メディアグランプリ

儚い「ふつう」が消えないように


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:口中 大輔(ライティングゼミ・日曜コース)

 
 
人生とは儚いものだ。
 
僕らはいつも「ふつう」に囲まれて過ごしている。
いつもと変わらぬ景色、いつもと変わらぬ仲間。
ここにあって当たり前のものに囲まれている。
そこに、時々、新しいものが混じり、新鮮な感覚にも陥るけれど、それも繰り返すうちに「ふつう」の仲間に入っていく。
あって当たり前なんだから、毎日触れていなくたって、簡単になくなりはしない。
季節に1度……いや、下手すれば年に1度触れるくらいでも、案外大丈夫なものだ。
 
けれど、簡単に消えないし、そこにいて当たり前だからこそ、「ふつう」は粗末にされがちだ。
いつでも会えるから、今日じゃなくても大丈夫だ、と、ついつい機会を逸してしまうパターン、結構、思い当たる節がある。「ふつう」は、その瞬間に色めいたイベントにはとても弱い。
粗末に扱うパターン、その2。
なにも機会のスルーだけではない。「ふつう」に触れていているときもしばしば起こる。ちょっと粗く扱っても無くならないと無意識に確信しているせいか、すこしばかり乱暴に接してしまう事だって、よくある話だ。
 
でも、「ふつう」は普通なんかじゃない。
突如として別れが来ることもある。転勤、卒業、不意の節目はしばしば起こる。付き合う二人の愛だって、永遠は約束されていない。長年ある馴染みの店も、いつかは閉店を迎えることだろう。
ほとんどの「ふつう」は、「ふつう」から消え去ってしまう。
そして大抵の場合、「ふつう」がどれほど自分にとって大切なものだったかというのは、無くしたときの穴の大きさを感じて、初めて気付くものだ。
なんと愚か。覆水盆に返らず。後の祭り。
気付いた時にはもう戻らないのがほとんどだ。
 
僕らの人生の中でずっと大切に出来ている「ふつう」は、実は自分が思っているより結構少ないのかもしれない。
自分の最期の瞬間に側にある「ふつう」は、いったい何なのだろう、今大切にしたい「ふつう」は、きちんと最期まで「ふつう」に存在しているだろうか。
そう考えると、人生とはなんと儚いものに囲まれているように感じてしまう。
 
「いまって幸せですか」
そう聞かれたならば、きっと僕はうまく答えを返せない。
確かに、外から見ればきっと、社会人になってますますアグレッシブだと思うし、老若男女、素敵な仲間も持っていると思う。
でも、これはある意味で、十字架を背負った結果なのだ。
「これは夢か現か」と、どこかで幻を見ている気さえしてしまう。
 
僕はこれまで「ふつう」を大切にしてこれなかった。
一番先に頭に浮かぶのは、学生時代のバンド活動だ。
随分と貴重な経験させてもらえたし、今の僕の原点がここにあることは間違いない。でも、当時の僕は大変受け身で、仲間からもらうばかりで、ほとんど還元で来てなかったと思う。そればかりか、実家のような安らぎとともに、絶対なくならないという根拠のない安心感から、どこかで流して触れていたり、振り返ればわりと粗末に接してしまったなぁ、と。
バンド仲間とは今も付き合い深いし、おそらく死ぬまでのご縁であると思うけれど、一緒に歌う事に関していえば、次の機会はいつになるのだろう、もしあるとして、互いにおじいちゃんおばあちゃんになっていてもなんらおかしくはない。
僕の感覚としては、自分の粗末さ加減が、「ふつう」から消してしまったような、そんな悔いがどこかにある。もちろん、僕のせいだけではなく、卒業で生活が一変したとか、理由はひとつじゃないのだろうけれど、でも、である。
 
虚無感って言葉があるけれど、「ふつう」をなくした後の空白をあらわすにはぴったりだ。
出来てしまった虚無クレーターの上に、新たな「ふつう」を築き上げる。その途中には「ふつう」になりきれなかった、数多くのふつう候補もあった。そしてやっとの思いで、大切な「ふつう」たちが、またこうして揃ったわけである。
 
大切なものはなくしたくない……
一度クレーターを空けたからこそ、いま僕の周りにある「ふつう」が、自分の粗末さゆえに消えてしまう事が怖い。大切な時間を、仲間を、愛情感じるからこそ無くしてしまわないように。
いまの歌仲間や、そこから広がった人と縁、天狼院をはじめとした人のつながり。すべてどれも、もはや現在の僕にはかけがえのない「ふつう」である。だからこそ、何気ないひとつの機会・時間を、一期一会と心にとめて、出来得る限り向き合って生きよう、そう思って今を歩んでいる。
永遠がない事はわかっている。ただ、こうして接していたら、もし別れが来ても、きっと報われるカタチで迎えられるんじゃないかとも信じている。
 
今は二度と戻らない。
当たり前は当たり前じゃない。
「ふつう」は普通じゃない。
 
だからこそ、今、この一瞬を大切に。
このひと時の喜びを心底から感じて。
周りに感謝して。
 
そうすれば、きっと笑顔が傍に誘われる。
きっと、かけがえない「ふつう」が自分を包んでくれる。
僕はそう信じて、今日もまた生きて行く。
 
 
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2017-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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