ以来、添乗など仕事の旅ではそうはいかないが、私も旅先で食べ物を買ってみるようにしてみた。食べながら、家族と旅行の話しをしていると、いつもより美味しく感じられた。何より次にまた旅行に行きたい! という気持ちが家族の中でとても高まった。

しかし、問題があった。一度体験すると、これが中々辞められないのだ。やはり、薬であることに間違いはないようだ。
***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

http://tenro-in.com/fukuten/33767

天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。



2017-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事