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メディアグランプリ

寿司は口で味わうものじゃない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松下広美(ライティング・ゼミ 日曜コース)

「たぶん、この辺のはずだけど……」

目的地が見つからない。
携帯の地図では、目的地の旗と現在地の丸がほぼ同じ場所にあるのに。
もしかして通りを間違えたんじゃないかと、一本違う道も歩いてみたけど、やっぱり違うようなので引き返してきた。
祇園四条の駅の辺りは人がたくさんいたのに、ちょっと入っただけで人は少なくなる。
もう一度、目的地があるであろう通りを慎重に歩く。
人はほとんどいなくて、不安になる。
それにしても暑い。
曇っているけど、太陽も感じる空模様。梅雨の独特のジメジメ感。汗と湿気で髪はボサボサになっている。しばっているから爆発ヘアは免れているけど、前髪や後れ毛はモサモサしている。
「やっぱりここかな」
携帯に表示されている外観の写真と、目の前の建物と照らし合わせる。
久々に小心者モードが発動して、ビクビクしながら扉に手をかける。
開かない。
えー違うのかなー、と不安になっていたら、扉が開いた。
「いらっしゃーい」
よかった。ここで合ってた。

町家を改装したスペースでお寿司を楽しむ。
最近お知り合いになった方に招待を受けて、やってきた。
本格的な江戸前寿司が食べられるということで、お誘いを受けてからとても楽しみにしていた。

「どーぞー」と中に通された。
奥が広い。町家独特の作りだ。
クーラーがほどよい感じに効いていて、外の蒸し暑さを忘れさせてくれる。すぐに汗もひいてくれるだろう。
カウンターには丸が少し切り取られた形のお盆がセットされていた。この上にお寿司が置かれるんだろうか。調理台には、おひつ、まな板、ちっちゃい壺のようなものが数個セット置いてある。壺のようなものには何が入っているのかはわからないけれど、これから始まる時間を想像してワクワクする。

「中を自由に見ていいよー」
まだ全員集合していないようなので、町家の中を見学させてもらう。
上を向くと天窓がいくつかあり、自然の光が入ってくる。手入れされた中庭があり、大きめなお風呂まであった。2階に上がると、座敷の部屋があり、エステを受けられるようなスペースもあった。
柱からは時間を感じ、手入れの行き届いたスペースには現代的な香りもし、時間を超えたコラボを感じる。

6人ほど集まった時点で、飲み物が配られた。
乾杯はスパークリングワイン。
シャンパングラスに注がれて、細くて綺麗な泡が立ち上っていた。
今回は、飲み物はそれぞれ持参でということになっていた。皆さん、お酒好きな方々ばかりのようで、珍しい日本酒やスパークリングワインを持参していた。なんだかすごそうなものばかりで、自分の持ってきたものを出すのに躊躇してしまった。家で作った梅酒を持参したのは、選択ミスだったかと少し反省した。出さないわけにもいかなかったので、最初にお渡しした。飲むものがたくさんありすぎて、結局は出てこなかったけれど。

お昼から飲むお酒は、罪悪感からなのか、一層美味しく感じられる。
乾杯がされ、全員揃ったところで、スタートした。

職人さんが登場し、ネタの入っている木箱の蓋が開けられた。
「うわー」
その場にいた、11名が一斉に感嘆の声をあげた。感嘆なんて言葉、いつもは使わないけど、これが感嘆の声なんだ、という声だった。
中には10種類以上のネタが、どれもこれも美味しそうに並べられていた。
職人さんがネタを一つ手に取り、包丁を入れていく。すーっと切る様が、なんとも色っぽい。いつまでも見ていられる。

おひつの蓋が開けられ、やさしくシャリを握り、ネタが乗せられ、寿司として完成していく。
握られていることなんか、シャリやネタには感じさせないくらい素早く手が動いていく。写真に収めようとしても、動きが早すぎて、何枚撮っても職人さんの手元だけブレた写真になってしまう。
全ての動作が色気を醸し出している。
あの手なら「体のどこでも好きなところに触れてください」って言える。
触れられたら……と思わず想像してしまう。

「鯛の昆布締めです」
出された寿司に、釘付けになる。
写真を撮る時間ももどかしい。
早く、早く口に入れなくては。
「んー!」
口におさまりのいい、一口サイズ。噛みしめると、ちょっとモチっとした鯛の食感、昆布の味がじわーっと染みて、香りが鼻に抜ける。シャリは決して表に出ない。寿司として一体になって、飲み込むのももったいない。
「あー、うまい! ヤバイ!」
「ヤバイヤバイ!」
「絶対ヤバイ!」
隣にいた友人と、顔を見合わせて、目を見開いて、叫びまくる。
美味しい、なんていう平凡な言葉は使いたくなくて、でも表現する言葉を持ち合わせていなくて、「うまい」とか「ヤバイ」しか出てこない。

ヤバイヤバイ、と叫んでいたら、次のネタ。
ヤバすぎて、食べている私たちは異様なテンションに包まれていく。
そんな中でも職人さんは冷静に寿司を握り、ひとつひとつのネタに丁寧に説明を加え、スッと前に差し出していく。

続くネタにも「ヤバイ」が止まらない。

バーナーで炙られているネタは、炙ったときの香りが堪らない。
合間に食べるガリも食感、香りを楽しめる。箸休めにしておくにはもったいないくらいの美味しさだ。
お喋りもお酒も進み、よくわからないが握手を交わしたりする。
ほぼ初対面の人たちが、寿司によって一体感を増していく。

ああ、私は間違っていた。
こんなに楽しいのに、「すいません」と謝りたくなった。

最高の食べ物は、口で味わうものじゃない。

いや、味覚は大いに発揮される。
でも味覚が発動されるだけでは、美味しさを存分に感じられないのだ。

ネタや握られた寿司を見て「美味しそう」と感じる。
炙られた香りや、繊細な昆布の香りを感じて「美味しい」と感じる。
ネタの説明を聞いて、手間暇かかっていることを知り「美味しいはずだ」と感じる。
寿司を手で口に運ぶときに触り「美味しそう」と感じる。
舌の上で「やっぱり美味しいじゃん」と感じる。

見て、嗅いで、聴いて、触れて、味わう。
五感をフル活動させて、美味しいを感じる。
五感すべてが満足して、最高の美味しさを感じる。

どれかひとつでも欠けてしまったら、ここまでの高揚感は味わえなかっただろう。

そして、この場の空気感。
町家と寿司というコラボレーション。
最高のものを、最高に楽しもうとする人たち。
期待して、期待以上のものを提供されて、感動する。
初めて会う人たちでも仲良くさせてしまう空気。

「なんか、第六感まで発動してしまいそう」
「確かに」
五感をフルに使いすぎて、何か見えないものまで感じてしまいそうになる。
昔、ここに住んでた人が、こんなに楽しんでいる人たちを見たら出てきてしまうかもしれない。

あれ?
何人いたんだっけ……?

***

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2017-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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