手を胸の前で合わせて、足を引きつけて、思い切り伸ばして。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:桑波田卓(ライティング・ゼミ日曜コース)
「講義を受けたら2000文字の文章を投稿してもらいます」
まずい。えらいところへ来てしまった。
「人生を変えるライティング・ゼミ」第1講に来た僕にいきなり試練が襲いかかった。
小さい頃から作文が苦手だった。
もっと言えばたくさんの文章書くことが苦手であった。
小学校一年生のとき、国語の授業で「ちいちゃんのかげおくり」という本の読書感想文を書くことがあった。
僕は真っ白な原稿用紙の前で固まっていた。原稿用紙と同じく頭の中も真っ白になっていたのだ。
時間が10分、20分と過ぎて行き、休み時間がどんどん迫ってきても僕はあいかわらず原稿用紙とにらめっこをしていた。400字詰め原稿用紙の空白は相変わらず表情を変えない。重苦しい空気が僕と原稿用紙の間に広がっていく。とりあえず1文字、2文字と書き出してはみたけれども、まったく筆は進まなかった。
「『ちいちゃんのかげおくり』という本を読みました。ちいちゃんはせんそうでしんでしまいました。ちいちゃんがかわいそうでした」
結局書けたのはこれだけであった。授業が終わってなんとも言えない惨めな気持ちをかみしめていた。
あの時と同じだった。
夏休み後の水泳のテスト。僕は「5メートルを泳ぐ」という課題を失敗した。
一生懸命手足をばたつかせているのだけども、前に進もう、前に進もうと思うほど前に進まない。そして息が苦しくなって足を着いてしまった。
あれほど頑張って泳いだのに5メートルも進まなかった事実と25メートルプールの向こう岸までの果てしない距離に軽く絶望を感じていた。そしてそれは水泳に対する苦手意識という形で僕の胸に強く刻まれた。
まさにあの時と同じだった。
僕は書こうと思っても全く埋まらない原稿用紙に絶望し、作文も苦手意識を持つようになっていた。
こうして僕の中での苦手ツートップとなった水泳と作文であったが、先に克服したのは水泳の方だった。
「いいか、両手を胸の前で合わせて、両足を身体に引きつけて、両手両足を同時に思い切り伸ばす。これを繰り返すだけだ」
中学生の水泳の授業で初めて平泳ぎのやり方を教わった。
「身体が一直線になったらそのまま力を抜くんだ。そして水に逆らわず自分の身体を預けるんだ」
僕は半信半疑ながらも言われた通りにやってみた。
手を胸の前に合わせて、足を引きつけて、思い切り伸ばして。
そんなに上手くはいかない。やはり全然進まないし、身体も沈んでいく。しかし何回か繰り返しているとそのうち手で水をかき、足で水を蹴る感覚がわかってくる。そして身体を水に委ね、ふわっと浮かぶ感覚もわかってくる。そして全てが上手く噛み合った瞬間にすーっと前に進んでいくのがわかった。
手を胸の前で合わせて、足を引きつけて、思い切り伸ばして。
無心で何度も何度も繰り返して自分が前に進んでいるのを感じつづける。すると無限に感じていた25メートルの海の終点が見えていた。
僕はとても嬉しかった。
無理だと思っていた25メートルを泳ぐことができたからというのはもちろん、今まで25メートルプールの中に閉じ込められていた自分が、初めて自分の力で外の世界に出られた気がしたからだ。この魔法の言葉とともにどんなところにも行ける、そんな気がした。
あれから数十年の時が経った。
仕事でも文章を書くことが多くなっていたが、相変わらず苦手意識は僕のなかに居座っていた。
そんな時に目に入ったのがこの「人生を変えるライティング・ゼミ」というキャッチフレーズだった。
このキャッチフレーズにあのときの魔法の言葉と同じ匂いを感じていたのかもしれない。僕はすぐに申し込みボタンをクリックしていた。
そして文章という海で溺れていた僕が「ライティング・ゼミ」に通い始めて一ヵ月が経った。
手を胸の前で合わせて、足を引きつけて、思い切り伸ばして。
「人生を変えるライティング」で最初に示された文章を書くルールはそれくらいの簡単な決まりごとであった。
もちろん初めは泳ぎと同じようにうまくいかない。でもやはり何度も書いているうちに、自分の感情や頭の中の風景が1文字ずつ文字へと変わっていく感覚がわかってくる。
そしてだんだんと文字が文になり、文が文章になっていく。決して原稿用紙を埋めようと考えるのではなくて、自分の頭の中にあることをひとことひとこと丁寧に文字にしていく。そうしているうちにいつのまにか2000文字を埋めることが出来るようになっていた。
内容はともかく2000文字を書けるようになった。それだけでも僕にとっては大きいことだ。原稿用紙の檻から解放されて、外の世界に出られた。これがたまらなく嬉しかった。どんなところだって行ける、そんな武器を手に入れた気がした。
同じクラスの人の文章を見るとみんな美しいフォームのクロールやバタフライで文章の海を颯爽と泳いでいる。それに比べると僕はまだまだ不恰好な平泳ぎだ。だけども確実に1メートルずつ前進している。そしてその先には未知の大海原が待っている。まだ見ぬ世界を楽しみにしながらこれからも1メートルずつ進んでいくのだ。
手を胸の前で合わせて、足を引きつけて、思い切り伸ばして。
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