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「ルールを守りたい症候群」のままでいいの?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鼓星(ライティング・ゼミ)

私は小心者で、面倒くさがり屋だ。
だから、ルールを破るのがとてつもなく苦手。自称「ルールを守りたい症候群」。ものすごく積極的に「守りたい」わけではなくても、「守らないこと」によって起こる様々な面倒ゴトを考えた瞬間、「守る」という安易な方に逃げてしまう。

法治国家の国民として、法律は、基本的には守っておいて間違いない。薬も指定通りに飲まなければ、かえって体調を悪化させることになるので、これも、使用法に従うのが賢明だろう。でも、「そんなルールは理不尽だよ!」と叫びたいのに、なかなか破る勇気がないことが多い。

スーパーやコンビニでビールやワインを買うと、タッチパネルの「成人ですか?」の問いかけに答えなければならない。未成年にアルコール類を売ってはいけない小売店の事情は百も承知だ。仮に、私が25歳ならば、年齢確認はやむをえないと納得する。しかしである。私は今年50歳にならんとする中年のオバハンなのだ。誰がどう見たって未成年と間違えようがない。こう言っちゃなんだが、エステや化粧に並々ならぬ時間とコストを費やしているであろう紀香ちゃんだって、聖子ちゃんだって、さすがに未成年には見えない。ましてや、普通のオバハンつかまえて、なにをかいわんやである。毎度「こんなことは時間の無駄。茶番は止めましょう!」と叫びたくなる。しかし、レジの人だって、私がオバハンであることは承知の上で、会社の指示に従って仕事としてやっているだけなのだ。私がクレイマーのようにゴネれば後ろに並んでいる人にも迷惑がかかる。
というわけで、にっこり笑って「はい」のボタンにタッチ。心の中で深いため息をつく。アホクサ。

実家に帰る時に乗る市営バスでは、「お降りのお客さまは、バスが停まってすぐに立ち上がるのは危険です。必ず、バスが停車してドアを開けた後に、お立ち下さい」とのアナウンスが流れる。高齢者が多い路線なので、万が一の転倒事故を避けたい気持ちはわかる。しかし、「停車してもすぐに立つな」の意味が私には理解できない。座席が埋まっていて、つり革や手すりにつかまって立っている人もいるのだ。どうして、ことさら、座っている人が立ち上がるタイミングをそれほど厳しく制限するのだろう?
せっかちなので、ついつい、バスが留まった瞬間に立ち上がったことがあり、まんまと「お客さま、ドアを開けた後にお立ち下さい」と注意された。気持ちの中では、全く納得できていないものの、運転手さんに反論しても、他の乗客が不快な思いをするだけだなと考え、おとなしく着席した。

数年前からだろうか、JRや私鉄、デパートなどの大型商業施設が一致団結して「エスカレーターみんなで手すりにつかまろうキャンペーン」なるものを大々的に打ち出しはじめた。実は、だいぶ前から駅構内では「エスカレーターを歩くのは危険」という趣旨のアナウンスは流れていたように思う。しかし、それは、どちらかといえば「危険であることをわきまえて、気をつけましょうね」という注意喚起的なニュアンスだった。ところが、全国統一キャンペーンが始まった途端に、それはある種の強制力を感じさせるものになった。

せっかちな私はエスカレーターの左側にボンヤリ立っているのが苦手だ。そもそも、私だけでなく、駅ではみんな気持ちが急いている。「予定の電車に乗りたい」「運がよければ1本前の電車に乗りたい」――というのは、都市住民の本能だ。一方で、高齢者や身体が不自由な方、疲れている人にとっては、エスカレーターは歩かずに移動できる有効な手段であることも理解している。それぞれのニーズに合わせて「左側は立って乗る人、右側は追い抜き車線」という自主ルール(関西は逆)が醸成されたのは、理にかなっていたと思う。

キャンペーンが始まったばかり頃、私は「ルールを守りたい」「でも急ぎたい」を天秤に掛けて、「急ぎたい」を選んでいた。「危険なのは承知していますが、せっかく右レーンが空いているので、有効活用させて下さい。左側に立っている方にぶつからないよう、十分に気をつけます」と心の中で言い訳をしながら、エスカレーターを駆け上っていた。

