メディアグランプリ

魅せるデコルテ秘める腹


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Ruca(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「こんな女性になりたい」
柱に貼られたモノクロのポストカードを見上げて呟いた。それはキューピー体型をした女の子の秘められた夢だった。ブラウスの襟元を引っ張り広げ、首を傾げデコルテを突き出してみた。そして、くねらない腰をくねらせてみた。その姿は、襟元がチクチクするのをむずがっているようにしか見えなかっただろう。しかし、その雰囲気はいずれ自分のものになると思いながら、随分長い時間眺めていたことを今でも鮮明に覚えている。
 
あの日から、鎖骨や肋骨そして胸の谷間の始まりが作り出す翳りのあるデコルテ崇拝が始まった。パーンと張り詰めた若さを前面に出したようなものではなく、年齢を重ね、胸の重みとの戦いを制したデコルテが好きだ。
女性の美しさはデコルテしだいだと思うが、一般的には胸の膨らみの方が関心をひくらしい。それは胸が人目にさらされず、秘められた存在だからなのかもしれない。
 
小さな事件が起こった。
自分史上最高にセクシーな1枚を撮るという企画に惹かれてしまった。
コスチュームに身を包みポーズをとれば、プロのカメラマンがセクシーさをどこかから探し出し、作品に落とし込でくれるものだと思っていた。記念写真のようなものしかカメラマンと名のつく人に撮られたことのない経験値の少なさがそう思わせた。縁のなかった世界に足を踏み入れるワクワク感で胸が高鳴った。
 
「甘かった」と悟るまでには時間はかからなかった。
用意されたコスチュームと参加者の意気込みがそれに気づかせた。
覚悟を迫られた。
 
オリエンタルな雰囲気を醸し出す黒髪の若い女性が先頭を切った。
長い手足を武器に、そしてぽってりとした色っぽい唇を持つその女性は、次々とポーズをとった。
「それいいね」そんな声をかけながら、勝ちの1枚を求めて次々とシャッターが切られた。
「そうか、そんな風にポーズをとるんだ」見ながら学習を進めた。
 
スポットライトに当たる気持ち良さとは裏腹に、華のない存在の自分にめげた。
何かがブレーキをかけている。
躊躇するポージング。
待ちの姿勢の私。
覚悟は決まったが冴えない自分がいた。
表現力を持たない手足に戸惑った。
「頑張れ自分!」そんな声が聞こえる。
 
「腹がなあ」の一言にハッとした。
最近はトレーニングをサボりがちだ。無意識なうちにだらけた自分をさらけ出していた。セクシーショットに余計なものを蓄積した腹が写り込んでいた。ポーズ以前に個体の造型に問題有りか。プロの手にかかってもあるものをないように写すことは難しい。
 
腹の中央に走る一本のライン。そしてその横の三日月ライン。
それらが美しい陰を作る。
腹を敵視しつつ意識を向けた。
デコルテにはない陰影を持ち美しい。なるほど腹は肝だわ。胸よりさらに奥まったところに位置し、多くは覆い隠されて過ごしている。
 
緊張感のかけた私の腹には三日月はいなかった。
さらに密かに観察した。
ポージングの合間のほんの一瞬だけ三日月が現れることがある。シークエンスを意識すればないものもあるように見せることができるかもしれない。きつめに骨盤を前傾させれば腹筋を引き伸し、体幹を回旋させることで腹斜筋をきつめに緊張させればなんとかなるかもしれない。頭で戦略を練った。
冷静に分析する頭の中とは裏腹に、そのスタジオはますます熱気に包まれていった。
 
興奮する女子の声が、楽しい温泉旅行を連想させた。普段は服の下でおとなしく過ごしている秘められた場所が、解放され話題に上がる。まるで温泉の脱衣所にいるように、身につけたものをどんどん脱ぎ捨てていく。そのことを脳が全く拒否しなくなってきた。気兼ねなく脱ぎ捨てていく。普段とは違う格好でおしゃべりに華を咲かす。ファイダー越しに覗く目が男子のものであることを思い出すが、熱気に包まれすぐに気にならなくなる。
 
腕のポーズがクローズドなものは流れるようなラインを作り肢体を綺麗にみせ、オープンなものは躍動感を与えた。見え隠れする陰影の美しさは身体を作りこんだ結果であり、ふとした仕草が感じさせるカッコ良さは水面下での努力の賜物だった。
 
美しさは作り上げるものだ。
だとしたら私だって可能かもしれない。
境界線を超える覚悟をした撮影後は、妙に気分がいい。
ふとした仕草に意識が向く。生活に今まで以上の張りが生まれた。なぜか身体がよく動く。仕事が楽しくなってくる。自然と口角が上がる。四肢の隅々までに意識がむかう。
すっと背筋が伸ばし、華やかでカッコいい女性をイメージして歩いてみた。
腹が反応する。腹の中央にすっとラインが走ったような気がした。
 
あの秘められた空間でのひと時が崇拝する対象物を増した。魅せるデコルテそして秘める腹。私の思う美しさの肝である。
今日の私も凛とした姿勢で立っている。
次に参加した時には、躊躇することなくあのポーズで1枚撮ってもらおう。
 
 
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2017-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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