プロフェッショナル・ゼミ

もしかしたら僕らの恋愛のやり方は、平安時代に逆行しているのかもしれない《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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【東京・福岡・京都・全国通信対応】《日曜コース》

稲生雅裕:ライティングゼミ・プロフェッショナル

「m-gramって知ってる?」

華の金曜日、プレミアムフライデーなんて、どこ吹く風。
11時過ぎにようやく仕事を終え、帰り道にある行きつけの日本酒専門居酒屋でのこと。
テーブルの上には、すでに空いたいくつかのグラスと升が並び、中央には食べかけのエイヒレが寂しく残っている。
同僚のナオトが3杯目の日本酒に口をつけながら、スマートフォンの画面を見せてきた。
「ほら、これ。最近Facebookで流行ってるやつ。よく投稿に流れてくるじゃん」
画面を覗き込むと、「N.Kを構成する8性格」と書かれた正方形の周りを取り囲むように、文字が並んでいる。
微妙なグラデーションが綺麗な正方形には、「とても誘惑に弱い」とか「結構優しい」とか「ロジカル」といった文字が並んでいる。
「なにこれ、よくある性格診断的なやつ? エニアグラムみたいな」
エニアグラムとは、簡単な自己分析のようなもので、100個くらいある質問に答えると、自分の性格や適性が浮かび上がってくる。最近では、一人一人に適した職種を任せるために、入社と同時に社員にエニアグラムをやらせている企業も多いらしい。
「違う違う。あれはただ自分の性格がわかるだけだろ? m-gramは、そっから恋人探しに繋がるんだよ」
「なにそれ」
「だから、簡単に言うと、自分と本当に相性の良い相手を世界中から探し出せるサービスってこと」
「へー。めっちゃ凄い出会い系ってことか」
「まぁ、最近流行のデーティングアプリの進化版って感じだな」
「すごいな。俺らが学生の頃とか、出会い系とか全然良いイメージなかったし。おじさんと家出しちゃった女子高生がお金と体目的で使ってると思ってたわ」

自分が中学生や高校生の頃は、出会い系を通じた援助交際が殺人事件に繋がって、ニュースに取り上げられたりしていた記憶がある。
ところが、最近では、カジュアルに異性の友達と繋がれるデーティングアプリと言われる種類のサービスが若者を中心に流行り始めている。
デーティングアプリとは、デジタルかつ簡易な異性の友達探しサービス、とでも言えばいいのだろうか。
顔写真と簡単なプロフィールから自分の好きな人には「Like」を送り、お互いにマッチングしたらそこからメッセージのやりとりが始まる。課金をすると、詳細なプロフィールを書き込むことができたり、自分と相性の良さそうな人を推薦してくれたりする。

「学生の時付き合った人なんて、基本的に同じ学校の人だよな。高校生の時、他校の人と付き合ってるだけでなんとなく憧れたわ。それが今やコミュニティの壁も超えていとも
簡単に、スマホ一台で出会えるとは」
「男子校とかで、文化祭は女子と接点を持つ大チャンス! みたいな学生生活も地味に過ごしてみたかったわ。○○女子校の子は可愛いけど、文化祭にはチケットがいるらしいぞ、なんて情報交換したり」
「青春だな。当時は男子校とか絶対行きたくなかったけど、生まれ変わったら男子校行ってみたいわ。全く知らないコミュニティの人と交流するってドキドキしそう」

ふと、自分の恋愛の歴史を思い返すと、四半世紀、自分は恋愛において、全く接点がない人といきなり関係を持つことがなかった。

小学校の頃好きになったナツコちゃんは、同じクラスで、誕生日が1日違い。
しかし、星座占いによると、射手座の自分と蠍座のナツコちゃんの恋愛運は最悪で、小学二年生ながら、ひどく落ち込んだ。

中学生の頃好きになったユウキちゃんは、隣のクラスのスラッとしたショートヘアーが似合う美人だった。
上戸彩の10代の頃に随分と似ていた。自分が今でもショートヘアーが好きなのはユウキちゃんのせいだと思っている。ところが、あまりにも可愛すぎるので、ビビって全然話しかけることができなかった。何とかアドレスだけは交換して、メール弁慶にはなれるのに、実際に会うと目を合わして話すことすらできなかった。
ユウキちゃんは学年でも人気だった。修学旅行の時、友人とお互いにカメラで自分たちのことを取ると見せかけて、遠目にいるユキちゃんを写真に収めるという変態的なことをしたことがある。ごめん、ユウキちゃん。

