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メディアグランプリ

学び好きな母は船乗りにも似て


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:秦笑子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
世の中には、熱心に学ぶ母親がいる。
学ぶのは、子育てについてだったり、自分のキャリアや社会貢献についてだったり。
情報を集め、整理し、仲間を探し、自分の希望する方向へ家族も巻き込んで進んでいこうとするパワフルな女性たちがいる。
 
例えば私の母も、そんな熱心な学ぶ女性の1人だ。
家は地方公務員の平凡な中流家庭であったのに、子供3人に幼児教材を買い与え、習い事や塾の送迎、私立中学受験、中高6年間の弁当作り、大学時代の生活費仕送り。食事も手を抜かず、無農薬野菜や無添加食材に徹底的にこだわった。周囲に過保護と言われても、頑として自分の子育てを貫いてきた。
並行して、自分の子供以外にも関わりたいと、保育や障害児支援の仕事についたり、介護の資格を取得。子育てが忙しくなるとフルタイムは難しく、福祉関係以外のパートを転々とする時期もあったが、母はいつも勉強して自分を磨き、次に進んでいった。
 
母の熱心さと行動力には感嘆するが、地面の下のナマズのような人でもある。母の一挙手一投足が、家庭という地盤を揺らしたからだ。
この間、長女に「お母さんは子供の時、何になりたかったの?」と尋ねられて、はて、と思い出したら、私の小学生の時の将来の夢は「田舎に隠遁して動物の世話をして暮らすこと」だった。自分が働くイメージは持てず、仙人のようなのんびりした暮らしを望んでいた。
 
あいにく、仙人の夢はいまだ叶わず、私は下界で会社員をしながら2人の子供を育てている。
そして相変わらず教育熱心な母は、孫たちに良さそうな玩具を持ち込み、習い事や塾を探し、時には子供部屋の模様替えまで行う。特に頼んではいないのだが、母が「見かねて」やってしまう。さすがに若い頃ほど体力がないので、疲れると「どうして私にはゆっくりした老後がないのかしら」と愚痴を言う母に、「自分でそうしているからなんだよ」と返す。ほどほどの好い加減でやってくれれば良いのにと思うけれど、不可能であることも承知している。母には「ほどほど」などないのだ。
 
こういう極端に熱心な親に育てられたため、私も「ほどほどに満足して生きる」というのに憧れつつ、はみ出してナマズ化してしまうことがある。今の生活をもっと良くするには、骨身を惜しんでいてはダメなのだ、懸命に勉強する必要があるのだ、という考え方が根底に刷り込まれている。ほどほどに安定できそうな時、それがいつも「このままではいけない」という焦りになって出てくる。過去には、その焦りにかられて、何十万もする自己啓発に貯金をはたいてしまったりした。
 
それはそれで、値段なりの知恵が得られたので悪いものではなかったと思う。ただ貯金を切り崩して学ぶことを何回か繰り返しているうちに、私は理解した。自分が求めているのは、スキルやノウハウの類ではない。だから、いくら大金を注ぎ込んで学びに行っても、得られるようなものではないのだと。
 
母のような人は、大航海時代の船乗りに似ている。自分が得られる限り最も良いものを得ようと、社会や世界に漕ぎ出して学び、知恵を持ち帰ってくる。そして自分の子供や孫たちにも、航海に出られるような船を準備してくれる。それは全て、善良な愛によって行われる。母には、母の大きく深い愛情に助けられて、何十年もずっと彼女を慕ってくれる友人たちがいる。
 
自分と母の関係を見つめる機会があった時、私は母の持つ知恵に生かされていて、それに感謝できない自分は悪だと思っていたことに気付いた。私を駆り立てた焦りは、「母から自立したい」という願いに繋がっていた。私が本当に得たかったのは、世の中をうまく渡っていくため、人の役に立つためのスキルじゃなかった。母の持ち帰る知恵に助けられず、自分の力で海に漕ぎ出し、たった1つで良いから何かを得てみたかった。でも、それは母の助けを拒むことであり、我がままでいけないことだと信じていた。
 
善良さというのは、時に呪縛になる。
善良な人に反抗すれば、罪悪感に傷つくからだ。
 
10年ほど前、気持ちが不安定になった状態から回復してきた母が、「自分の母親には他人の悪口を言っちゃいけない、我慢しなくちゃいけないと教えられてきたけど、それは違うんだ、そうじゃなくても良いんだって思えた時に吹っ切れた」と話してくれたことがある。
母の母、私の祖母も、信心深く善良で優しい人なのだ。
もしかすると、善良な母親によって娘が苦しむということを、母方の女たちはずっと繰り返してきたのかもしれない。
 
4歳の息子の反抗期が強くなってきたので、参考になるかと読んでみた育児本に、「お母さんの言うことはわかる、でも、私はこうしたい」という距離感を開発することが自立なのだ、と書かれていてハッとした。
 
私の中では、「お母さんの言うことは“正しい”、でも、私はこうしたい(から、私は間違っている)」になってしまっていた。
 
「お母さんの作ってくれた船はありがたい、でも、私は陸を歩きたい」と言っても良かったのだ。
なんだ、そうだったのか……
子供がきっかけで、自分の自立不全に薬がもらえるとは、子育てありがたし、である。
 
これからは、子供の「嫌だ」をもっと大目に見られるようになりたい。
息子についても、娘についても、そして自分の中にいる、小さな子供の私にも。
 
 
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2017-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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