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絶対にやりたくない結婚式


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記事:ごとうみのり(ライティングコース・平日コース)

 
 
入籍をした日は、春の日差しが暖かい日だった。
 
ぽかぽか陽気の中で私が放った一言に、彼は凍り付いた。
彼は大きな勘違いをしていた。
 
結婚を控えた、もしくは既に入籍を済ませたカップルなら一度は話題に上がる話がある。そう、結婚式だ。
 
最近は結婚願望の強い女性が、決してさりげなくない某会社の分厚い結婚雑誌を、さりげなく机の脇に置いて、結婚を控えてなくても会話の俎上に乗ることもあるようだ。
しかし、両者が結婚を前提に進める結婚式の話と、それぞれが微妙にズレた前提で進める結婚式の話は、擦り合わせにかかる時間が全く違う。
 
両者が結婚を前提に進める結婚式の話は、時に花嫁へ、リングよりも先に円形ハゲを送るらしい。いわゆるマリッジブルーだ。
 
それぞれが微妙にズレた前提の結婚式は、希望と夢に溢れている。ズレた隙き間には自分で勝手に愛を詰め込めるのだから、問題ない。
 
女性は大抵、結婚式に希望と夢と愛を詰め込む。結婚の話が持ち上がりそうな相手が見つかったら、結婚式に関するプレゼンの練習も始まる。だからこそ、マリッジブルーの大半は女性側がなるのだろう。結婚式に限らず、空回りするのは想いの強い方なのだから。
 
私は彼と付き合い始めたときから結婚を意識していた。そして時が来て、入籍もした。けれど、結婚式に関するプレゼンの練習なんて、1度もしたことがなかった。
そして、この一言だ。
 
「結婚式ってやる意味あるの?」
 
「えっ? 結婚式やりたくないの?」
「別に。フォトウエディングくらいはやる?」
「女の人って、みんな結婚式やりたいもんじゃないの?」
 
写真くらいは撮った方がいいかな、くらいの認識だった私は、彼にとって新種の生物だったようだ。
 
そもそも結婚式に、良いイメージがない。
結婚式をやるとなると、とにかくいろんな決め事が迫ってくる。特に揉めるのは席次表の作成だ。親族が両家ともに問題なく、自分たちで決めなさい、となればプランナーさんと相談の上、一般的な配置にしていく。ただ、どちらかの親族には必ず配置に困る人、が出てくるのがお約束だ。
 
最終的には親族中を巻き込んで、配置が決定されたりする。我が家が当たり障りのない親族だったのだろう。度々従妹が私の家に顔を出しては紙一枚に頭を悩ませていた。
片道50kmはある田舎の私の家まで訪れて、遊ぶでもなくのんびりするのでもなく、ただひたすら難しい顔をして頭を悩ませる。
子どもながら、結婚式は大変である、と覚えた。
 
良いイメージがないのは、私が天邪鬼なせいもある。
「結婚式、やる、やらない」
で検索すると、やった人は、「よかった」もしくは「なんだかんだでよかった」という感想がほとんどだ。
何かの宗教かと思うくらい、結婚式をやった人はみんないい、という。本当はやらない方がよかった、という意見も見つかったりして、その内容もチェックしてみたかったのに、キレイに「やらない方がよかった」と言う人はいないのだ。
別に誰も騙すつもりもなく、素直にそう思っているのだろう。けれども、あまりにも多くの人が「よかった」と言い過ぎていて、逆に怪しいと思ってしまった。
 
大変なイメージ、天邪鬼な性格。
そしてトドメの一撃として、私はそもそも結婚式に行ったことがなかった。
 
故に結婚式は、様々なことに頭を悩ませる上になんだか宗教じみた雰囲気を漂わせる、悪習慣のようにしか見えなかった。
悪習慣は時代とともに変化するもの。結婚式はやらないという選択肢も前提でなければ、フェアじゃない、と思っていた。
 
