プロフェッショナル・ゼミ

どうかシンデレラになんて憧れないで《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ばんり(ライティング・ゼミプロフェッショナル)

「大人になったら23歳で結婚して、30歳までに子供は二人で、お家を買って旦那さんと子供と幸せに暮らすんだ〜 」

大人になったら、
自然と素敵な男性と出会って、
運命の恋に落ちて、
素敵なプロポーズを受け、
結婚して子供が産まれ、
幸せな生活が待っていると思っていた。

女の子は誰しもシンデレラであって、王子様と魔法使いが表れると信じていた。
でも、27歳の今、旦那様も子供も彼氏すらいないのが現実。

小学生の頃、友達と
「いくつになったら結婚するかな?」
とか
「クラスのAちゃんとB君は両思いだから22歳で結婚してそうだよね」
そんなたわいもない少しマセた会話をしていた。

まだ恋とか愛とかそんな意味もわからず、
「B君は足が速いからかっこいい」
「C君は女の子に優しいし、勉強もできて素敵」
とかそんなレベル。
クラスのかっこいい男の子はクラスのかわいい女の子を好きになり、両想い。
こっそりみんなに隠れて手をつないで帰るようなそんなかわいい初恋を味わっていた小学校時代。

でも実際大人になってみると、
23歳なんて仕事をしていれば一瞬で通り過ぎるし、
誰もがシンデレラになれる訳ではないし、
ましてや魔法使いが都合良くあらわれないことを知った。

就職三年目までは本当に一瞬過ぎて、自分でも何がなんだか覚えていない。
たまに誰かとデートをしていた気もするが、やっと覚え始めた仕事に日々明け暮れていた。
ちょうど世間はガラケーからスマートフォンに変わろうとしていた時代であり、スマホ特需ともいうべき恐ろしい仕事量だった。仕事でスマートフォンの開発に携わっていた私は、たくさんの問題対処やプログラミングに追われ、帰宅は10時過ぎになるのが当たり前。深夜2時頃の帰宅も続き、毎日のようにタクシーを使っていた気がする。
女性にとって一番いいと言われている時期は、こうして一瞬で過ぎ去ったのだった。

27歳になった今、周りを見渡すといろんな人がいる。

結婚して子供も産まれ、幸せそうな家庭を気付いている友人。
順調そうに人生を歩んでおりとても羨ましいし、子供に向ける愛情深い瞳が何とも印象的だ。一緒に机を並べ勉強した友達はいつの間にか数歩先を歩み、母となった。

結婚したものの旦那さんと折り合いが悪く、別居しシングルマザーになった友人。子供を一人で育てると決意した友人の横顔は凛としていた。様々な葛藤をし、自分の道を歩み始めた友人はまた1つ大人になったようだった。

私と同じように結婚のけの字すらない友人。
将来に漠然とした不安を感じながらも、今を一生懸命生き、旅行や趣味に楽しそうな友人。結婚だけが幸せではないし、人生を楽しんでいる女性は活き活きとして、とても美しいと思う。

最後に仕事一筋、結婚をせずマネージャーとなったキャリアウーマンの先輩。
男性社会の中で生き抜く強さと賢さを持った女性。女性というだけで低く見られることも、悪く言われることもあるだろう。まだまだ女性キャリアがあまり認められていない日本社会では辛い想いをすることも多いと思う。その横顔はいろいろな苦労を背負い、受け止めてきた強さを感じる。

一昔前とは違い、夫婦共働きが当たり前の時代。
結婚し、妊娠しても、産休・育休を経て、職場復帰するのが当たり前になってきている。

「年収1000万の旦那さんと結婚し、専業主婦になって幸せに暮らすの!」
そんな発言をしている女性がいたら、それこそ夢物語だろう。

今は女性も男性と同じように働く時代。
女性だから……男性だから……という垣根は、少しずつなくなってきているのが現実だ。そして諸外国の先進国に続け! とばかりに、最近の日本では女性躍進がホットなキーワードとなっている。

女性管理職の割合を増やす。だとか、結婚・退職を機に退職する女性を少しでも減らす為に、政府が企業に積極的な働きかけを行っている。

私の勤めている会社でも、女性躍進の風潮は強まり、ここ数年は女性向けのセミナー参加を勧められることが多くなった。
そのセミナーで「昭和シンデレラ」という言葉が使われていた。

