ツーアウト満塁からのサヨナラ逆転ホームランを狙え
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記事:一宮ルミ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「はい、これで終了です。お疲れ様でした」
面接官から、面接終了を告げられた。
「終わった。もうダメだ」
帰りのバスの中で、面接を振り返ってみた。けれど、何一つまともに答えられた質問はなかったと思った。
大学4年の2月、就職の面接試験に落ちた。
6月に地元の役所の試験に落ち、7月には国家公務員の試験に落ち、これが大学在学中に就職する最後のチャンスだった。
若かった。甘かった。
世の中が「就職氷河期」だと騒いでいた。しかし、社会に疎い地方大学の学生だった私は、その意味を全く理解していなかった。
就職氷河期は企業だけのもので、公務員には関係ないと思っていた。でも、それはもろに自分に降りかかってきたのだ。
企業が就職を手控えるということは、その分、就職できない優秀な人が増える。企業の就職からあふれた優秀な学生は、公務員試験に向かった。
その上、官公庁も採用を手控え始め、採用人数が激減した。公務員試験の競争率は一気に上がり、20倍とも30倍とも言われた。
まともに勉強もしていない、脳内お花畑の大学生の私が採用される余地などなかった。
大学に入った時から、公務員になろうと、なんとなく決めていた。同級生の多くが「公務員になりたい」と言っていて、みんながいいって言うなら、それがいいんだろうなと、それ以上深く考えてもいなかった。
その矢先、ある行政機関の1次試験に合格した。なんだ、結構いけるじゃないか、と調子にのっていた。そして、2次試験の面接に向かった。
面接会場に来て気がついた。
「ここって、何をする団体だったっけ?」
調子に乗っていた私は、就職先の仕事内容を調べもせずに面接に臨んだのだ。
その時の自分に会って、殴ってやりたい。
案の定、面接開始30秒、志望動機を聞かれたところで、アウトになった。
「えっと、詳しく存じないのですが、これから勉強していきますので」
とかなんとか答え、ごまかした。
そして面接官はとうとう、こう聞いた。
「ここが、どんな仕事をするところかご存知ですか」
ああ、バレている!! (当たり前だ!)
そうして、「はい、これで終了です。お疲れ様でした」となった。
明らかに面接は打ち切りだった。私は2次試験に落ちた。
そうして何もできないまま、3月を迎え、大学を卒業した。
無職になって、ぶらぶらしていた。次の6月の試験に向けて勉強をしなければならないと思いながら、できないまま日が過ぎていく。これでツーアウト。崖っぷちに陥った。
そして、4月になろうとする頃、転機は訪れた。
普段私のすることに口を出さない父に、叱られたのだ。
それは、幼なじみの同級生が、一足早く、私の希望していたところに就職したという話を、両親にしていた時だった。
私は、就職できず、無職となって、卑屈になっていた。彼女への劣等感と自分の変なプライドのせいで彼女の悪口を言ってしまった。その時だった。
「自分は頑張りもしないで、頑張る人のことをあれこれ言う奴は、最低の人間だ。ワシはそんな奴は嫌いだ。今のお前は、ワシの嫌いなそれだぞ!」
いつも、私を全肯定してくれる父に、生まれて初めて「お前が最低の人間で、嫌い」と言われたことがショックだった。私に怒ったりしない父がそこまで言うのは、よほど私のことが心配だったに違いない。
脳内お花畑の私も、自分の馬鹿さ加減に、目が覚めた。
父の言うとおりだ。
今まで自分は何をしていたのだろう。この就職氷河期の中で、必死で将来を考え、努力している人がいると言うのに、自分は一体何をしているのだろう。努力もせず、フラフラして、せっかく掴んだ就職のチャンスもダメにしてしまった。
次の試験の本番まで、3ヶ月しかなかった。
それでも、やろうと決めた。
今年、試験に通らなかったら、もう受けるのは辞めると決めた。
そのために、バイトもきっぱり辞めた。
休みは週に1度、土曜だけにした。
無職である事のメリットは、時間が腐るほどあると言う事で、ご飯と寝ているとき以外は試験勉強に費やすことにした。
それくらい追い込まないと、もし試験に落ちたら「よくやった。もう十分やった」と納得できないと思った。
私は、自分の決めたルールを守った。
父の言葉が、ずっと耳に残っていた。
「頑張りもしないで、頑張ってる人を悪く言うのは最低の人間だ」
汚名を返上したかった。父にもう一度認めてもらいたかった。
そして、3ヶ月後、第1志望だった役所の1次試験に合格した。
もうあの時の轍は踏まない。2次試験の論文と面接の準備もちゃんとやった。
準備しているうちに、なんとなくだった就職する意味も明確になった。
結果は合格。就職が決まった。
あれから20年が過ぎた。仕事だからしんどいこともある。でも、いい人たちに囲まれて、いろんな仕事を経験し、毎日楽しく働けている
就職試験に落ち、無職になり、野球で言えばツーアウトだった。先に努力した友人に先を越され、点差が開いた。しかし父の厳しい一言で、私のやる気は満塁になった。私はチャンスを逃さずホームランを打てた。
おかげで私の人生は逆転した。
父は何も言わなかったけど、私の努力は伝わっているはずだ。
そして、頑張らないで、頑張る人を笑う人間になることから「サヨナラ」できた。
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