入籍した次の日から、結婚式をやるか、やらないか、の大討論会が始まった。
ただし、やらないという前提も置けた分、今時カップルだ。
 
そもそもなんで結婚式をやりたいの?
楽しいじゃん。楽しいんだよ。色んな人呼んでさ。
パーティしたいだけなら別に結婚式じゃなくても良いじゃん。
友達だけじゃなくてさ、呼びたい親戚とかもいるじゃん。
そもそもあんな大層なドレス着たくないよ。
なんで。
みんなに楽しんでもらうのが1番なのになんで自分が一番高価なものを着るのさ。意味分かんないよ。ドレス代はみんなに出す食事代にしたいよ。
いや、君がキレイに着飾るのを楽しみにしている人もいると思う。それもおもてなしの一つだよ。老舗旅館に行って仲居さんが着物じゃなくて洋服だったら醒めるだろ。
 
「私は主役になりたくない。目立ちたくない」
 
最後にぽろっと出た本音だった。
自分でも驚いた。主語は自分。結局私は自分のことしか考えていなかったのかもしれない。
そこまで言ったところで、涙が出た。
 
ずるい、と言われて落ち着くのを待ってもらって、そして彼は気がついた。
 
「でもさ、一つ共通した想いがちゃんとあったことが分かったね」
「え?」
「結婚式、という枠組みをまず外してみよう。結婚式は方法論だよ。そもそもさ、結婚という節目のタイミングでみんなに感謝を伝えたいっていうのが俺の考え。君は?」
「感謝は伝えたいのは同感。私達は1人でここまできたわけじゃないもの」
 
そうここにくるまでには、生まれてから出会いに至るまで、たくさんの人が関わっている。
 
「じゃあ、感謝を伝えたい、という想いがあることは共通のこと。それをどう表現するのが一番いいか考えよう」
 
そういって、彼は白いA4の紙に、俺たちに関わったたくさんの人に感謝を伝える、と書いて、四角で囲った。
 
「個別で伝えるのと、いっぺんに伝えるのとでは、もちろん個別の方が伝わるものは多いけれど、時間がかかる。俺たちの時間は有限だ。もちろん相手も」
 
「じゃあ、感謝を伝えたい、プラスいっぺんに伝えたい、だね」
 
A4の紙一枚に条件が箇条書きで書き加えられていく。
 
「そうするとさ、結婚式ってとっても便利な風習なんだよ。だってさ、自分のためだけに、関わったであろう人全員を集められるのって、葬式か結婚式くらいだよ。しかも葬式の場合は、既に自分はいないんだよ。そういう意味で、結婚式って、みんなに一斉に感謝を自分の口から伝えられる、1度のチャンスだと思う」
 
確かに、こうしてロジカルに結婚式を分析すると、なんと便利な制度なんだろう。自分が関わった人全員ともなると、世代も違うから価値観も違う。そんな価値観が違うことも含めた全員を招集できる慣習がある、この時代に生まれたことに感謝すべきかもしれない。
 
A4の紙1枚に結婚式という私達の企画がまとめられ、結婚式は行うことが決定した。
目的は、来て頂いた人全てに感謝の気持ちを伝えること。
だから、来て頂いた人に私達ができるおもてなしの全てを行うこと。
 
方針が決まれば後の選択はほとんど悩まない。会場の選択、案内状、演出を含めたプログラム、食事、引き出物、お花、テーブルクロス、全てに置いて、来て頂いた人主体だ。
 
きれいなドレスを着た君と写真を撮りたい友達はいると思うよ、親族はそれも楽しみになるだろうし。
という一言から、ドレスも真剣に選んだ。
 
目的が決まると、細々とした事はそれを元に素早く判断することができる。結果として、私は円形ハゲなんてできる気配もなく、結婚式まで気持ちよく過ごした。
 
ついに私達にマリッジブルーは訪れなかった。
 
結婚は、一つ、自分たちで会社を立ち上げるのと同じだ。
結婚式は夫婦で企画する1つのプロジェクト。
 
誰しもがそうとは言えないが、結婚式は結婚後、夫婦という会社に訪れる最初のプロジェクトなのだろう。
 
これは会社にも言えるが、一番最初の大きなプロジェクトを乗り越えることができれば、一旦軌道にのる。最初の一歩は大事だ。
 
夫婦もきっとそうだ。
プロジェクトがやってくるたびに、激しい意見交換を経て、私達夫婦という会社は大きくなっていく。
 
え?
結婚式?
やってよかった。とても楽しかった。あんな素晴らしい一日はない。
 
「でも、二度とやりたくはない」
ぽかぽか陽気の中で私が放った一言に、彼も笑顔で頷いた。
 
 
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2017-07-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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