初めて彼女らしい彼女ができたのは高校生2年生の頃。同じ部活の後輩のミオちゃんだった。
漂白されたような白い肌と、ビー玉のような大きな目が特徴だった。
部内恋愛が禁止されていたにも関わらず、自分の内から溢れる思いを静止することができず、気づいたら告白していた。部長が率先して部内のルールを破ってしまった。そこから1年半、秘密を隠し通し、高校を卒業した。

大学生になると、世界が一気に広がって、随分色んな人と仲良くなった。
早稲田大学は、学年によるキャンパスの移動がない上、4つあるうちの3つのキャンパスが早稲田に集まっている。だから、サラダボウルのように雑多に人が混ざり合っている。一方、所属するコミュニティが増えて、他校の人と関わるようになっても、やっぱり好きになったり、付き合う人は高校の後輩や、サークルの人など、同じ枠の中に限られていた。
ナンパや合コンも大学生の時はやったことがなかったし、まして出会い系のサービスを使うなんて考えすら思いつかなかった。何となく、接点がない人と付き合うことは不純というか、後ろめたい気持ちがあったし、同じコミュニティで出会った人と長く付き合い続けることに憧れていた部分があった。
「社会人になると本当出会いがないんだよー」
「会社以外で見つけるとしたら、もう合コンしかないって」
と一足先に社会の荒波に飲まれていった先輩方がよくそういっていたけれど、実際のところはそんなことないだろうと思っていた。

だが、社会人になると、確かに学生の頃に比べてコミュニティを行き来できる自由度は下がると感じるようになった。
平日日中はどうしても会社にいるし、休日は休日でやることがあってなかなか新しい世界を開拓しにくい。もちろん、自分から出向いてないのが悪いのはわかっているのだけれど。自分の時間が欲しかったりなんだりで、出不精になりがちになっていた。
そうすると、やっぱり自分が出会える人の範囲は限られてくる。加えて、僕の会社は女性が1割くらいしかおらず、しかも恋人や旦那さんがいらっしゃらないのは片手で収まる人数になってしまう。

そんな矢先、デーティングアプリを2ヶ月間使い倒して、彼女を作った同僚がナオトだった。
ナオトは会社では会社のマーケティング活動を一手に担うマーケターとして活躍しており、データ至上主義の超ロジカルな考え方の持ち主。
有名なデーティングアプリをほぼダウンロードし、月額課金は当たり前。4つ、5つのアプリを昼食、夕食、およびに休日にいじり倒し、毎週女の子と会う状況を作り出した。頭の良さと、やりきり力に加え、まぁ、ナオトはとてもイケメンなので、ちょっとアドバンテージが違うだろ、と思ったものの、本当にデーティングアプリで彼女を作った人には出会ったことが無かったので、素直にすごいと感心した。
そもそも、今日ナオトと飲んでいたのは、どうやってデーティングアプリで彼女を作ったのか聞いてみたいと思ったからだった。
自分の恋愛遍歴を隅に追いやり、4杯目の日本酒を頼み、ナオトに話を振る。

