メディアグランプリ

音と想いとキーボード


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記事:鍋倉大輝(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「もうちょっと静かにならないかな?」
 
カチャカチャカチャ。
カチャカチャ、ターン。
 
私は、中学生の頃からPCを触り始めた。
初めの頃なんてキーボードのどこにどのキーがあるのか全く分からなかったが、
同級生とやり取りするメール、チャット。
好きなゲームの攻略掲示板。
いろんなところに書きこむために文章を叩き続けた結果、
勝手に体に染み付いていった。
 
ある程度まで染みついてくるとそれが楽しくなり、
意識的にブラインドタッチの練習を始めた。
タイピングゲームを繰り返し遊びながら、絶対に手元なんて見るものかと思いながら、
体にキーボードの配置を覚え込ませていったのだ。
 
しばらくそれを繰り返すと普通にブラインドタッチが出来るようになり、
文章を打つスピードも格段に上がった。
今となってはスマホのフリック入力なんかよりも、
キーボードの方が圧倒的に早いため、なんだか煩わしく感じ、
家にいるときはPCでLINEを使っているほどだ。
 
こうしてブラインドタッチが出来るようになり、
文章を打つ速さが一定まで達すると、そこからは不思議なことに、
キーボードを叩く強さがどんどん増していった。
 
これが本当に不思議なもので、強く叩きたいなどとは微塵も思っていないのに、
どんどん、日に日に増していくのだ。
 
速さは求めてもなかなか手に入れることが出来なかったのにもかかわらず、
勢いだけは簡単に、望まずとも手に入った。
手に入り続けた。
 
一体なぜ、勢いが増していくのだろうか。
答えはおそらく単純で、
「迷いがなくなったから」
にすぎない。
 
迷いがなくなって、勢いが増した……!
 
と言うと少年向けのスポーツ漫画に出てきそうなフレーズだが、
紛れもなく、そうなのである。
 
タイピングの経験を積むと、キーの位置を把握することが出来る。
どこにどのキーがあり、いつ、どのキーを叩けば良いのか、
それに対する迷いが無くなっていくのだ。
 
するとどうだろう。
私がすることは、思っている通りに、ただ思うままにキーボードを叩くだけ。
そこに何の迷いも生じないのだから、指の勢いを妨げるものは何もない。
キーの位置もわからず、おろおろしながらキーボードを叩いている時とは大違いだ。
 
タイピングはもはやスポーツと同じで、
練習を繰り返し、
自分の型を創りあげ、
それを自らに染み込ませ、
迷いのない動きを追い求めるものなのだ。
 
こうして武道に励むかのようにタイピングを続け、
次第にキーを叩く勢いが増してしまった私。
そんな中でも一際勢いよく叩いてしまうキーがある。
 
おそらく察しているのではないかと思う。
そう。
 
「エンターキー」
 
だ。
 
エンターキーの場所が覚えやすい?
大きくて押しやすい?
そんな単純な理由ではない。
 
エンターキーを叩くときが最も迷いがないのだ。
 
考えてみてほしい。
エンターキーを叩くのはどんなときだろうか。
 
打ち込んだ文字を確定する時。
文章の区切りで改行する時。
 
そう。
エンターキーを打つときには迷いの生じる余地がないのだ。
全て打ち終えてしまった後の最後の1叩き。
今まで打ち込んできた文章への想いを全て乗せ、
最後の締めくくりとして叩かれるのがエンターキーなのだ。
 
過去全ての練習を、この1戦の競り合いを、勝利へ対する想いを、
それらを全て乗せ、一本を奪い去る剣道の面の一打の如く、
エンターキーは叩かれるのだ。
 
剣道の面も、大きな掛け声とともに、何よりも力強く、
この一打で全てを決する、とでも言わんばかりに打ち込まれる。
その迫力、美しさには思わず目を奪われる。
 
エンターキーも同じなのだ。
今まで紡いできた文章たちの締めくくりとして、
他のどのキーよりも強く、美しく、叩かれるものなのだ。
 
勢いよくエンターキーを叩く仕草をネタとして揶揄する風潮もあるが、
あれは至極真っ当な動作であり、想いの結晶なのだ。
今までに積んできたものが大きければ大きいほど、
多ければ多いほど、最後の一打に力がこもってしまうのだ。
 
剣道の面の掛け声が大きすぎてそれを揶揄する人がいるだろうか。
いや、いないだろう。
だからこれも許してほしい。
確かに少し耳障りかもしれないが、その音一つ一つには、
私の想いが乗っているのだ。想いの表れなのだ。
 
こうしてこの文章を書いている間も、
たくさんの想いが乾いた音となり、溢れ続けている。
楽器のキーボードのように音楽を奏でることは出来ないが、
カチャカチャと聞こえるその音たちには、想いが詰まっている。
 
今まで敬遠していたかもしれないが、是非聴いてみてほしい。
想いの音を。
 
ターン。
 
 
***

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2017-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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