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メディアグランプリ

「できない」ことに立ち向かうために、私はかくれんぼをしようと思う。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田あゆみ(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
「何でもできる人っているんだね」

クラスメイトがつぶやいた。私は大きくうなずいた。

「何でもできる人」に出会ったのは、高校生の頃のことだった。
同級生だった彼女は、まず勉強ができた。成績は校内トップクラスだった。運動も得意だった。球技大会でも、体育の授業でも大活躍だった。そして絵が上手だった。深みのある色使いで、美しい油絵を描いていた。歌も上手だった。カラオケでは、裏声も綺麗に操る。歌える歌の範囲も幅広かった。手先も器用だった。編み物なんかも得意で、可愛らしい人形を編んだ。さらには、背も高く、すらっとしていた。そして性格も良かった。誰からも好かれるような、まっすぐで嘘のない人だった。

次元が違うとは、こういうことなのだろうと感じていた。この圧倒的な生まれながらの差を前にして、出てくるのは羨望の気持ちだけだった。

高校を卒業し、彼女は、一流の大学に危なげなく合格した。誰もが憧れる場所で、新しい生活を始める彼女が、ただただ羨ましかった。
大学生になった彼女は、武道に挑戦することにしたという。私がそれを知ったのは彼女から届いた手紙によってだった。そして、そこにあった続きの文章に、私は、はっとさせられた。

「今は、まだ型が上手くできないんだよね」

できる人とできない人の差は、ここにあったんだ、と気付かされた。
「できない」ものに触れた時、「今は、まだできない」と言えるかどうかである。
かくれんぼと同じだ。

かくれんぼは、恐らく、子どもの頃、ほとんどの人がしたことのある、メジャーな遊びの一つだろう。ルールは、とてもシンプルだ。
隠れる人と鬼がいて、鬼は、「もういいかい?」と隠れる人に問いかける。
隠れるみんなは、時間が足りなかったら「まーだだよ」と返す。その意味は、今はまだ駄目だけど、もう少し待ってくれたら隠れることができるということだ。
そして隠れ終わってから、「もういいよ」と答える。必ず「もういいよ」が返ってくることを知っているから、鬼はそれまでずっと待ち続ける。
かくれんぼの舞台が、例えば建物が極めて少ない原っぱだったり、狭すぎる家の中だったりした場合、上手に隠れる場所を見つけるのに時間がかかるのは当然だ。見通しが良すぎる場所で、何とか陰を見つけなくてはいけない。何度も同じ押し入れの中に隠れているのではすぐに見つかってしまう。そんな時、より適した隠れ場所を探すために、鬼に何回「もういいかい?」と聞かれても、「まーだだよ」と返し続けた記憶がある人も多いのではないだろうか。

私たちは、目の前の課題や難問に対して「今は、まだだよ! まだできないけど、もう少し時間をくれたらできるようになると思うから、ちょっと待ってね」と何度でも言っていいのだ。かくれんぼと同じように。
「難しすぎる」と、悲観的になるのでも、絶望するのでもなくて。「今は、まだ無理」と、その状態を一旦受け止める。受け止めたうえで、「でもきっと未来の私はできるようになるはず」と、思考する。
「もういいよ」といつか言う自分をイメージできたなら、「これからどんな工夫ができるか」や、「他の人はどんなアプローチをしてきたのか」ということに視点を向けられる。行動できる。努力もできる。そうすることで、少しずつでも「できる」状態に近づいていける。

「何でもできる彼女」は、才能あふれる人である。もとから頭もいいのだと思う。生まれながらの差が全くないとは思わない。だけど、色々なことができる状態に至るためには、やはり工夫をしていたし、努力を積み重ねていた。そしてその姿勢の基盤が「今は、まだできない。でも、いつかは、できるようになる」という考え方にあったのではないか、と思うのだ。

高校生の頃は、大人になったらきっと「できない」ことに苦しめられることはないだろうと思っていた。学校から宿題を出されることはないのだし、生活はだんだんと型にはまったものになっていくだろうと考えていた。
あの頃は「できない」に四方八方を囲まれた生活が息苦しくて、辛くて、早く大人になって、この状態から抜け出したいと思っていた。

現実は、大人になればなるほど、増々できないことが増え続けている状態だ。あれもできない、これもできない。わからない。知らない。

ただ、圧倒的にあの頃と違うのは、「できない」からといって、そこから逃げたいとは思わないようになったことだ。もちろん自分ができないことを、軽々とやってのける人々に劣等感を抱くことはある。未熟な自分に落ち込むこともある。でも、今は「できない」と感じることは、新しい世界を開くための第一歩であることがわかっている。世界は広くて深い。「今は、できない」からこそ「いつか、できた」時、これまで知り得なかった景色を見ることができる。大きな喜びを感じられる。

人生を楽しもうとすればするほど、たぶん死ぬまでずっと、「できない」ことに出会い続けることになる。新しい世界の扉を開ければあけるほど、その先でまた見たこともないような難しい課題が出てくるのが常だ。
課題に出会う度に、かくれんぼをしようと思う。「まーだだよ」と何度でも言おう。きっと「もういいよ」を言うその日まで、課題はちゃんと待っていてくれるはずだから。かくれんぼの鬼みたいに辛抱強く。
 
 
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2017-09-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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