第18回 《週間READING LIFE「けっこん、します」》
記事:藤原 宏輝(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
前回は、第4章‘現実的な生活設計・価値観のすり合わせ続編’仕事についてお伝えしました。
ここまで何度か、昭和・平成・令和の時代は変化に触れてきました。確実に、時代の流れとともに「結婚すること」に大きな変化が出ている事に、お気づきの方も多くいらっしゃるかと思います。
だからこそ、今「けっこんします」という事は、よりお互いを理解し、尊重し、敬い「心地よい暮らし」を日々繰り返し、時には本気でぶつかりながら生きていけたら、それが平凡であっても幸せではないかと感じたりします。
これまでもお伝えしてきた通り、結婚生活において、それぞれが育った環境の違いや見解、価値観の相違で、必ずぶつかる壁はいくつもあります。
それぞれの見解で異なりますし、個人差もございます。これらをよくご理解頂いた上で、ここから先は、読み進めて頂きたいと思います。
第18回は‘現実的な生活設計・住まいのすり合わせ’についてです。
「この家、いいと思わない?」
不動産会社の担当者が見せてくれた間取り図を、新婦の美咲は嬉しそうに眺めていた。
駅から徒歩八分。南向きのリビング。小さな庭もある。
「うん。いいね」
隣で健太も笑った。
ただ、その笑顔の奥には、別のものがあった……。それは、住宅ローン、三十五年。
今、健太は三十五歳。
単純に計算すれば、住宅ローンを払い終わるのは七十歳。
帰り道、健太は車のハンドルを握りながら、ぽつりと言った。
「俺、七十歳まで働いていられるかな」
「え?」
「いや。もちろん働くつもりだけどさ。三十五年って長いよな」
美咲は黙り、健太は続けた。
「今の会社にずっといる保証もないし、病気になるかもしれない。給料が今のままとも限らない。もし途中で払えなくなったらって考えると、怖いんだよ」
美咲は窓の外を見た。そして、少し間を置いて
「私はね……。逆に、家賃をずっと払い続けるほうが怖い」
と言うと、健太はすかさず「どういうこと?」と返す。
「毎月払っても、自分たちのものにはならないでしょ。年を取ってからも家賃を払っている生活を考えると、不安なの」
ここで、お二人の「安心」は、正反対だった。
新郎健太さんにとって安心とは、無理なく払えること。
新婦美咲にとって安心とは、住む場所が確保されていること。
どちらも間違っていない。だからこそ、話は簡単にはまとまらなかった。
その夜、二人はテーブルを挟んで向かい合った。
「美咲は、絶対に家を買いたい?」
「うん。でも、健太が無理するなら嫌」
「俺も家は欲しいよ。でも、家のために働き続ける人生にはしたくない」
美咲は少し考えてから笑った。
「じゃあ、私たちが欲しいのは家じゃないのかもね」
「え?」
「安心したいんだと思う。ただ、安心の形が違うだけ」
健太は黙った。その言葉を聞いて、少しだけ肩の力が抜けた。
それから二人は、住宅展示場ではなく、自分たちの生活について話し始めた。
・毎月いくらなら無理なく払えるのか。
・子どもができたら、生活費はどう変わるのか。
・どちらかが働けなくなったらどうするのか。
・頭金はいくら出すのか。
・将来、親の介護が必要になったらどうするのか。
など。
そして、もし住宅ローンが不安になったとき、家を売るという選択肢もあること。
「家を買うか、買わないか」ではなく、「どうすれば、二人が安心して暮らせるか」
を考えていった。
数週間後。
二人は最初に見た新築住宅とは別の物件を見ていた。
少し駅から遠い。少し狭い。
でも、価格は無理のない範囲だった。
「ここなら、ローンを払っても旅行に行けそうだね」と、美咲が言う。
「うん。それなら俺も頑張れそう」と、健太も笑った。
この家を買うことが正解だったわけでも、最初の家を諦めたことが妥協だったわけでもない。
お二人が、自分たちの「安心」の形を一緒に探した結果だった。
そんな話をしていたとき、友人夫婦のことを思い出した。
その夫婦も、結婚するときに「どこに住むか」を考えた。
二人は入籍し、妻は夫の姓に変わった。けれど、住む場所は夫の家でも、新しく買った家でもなかった。
三人姉妹で育った妻の実家だった。
両親が暮らしていた家を二世帯住宅にリフォームし、夫婦の生活空間をつくった。
そして、家の門柱には二つの姓が並んでいる。
ひとつの家に、二つの家族の名前。それもまた、今の時代の「家族の形」なのだと思う。
住宅ローンはない。家賃もない。
その代わり、もしかすると、これから親の介護が待っているかもしれない。
そして、いつか訪れる相続。
家があるからといって、すべてが無料になるわけではない。
「相続税のことも、そろそろ考えないとな」友人夫婦は笑いながら話していた。
だから今から、少しずつ貯蓄をしておくつもりだという。
家を買う夫婦、賃貸で暮らす夫婦、同棲していた部屋にそのまま住む夫婦、親と二世帯で暮らす夫婦。
正解は、ひとつではない。
結婚すると、価値観の違いは必ず出てくる。
お金の使い方、仕事、子ども、親との距離、休日の過ごし方。
そして、住む場所。
大切なのは、価値観を同じにすることではなくて、違う価値観を持った二人が、どこまで歩み寄れるか。
「私はこう思う」と「僕はこう感じる」
ここから始めればいい、相手を言い負かす必要もないし、自分の正しさを証明する必要もない。
二人にとっての「ちょうどいい」を、一緒に探せばいい。
家は、人生で一番大きな買い物かもしれない。
でも、本当に大切なのは、家そのものではなく、
その家で「おかえり」「ただいま」
と笑える毎日を、二人でつくっていくこと。
家を買うということは、家を選ぶことではなく、これからの暮らしを二人で選ぶことなのかもしれない。
婚約や結婚式という「儀式」の手順が簡略化される現代だからこそ「どんな空間で日常を重ねるか(住まい)」が、お二人の絆を確固たるものにする最大の「結婚準備」になります。
順序がどう変わろうとも、住まいを整えるプロセス自体を「二人で未来をデザインする最初の共同作業」として捉え直す視点を提示するのが効果的です。
住まいについて、確認すること9つ
- 賃貸?購入?
- どこに住む?
- 住居費はいくらまで?
- 子どもを持つ?
- 親との同居・介護は?
- 家事をどう分担する?
- 通勤時間は?
- 休日をどう過ごす?
- 10年後、20年後どう暮らしたい
いかがでしたか?
皆さんも「結婚する」と決めたら、前章から続いている‘お互いの価値観・住まいについて’を話し合ってみて下さい。
次回、第19回は‘第4章のまとめ’についてです。
❒ライタープロフィール
藤原宏輝(ふじわら こうき)『READING LIFE 編集部 ライターズ俱楽部』
愛知県名古屋市在住、岐阜県出身。ブライダル・プロデュース業に25年以上携わり、2200組以上の花婿花嫁さんの人生のスタートに関わりました。思い立ったら世界中どこまでも行き、知らない事はどんどん知ってみたい。好奇心旺盛で、即行動をする。
何があっても、今を全力で生きる。切り替えが早く、とにかく前向き。
これまでのブライダル業務の経験を活かして、次の世代に、未来に何を繋げていけるのか?
といつも模索しています。2024年より天狼院で学び、日々の出来事から書く事に真摯に向き合い、楽しみながら精進しております。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
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