親友ほど、遠くて近いものはない。
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記事:コヤナギ(ライティング・ゼミ日曜コース)
わたしには親友がいない。
中高6年間、ずっとそう思っていた。
モヤモヤとした思いに、頭を悩ませていた。
昔撮った大量のプリクラが、机の奥底から出てきた。
手に取るのは高校を卒業して以来だから、おそらく5年ぶりくらいだろうか。
最初は懐かしさで思わずひとりで笑ったりしていたが、ふとあることに気付いた。
どのプリクラを見ても、「なかよし」「親友」といった類のことばが所狭しと並んでいるのだ。
なんて安っぽい使い方をしていたのだろう。
抱き合ったり一緒にピースをして写っている友達の多くと、今や連絡を取ることもない。
フェイスブックのおかげで何となく状況は知っていたりするけれど。
留学しているだとか、子供が生まれただとか。
しかし、最後に直接会って話をしたのはいつだったろう。思い出せない。
ことばや態度で仲のよさを確認し、自分を認めてくれるゆるぎない存在を作ろうと必死になっていたことを思い出した。お揃いのTシャツやアクセサリーを買い、メールやSNSを通してたわいのない連絡を取り合い、移動教室の時にはバカみたいにゲラゲラ笑いながら行動を共にした。
多くの時間を共にした友人たちとの関係を否定する気は、ない。
とはいえ、当時のわたしには誰にも言えない秘密があった。
本当は、お揃いのTシャツもアクセサリーも欲しくなかったのである。
ひとりの時間はメールなんてせずに、漫画を読むことに集中していたかったのである。
それでも本当のことを言えなかったのは、ひとりになる勇気がなかったからだ。
親友はおろか、友達すらいなくなってしまうのではないか。
幼い頃からひとりで過ごすことが多かったからか、他人との距離の取り方が、いまいち不器用な子供だったように思う。
仲良くなりたい。けれど、自分をさらけ出すことは怖い。
モヤモヤした気持ちをことばに当てはめることができず、友達はたくさんいたが、孤独な感情が心の片隅から離れなかった。
そして思ったのだ。
わたしには、親友と呼べる友達がいない。
それでも、「親友」という存在に憧れ続けていたのは、アニメや漫画の影響が大きい。
のび太にはドラえもんがいたし、ちびまるこちゃんにはたまちゃんがいた。
しかし、わたしは現実世界で生きている。机の引き出しからロボットが出てきたら恐怖が勝るだろうし、まるちゃんとたまちゃんは物語が始まった当初から一番の仲良しだった。
親友をつくるには、どうしたら良いのだろう。不器用で扱いづらい自分を受け入れてくれて、孤独な感情をどうにか消し去ってくれる存在は、どうしたら現れるのだろう。
不器用ながらに友人たちの顔色を気にして、「このままじゃダメだよな」と思いつつ、ヘラヘラと笑っていた。
ハッと目が醒めるような感覚を味わったのが、大学3年生の春。
中学や高校に比べれば、特定の誰かとずっと一緒に行動をすることもないのが大学生だ。バイトやサークルと目まぐるしい変化の中で暮らすうち、「親友」という存在への執着も次第に薄まっていくようだった。今が楽しければ良いのだ! ヘラヘラ笑い、それなりに楽しく過ごしていた。大学に入って半年も経つと、中高時代の友達とは少しずつ疎遠になっていった。それでも毎日が刺激的なことに変わりはなかったし、少しの寂しさには目をつぶった。
そんな時、中高6年間いつ切れてもおかしくないほど細々と仲を繋いできた友達の一人から連絡が来た。就活の自己分析を手伝って欲しいとのことだった。
彼女が大学で、どんなコミュニティでどんなキャラクターとして暮らしていたかは知らないに等しかった。けれど、頼ってくれたのは素直に嬉しい。
昔の記憶を頼りに、長所や短所を一緒にことばに置き変えていった。
長所を伝えるのは良い。相手も嬉しそうに耳を傾けてくれるから、楽しく和気あいあいと話せる。短所を伝えるのは難しい。傷つけないよう、少ないボキャブラリーから必死にことばを探した。あまりに遠回しすぎたようで、いっそはっきり言ってくれと笑われてしまった。そして、つらつらと正直に伝えたのである。
さっきまでの笑顔は消え、明らかにショックを受けていた。
やってしまった……。次の瞬間、思いもよらないことばが聞こえてきた。
「ありがとう」
頭からクエスチョンマークが飛び出しているこちらをよそに、今度はわたしの分析が始まった。
頼んでもいないのに、お返しと言わんばかりに。
自分のことを相手がどう思っているかなんて、聞いたことがなかった。改めて褒められるとやはり嬉しくて、くすぐったい。そしてしばらくして、喉から内臓が出そうなほど驚かされた。
本当は、全部お見通しだったのである。
私がお揃いのTシャツやアクセサリーを買うことに乗り気じゃなかったことも。
メールの返事にひどく気を使っていたことも。
「知ってた。でも、わたしはお揃いのアクセサリーを持ちたかった。だから良いでしょ?」
なんて小悪魔のような発言。彼氏か? わたしはこいつの彼氏なのか?
平然と言ってのける様を見て、開いた口が塞がらなかった。しかし一方で、一つの謎が解けた。
趣味も好みも正反対な彼女と、どうして仲が続いているのかわたしには分からずにいたけれど、向こうにしてみれば、すべて見透かしたうえで受け入れてくれていたんだ。
わたしの人間くさい部分も含めて。なんだ、無理して笑う必要なんてなかったんだ。
社会人になった今、定期的に連絡を取りあう中高時代の友人が3人ほどいる。
残っているプリクラの数は500枚。彼女たちと写っているものは、30枚程度。
中学1年生で出会い、それ以来、中高5年間で一度も同じクラスになることはなかった。
今だって、まったく違う系統の服を着て、まったく違う系統の音楽を聴き、まったく違う系統の業種で働いている。共通点はないに等しく、人種としての生息地はあまりに遠い。
それなのに、月に一回「カレー、食べたくない?」なんてメールが飛んでくる。
思い描いていた親友の形とはちょっと違うけれど、
思い描いていた以上に心地よい。
仕事終わりに、ニヤニヤしながら返信するのである。
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