オカンへのプレゼントはあえてやらないことを選ぶ
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記事:深川 薫(ライティング・ゼミ 日曜コース)
世の中の多くの息子たちが、オカンへのプレゼントに対して苦手意識を持っていることは周知の事実である(本当か? というツッコミはここでは受け付けない)。特に若くして実家を出て、一人暮らしなどを始めた息子たちは、オカンの好みなどに全く無関心のまま実家を出てきてしまったため、オカンへのプレゼント選びは圧倒的に下手くそである。一方、娘は実家を出ていても、何故だかオカンへのプレゼント選びは上手い。これは性差によるものだろうか? オカンとのコミュニケーションの量が違うのか? 高級過ぎてオカンに気を遣わせるでもなく、それこそ適切な価格帯で且つセンスの良いプレゼントを選んでくるのが、娘なのである(これについても本当か? というツッコミが感じられるがあえて無視する)。今回は、僕のようなオカン孝行が下手な息子たちに対して、オカンへのプレゼント選びの指南書として記したものである。
まず、押さえておくべきポイントは、世の多くのオカンたちは、息子からのプレゼントに対して、まず断ってくるということである。オカンたちは、息子にあまりお金を遣わせたくないのだ。また、裏の事情もある。息子の冴えないセンスで、自分の好みと全く違う物を貰っても、捨てるに捨てられない。それだったら、現金をもらった方が10倍も嬉しい。でも、そんなことは言えないので(言うオカンもおるけど)、そのようなプレゼントは一度使われたきり、実家の押入れの奥にしまわれるのが常である。そして、たまたま帰省した息子が偶然それを押入れの中から見つけ、ショックを受け「二度と買ってやるか!」という憎しみを産み出してしまうのである、というのは半分妄想だけど……。
さて、指南に入ろう。僕のような早く(といっても大学からだが)から実家を出て、ロクにオカンのことを知らない息子は、オカンに対してモノをプレゼントすることは、半ば諦めた方がいい。もちろん、既に書いたようにオカンの好みを認識していないからだ。よほどのマザコンの息子でもなければ、オカンと接触が多かったのは小学校時代までである。中学以降は、やれ風呂が沸いたから入れだの、勉強しろだのと口うるさい人物としてしか見ていない。そうこうするうちに、大学に進学することになり、家を出ることになる。オカンの好みなど、知る機会もない。そのため、女性のきょうだいがいれば、アドバイスをもらうことをオススメする。彼女たちは、なぜだかオカンの好みをよく心得ている。異論を挟まずに、素直にいうことを聞くのが今後の関係性においてもベターだ。君が、男兄弟ばかりや一人っ子であった場合は、自分で選ぶことはよした方がいい。では、どうするか? 一つの方法としては、オカン自身に選んでもらう。ただ、これだとオカンは気を遣って自分が本当に欲しいものではなく、値段も相応で自分のまあまあ好みでもある、ありていに言えば中途半端なモノを選んでしまう可能性が高くなる。そこで、オススメなのがプロに選んでもらうことだ。オカンはなんやかんや言って、権威に弱い。専門家から、値段が高くてもこれが良いと言われたら、買ってしまうのがオカン世代なのだ。
今回、僕がオカンにプレゼントしたモノは靴だった。今までオカンが履いていた靴というのは高くてもせいぜい五千円だった。さすがに歳なので、靴はやはりいいモノを履いた方がいい。膝への負担も違うということで、わざわざアシックスの店舗に行って足を計測し、それに合った靴をプレゼントしたのである。正直言って、店員が持ってきた靴の値段を聞いて、ちょっと腰が引けた。二万円である。しかも同行していたオトンが「ワシも欲しいな〜」などと言い出すものだから、タチが悪い。合わせて四万円である……。明らかに予算オーバーだ。こういう時、オトンという伏兵に対しては、本当に気をつけた方がいい。オカンと違って、オトンは息子に対して遠慮がない。買ってもらうのが当たり前だと思っている。話は逸れたが、靴はオススメだ。特に親が60歳を超え始めたら、靴もきちんといいモノを買った方がいい(若いうちから靴にはちゃんと金をかけた方がいいのだが)。世の中のオカンたちは、おそらく足を計測してもらうなんてことは経験したことがないので、そういったオカンたちがあえてやらないようなことを、僕たちが用意するのである。これがモノをプレゼントする際の大きなポイントである。
モノではなく、コトについても同様である。コトの場合は、幾分ハードルが低い。ただ、お金はモノよりもかかる可能性が高い。僕はよくオカンにイベントのチケットをプレゼントしている。「そんなん、オカンの趣味とか知らんもん!」などという声が聞こえてきそうだが、安心して欲しい。ここで、鉄板のチケットを案内する。それは落語の立川志の輔師匠のチケットだ。志の輔師匠と言えば、NHKの「ためしてガッテン」で有名だが、落語をやらせたら、おそらく今の落語会で一番の面白さである。その証拠に、チケットは人気が高く、なかなか取れない。だが、そのチケットを何とかして入手して、実家のオカンにプレゼントするのだ。オカンもおそらくは落語をやる志の輔師匠を知らないかもしれないが、むしろ知らない方が面白さのインパクトがあっていい。地方公演ならチケットも取りやすいから、是非おすすめだ。ただ、チケットの場合、一枚だけプレゼントとはなかなかいかないので、どうしてもペアの2枚になる。そうするとだいたい一万円はかかってしまうのが、痛いところではある。ただ、まあたまにはオカンにそれぐらいのプレゼントをしても、今までしてくれたことを考えば、安いものである。
最後に、最もオカンが喜ぶプレゼントを教えよう。それは、別に何も用もないのに、「ちょっとオカンの顔見たくなったから、来週末帰るわ」と電話することだ。それがやっぱりオカンにとって、一番嬉しいのだ。
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