しかし、やっぱり私は小心者なのだ。朝な夕なにエンドレスで流れている「危険です」「思わぬ事故になります」という音声を聞かされると、だんだんと罪悪感が募ってくる。テレビの情報番組までもが「みんなで手すりにつかまろうキャンペーン」を取り上げ、左手で杖をついたご老人が「私は右手で手すりにつかまらないとエスカレーターに乗れません。なのに、右側を歩いている人がいると怖くて怖くて」と眉間にしわを寄せて訴えたり、バギーに赤ちゃんを乗せた若いママが「無理やり右側をすり抜けていく人がいると、赤ちゃんにぶつからないかヒヤヒヤします」とコメントしているのを見て、いたたまれない気持ちになった。

結局、私は「エスカレーターは使わない」という安易な逃げ道を選んだ。「お前は社会のルールを乱す不届きモノだ」と叱られながら右レーンを歩くよりも、多少、キツくても階段を利用するほうが、ずっと気楽だ。「足腰を鍛えるためのトレーニング」と自己暗示を掛ければ、地下鉄の長い階段だって、それほど苦痛にはならない。「もう、エスカレーターの面倒ごとからは私は解放された!」つもりになっていた。しかし、再び、エスカレーター問題で悩ましい状態に陥っている。

週に2~3度、会社帰りに途中下車して大きな駅の地下街で買い物をする。橋上改札を出て、地下までの長い階段をトントンと下っていくのは足取りも軽い。しかし、牛乳や卵、キャベツに白菜など重たい荷物を買い込んだ後には、さすがに地下から地上へ、地上からさらに改札階までと、長い階段を登るのは辛い。そこで、エスカレーターを利用しようとするたびに、思わず、ため息が出る。

右側はガラガラなのに、左レーンは人が溢れ、エスカレーターに乗るのを待つ人の列が長い時は20人ほどにまでなっている。「右側のレーンを空けず、2列とも立ってご利用下さい」のアナウンスが繰り返し流れているのだが、右側に立つ人は皆無。会社帰りの疲れた人が多い時間帯とあって、空いている右レーンを駆け上がる人もめったにいない。

かくいう私も、「エスカレーターを歩くのはやめましょう」というルールに従う選択をしたくせに、自主ルールだった「左レーンは立つ人、右レーンは急ぐ人用」のくびきから抜け出せずにいる。「右レーンをガラガラのまま空けておくのはもったいない!」と思いながら、仕方なしに、左レーンに乗るための行列の最後につく。新ルールと旧ルールのどっちつかずの状態に、みんなが非効率な状態を甘受している。ルールを守るって、いったいなんなんだろう。

自宅の最寄駅で、時々、盲導犬と一緒に通勤する女性を見かける。ご主人さまの指示に従い、混雑する通勤時間帯であっても、人や障害物とぶつからないように目的地まで誘導する盲導犬だが、さすがに整列乗車のルールは理解していない。階段を下りてホームに到着すると、ホームドアの目の前に陣取り、ドアが開いた瞬間に乗り込もうとする。ホームではひっきりなしに「整列乗車にご協力下さい」の放送が流れているので、女性は犬をなだめ、人々が乗り込む音に耳を傾けながら、最後の方に電車に乗り込もうとしている。
そんな時、「どうぞ、遠慮せずに先に乗って下さい」「手すりにつかまれるところまで誘導しますから、一緒に乗りましょう」と声を掛ける人がいると、その場の空気が和む。電車に乗り込んだ後に、目的の駅まで「伏せ」で待機しようとする犬のために、周囲の人は暗黙のうちにちょっとずつ詰めあってスペースを作る。
通勤時間帯の混雑時には、整列乗車は社会のルールだ。でも、ハンディキャップを負った人にまで強要しようとは誰も思ってはいない。ルールとは、みんなが安全で、気分よく生きるための決め事だ。守ることが本来の目的ではない。その意味を考え、周囲にいる人が柔軟に対応すれば、みんなが気持ちよく過ごすことができるのだ。

今度、地下街で買い物した帰り、思いきってガラガラのエスカレーターの右レーンに立ってみようか。もしも、下からエスカレーターを駆け上がってくる人の気配を感じたら、上手く左レーンによけて、急いでいる人を通してあげればいいだけのことだ。誰かが勇気を持って右レーンに立てば、「右レーンはガラガラ、左レーンは渋滞」のギャグマンがみたいな光景を考え直すきっかけになるかもしれない。「面倒くさいトラブルを避けるためにとりあえずルールを守っておく」よりも、人が人を思いやる気持ちに立ち返るほうが、社会は快適になるはずだ。

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2017-03-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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