昭和シンデレラとは、そのセミナーを主催する講師の植田さんが作った造語で「夢の世界を生きる33歳(厄年)以上の独身女性」を指すという。

例えば、韓流アイドルグループが好きでコンサートでは日本全国のコンサートで追っかけを行ない、果ては韓国であるコンサートに参加する女性。
野球選手のXXXが好きで、毎日のように球場に足を運び試合観戦を行ない、シーズンオフには感謝イベントや春期キャンプまで通う女性。

そういった趣味に生き甲斐を感じ、好きなものに没頭する独身女性のことを昭和シンデレラと呼ぶらしい。

その言葉を聞いたときに、私はある女性の存在を思い出した。ロックバンドのGLAYが好きだった美紀さん。コンサートツアーでは追っかけで全国を回り、各地域に同じようにGLAYを好きな友達がいて、ツアー中はその友達に泊めてもらい一緒にライブを楽しんでいる。と、楽しそうに話してくれていた。

ちなみに植田さんいわく以下の項目に6つ以上当てはまる(※1)とアウト! めでたく昭和シンデレラの称号が与えられる。
・ 気がつけば30代だが未婚で恋人もいない
・ 仕事は仕事と割り切り、淡々とやっている
・ 仕事での活躍とか、キャリアアップにあまり興味がない
・ 憧れのスターや選手のコンサートや試合によく行く(追っかけ)
・ 趣味に没頭しているときが一番楽しく、幸せと感じる
・ 自分と同じ年齢以上のおひとり様な女友達が何人かいる
・ 縁結び神社など、運命の出会いをどこかで願っている
・ 20代の頃と体型はほとんど変わらず、その頃の服も着る
・ 専業主婦の生活が羨ましいし、ちょっと憧れる
・ 恋愛や結婚に理想のイメージがあり、妥協したくない

悲観的な将来はあまり考えないようにし、今を生きる女性。会社での地位は望まないが、どこか幸せな結婚を夢見ている女性。そういった女性になると「昭和シンデレラ」と呼ばれるらしい。
ちなみに私は現在3つ程度でやや怪しい……。
5年後に昭和シンデレラになるかどうかは、これからの過ごし方にかかっているようだ。

しかし、どうせならシンデレラでも、昭和シンデレラでもなく、魔法使いを目指したい。最近は、そう強く感じるようになった。

まだ会社に入社して間もなかった8年前の話。
私は、同期の田中とこんな会話をしていた。

「俺はさ、パソコンだけで自由自在に動くアプリケーションを作れるプログラマーを魔法使いみたいだって思ったんよね」

私達が入社した会社はプログラムの設計や開発などを行う開発会社。
田中は同期入社だが、学生の頃から趣味でプログラミングを行ない、既に様々なプログラミング言語を自在に操り、高度なセキュリティの資格も持っていた。
なんとなく工業系の学校に進み、なんとなく就職した私とは既にスタート地点から何馬身も差が開いていたのだ。
同期の中でも3本の指に入る優秀な高田と自分を比べ、憂鬱になることもあった。同じプロジェクトに配属されたことをツイテないと思うこともあった。
しかし、そんな憂鬱さよりも、すごいスキルを持った助っ人であり、腹を割って話せる友人がいること。この環境は恵まれていたと今ならわかる。

「俺はさ、パソコンだけで自由自在に動くアプリケーションを作れるプログラマーを魔法使いみたいだって思ったんよね」
「なるほどね〜たしかにパソコン1つでどんなアプリも組めるんだからすごいよね。でも私はさ、小麦粉とバターを使って自由自在にお菓子を作れるパティシエこそ魔法使いだって思うよ」

私はプログラミングよりもお菓子作りのほうが好きだったし、粉の配合や作り方を変え、幾通りものお菓子を生み出すパティシエのことを魔法使いだと思っていた。

例えばシュークリーム。
卵と小麦粉とバターとひとつまみのお塩。いたってシンプルな4つの材料から出来上がるシュー皮は、お菓子作りの中でも鬼門の1つだ。
鍋にバターを入れ、溶けたら手早く小麦粉を全て入れる。
小麦粉とバターを練り上げ、少しずつ卵を入れていく。
木ベラから三角形の生地がすーっと落ちるまで固さを調節する。
練る時間が足りなくても膨らまないし、生地が固すぎても柔らかすぎても高さのあるキレイなシュー皮を焼き上げることは出来ない。
せっかく成功した生地は、きちんと焼き上がるまでオーブンを開けてはいけない。途中でうっかり開けてしまうと、たちまち生地は萎んでしまうからだ。