「で、どうやればアプリで彼女が作れるんですか」
「完全に、企業のマーケティングと同じよ。チャネルを増やして、見込み客にアプローチして、その中から最も利益が上がりそうな人から会っていく。で、最後クロージングして終わり」
「ちょいちょいちょい。全く何をいってるのかわからない。もっとわかりやすい言葉で説明してくれ」
ナオトが「ごめんごめん」と言いながら、足を組み直す。
「まず、自分のことを知ってもらうことが最初。物を売るのと同じだと思うけど、そもそも商品を知ってくれてないと売り上げも何もないでしょ? だから、自分っていう商品をいろんなお店に並べるとこから始めんの。例えば、お茶のペットボトル一つ取っても、セブンだけとか、ローソンだけに置いてるって中々ないだろ。だいたい、主要なコンビニには全部おいておく。お客さんの中にはそのコンビニしか使わないって人もいるかもしれないからな。そんな感覚で、自分をいろんなコンビニ置いてくわけよ」
「なるほどな。さすが某京都の国立大学数学科出身。頭が良い」
「おだてても奢んないからな。で、次に差別化。自分のどの辺りが魅力的なのかってことを気になった子に見つけてもらわないといけない。お茶だっていろんな種類あるけど、「水出し」、とか「濁り」とか色々あるっしょ。まぁ、この辺りはデーティングアプリだと書ける項目が限られてるし、嘘の趣味書いたりしても、よほど話が上手くないと会話が続かないから、割と正直に書く。でも、具体的に細く書くのが大事な。例えば、映画好きです、だけじゃなくて、俺の場合だとMARVELの映画が好きですって書いてる。服の趣味とかもブランド名まで書く。でも、これよりもめっちゃ大事なものがある」
「なんだ」
「顔写真」
「ちょっと、イケメンは黙ってもらってもいいですかね」
「いや、まぁ、イケメンなのかは一旦おいておこ。笑顔の写真と全身が写ってる写真と、友達一緒にいる写真の3つは結構大事で、キメすぎてるナルシストっぽい写真とかはあんまり女の子からLikeされないっぽい。普通に考えたらナルシストっぽいやつとは会いたくないわな」
「ナオトくんは結構ナルシストですよ?」
「アプリの写真からじゃ伝わんないからいーの。で、マッチングしたら、共通の話題をとにかく見つけて、話を盛り上げる。だから、趣味とか嘘つくと良くない。もちろん、Likeした女の子皆から返事が来るなんてありえないから、いろんなところで沢山接点を増やして、会えそうな人の母数を増やすわけよ。6000人くらいと初めの接点作れば、自分と相性のいい子も見つかるはず。これは感覚値だけどね」
「で、その後実際にご飯行く約束とかを取り付けて、そこで良さそうだなって思ったら付き合うと」
「そういうこと。自分が知ってるコミュニティだけで彼女を見つけるよりかはよっぽど効率的だと俺は思うなぁ。新しい接点を作るって意味では、合コンとか、ナンパとかもあるだろうけど、だいたいあーいうのって男が全額出すじゃん?だったら、アプリに月額課金して、大量に接点を作る方が理にかなってる。初めにメッセージのやりとりできるのも大きいし。ま、気づかないうちに結構課金してて、先月末とか焦ったけど」
「お茶目か」
ナオトが「てへっ」という表情を態とらしく作ってきたので、思わず引っ叩きそうになった。
「でも、なんかナオトの話聞いてると、今の恋愛って凄い平安時代っぽいなって思ったわ」
「え、どゆこと」
「平安時代ってさ、基本的に女性と会えないわけじゃん。母親とか、身の回りを世話して来る女中さん以外は。だから、基本的に「どこそこの何々さんは、非常にお美しゅうございました」なんてことを口コミで仕入れて、そっから恋文とかを書いて、遠目から覗きにいったりする。全く接点のない人と、頑張って繋がって、やっと会って、それでも成就しない場合もあるわけだけど、それは今も一緒じゃん? 会った人と絶対付き合えるわけじゃないんだから。光源氏くらいの超イケメンだったら話は違うかもしれないけど。平安時代と違うのは、遠くにいる人とでも簡単に会えるってことくらいで、全く接点のない知らない人の情報を頑張って仕入れて、そっから本当の恋愛に発展していく流れは、凄い平安時代っぽい」
「はー、なるほどな。さっきの出会い系の話じゃないけど、やっぱ「出会い系」ってくくると、なんか嫌らしいイメージあるけど、マッチングアプリとかデーティングアプリっていうと、若干カジュアルな感じするしなー。アプリによっては、実際に結婚したカップルの写真をホームページにあげてたりするし」
「そういうのがもっと当たり前になって来るかもねぇ。今時の小学生とか全然俺らが小学生だった時より大人だし」
「ま、とりあえず、デーティングアプリで悩んだことあったら先輩であるこの俺になんでも聞いてくださいな」
「やかましいわ! すいません、お会計お願いします」

次の月曜日、ナオトにm-gramの結果を報告した。
自分は「協調性が高い」にも関わらず「一匹狼」らしい。よくわからない。
そして、さすがはマッチングアプリ。あなたと相性がいい人がどれくらいの確率で現れるのかが書いてある。
自分は2600人に1人らしいと、ナオトに伝えると「大丈夫、俺の先輩なんて14000人に1人らしいから」とケラケラと笑っていた。
m-gramだけじゃなく、他のデーティングアプリも落としたのは、悔しいからナオトには内緒にしている。
ショートヘアの子と会えるといいな。

※この話は一部フィクションを含みます。

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