また、ショートケーキ1つとっても、泡立てが足りないと生地が萎んで、半分ぐらいの高さになってしまうし、泡立てた卵のキメが粗すぎるとボソボソの生地になってしまい舌触りが悪くなる。

シンプルな材料とシンプルな道具で作れる無数のお菓子。
ただし、そこに正確なパティシエの腕があってこそだ。

いつものケーキ屋さんに行くと、扉を開けた瞬間に広がるバターのいい香りと涼しさの中にほのかな熱気が伝わってくる。ショーケースの中には、色とりどりのショートケーキやお祝い用のホールケーキが広がる。

ブルーベリーやマンゴーなどの季節のフルーツがのったフルーツタルト、
定番のイチゴがのったショートケーキ、
いかにも濃厚そうなチョコレートケーキ、
注文するとカスタードクリームを入れてくれるシュークリーム、
様々なケーキがまるで宝石のようにところ狭しと並んでいる。

そんなケーキをキラキラとした瞳で見つめ、母親にこっそりと嬉しそうに食べたいケーキを伝える女の子。奥さんの誕生日なのか少し居心地が悪そうにケーキの包装をまつ男性。
ケーキの数だけ広がる笑顔と物語を、想像せずにはいられない。
そんなたくさんの人の笑顔を生み出すパティシエは、私にとってまさに魔法使いだった。

結局、私はパティシエのような魔法使いにはなれなかったが、アラサーになった今だからこそわかる。この世にはたくさんの魔法使いが存在するのだ。

通勤で乗るバスで鈴木さんという運転手がいる。
彼の運転だけは、途中ですぐに気付くことができる。
バスの中のアナウンスが丁寧で、とても気持ちのいいものだからだ。
「このバスは現在、朝の車両混雑のためただ今10分ほど遅れて、進んでおります。みなさまには朝のお忙しいところ大変ご迷惑おかけしています」
「天候が悪く、気温の高い日が続いております。熱中症など体調管理には充分気をつけて、よい週末を」
鈴木さんはバスのアナウンスの中で、細かく進行状況を伝えてくれたり、七夕や敬老の日といった暦の行事がある日には、関連した内容のアナウンスを入れてくれる。
たかがバスのアナウンス、されどバスのアナウンス。
別に特別なアナウンスをしたからといって給料が上がる訳でも、出世をする訳でもないだろう。実際に手を抜いてアナウンスを一切しない運転手さんもいるし、アナウンスが雑すぎて「やる気があるのか?」と思うような運転手さんもいる。そんな中、鈴木さんはバスの利用者が少しでも気分よく一日を過ごせるように工夫を凝らしたアナウンスをしてくれるのだ。そんな鈴木さんもやっぱり魔法使いみたいだなと思うのだ。

バスのアナウンスだけではない。
日常生活の中で私達は様々な感動と出会うことがある。

スーパーのレジの店員さんの接客が丁寧で気持ちよかっただとか、
定食屋さんで頼んだお昼ご飯が美味しかっただとか、
美容師のお姉さんが仕事の愚痴を聞いてくれ心が軽くなったとか……
日常には細かなたくさんの気持ちのいい感動にあふれているのだ。

私にはパティシエのような才能はないし、新海監督の「君の名は」のように何万人もの人を感動させるコンテンツを作るクリエイターにもなれない。

でも目の前のたった一人なら、笑顔にすることが出来るかもしれない。
あなたと話してよかった、仕事を一緒にしてよかった。
そう言われるような大人に、小さな感動を与えられる魔法使いになりたいと思う。

結局、期待の新人だった田中は入社9ヶ月で突如退社し、別の会社に転社してしまった。理由は「俺はもっともっとプログラミングが出来る会社で働きたい」というなんとも彼らしい理由だった。
彼はその後、スマホアプリを開発する会社に転職し、忙しいながらも充実した毎日を送っているようだ。彼の魔法の杖とも言うべきプログラミング能力はきっとますます上がり、いい技術者になっているのに違いない。

私は技術者としての腕もまだまだ未熟だし、2月から始めたこのライティングのスキルもまだ発展途上だ。しかし諦めず続けていれば、私の魔法の杖もきっといつか立派なものになるだろう。

「Magic can appear when you least expect it.
魔法は一番期待していないときに起こるのさ」

シンデレラのこの名言を信じ、今日も一歩一歩進んで行きたいと思う。

※ 1 この情報に関する詳細は以下のWeb記事で植田さんが解説しています。
http://www.nikkeibp.co.jp/atclhco/15/249752/061200005/?P=2

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