メディアグランプリ

食わず嫌いはもったいない!


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記事:久保明日香(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「冬はやっぱり、おしるこドリンク、だね」
そう言われて頷くことができなかった。
なぜ、おしるこを飲み物にしたのか、私には理解ができなかった。
 
「一口いる?」
と聞かれたが
「お腹いっぱいだからいいや」
そう断った。いわゆる、食わず嫌いである。食べ物に関わらず、誰もが“食わず嫌い”な分野を持っていると思う。私もかつてそうだった。
 
 
『遠い昔、遥か彼方の銀河系で……』
これはスターウォーズの冒頭部分である。私がこの冒頭を知ったのは小学校4年生の時だった。金曜ロードショーでスターウォーズ エピソード4が地上波放映された時のことである。母がハリソン・フォードの大ファンで
「一緒に見ようよ!」
と誘われたのがきっかけである。特にすることも無かったので横に座って映画を見ることにした。
 
映画は期待以上だった。最初は宇宙でのピュンピュン、バンバンした、ただのの戦いだろう、くらいにしか思っていなかった。しかし、そこには青年の成長物語や人の内面の善と悪の葛藤など考えさせられるテーマが込められている、迫力のある素晴らしい作品だった。俳優陣もまた、魅力的だった。みんなスタイル抜群で目の色が綺麗で鼻が高くて彫が深い。
 
このスターウォーズ エピソード4には私が海外に憧れを抱く要素が沢山詰まっていた。洋画をもっと見たい! という欲がふつふつと湧き出てきた。それから私は過去のヒット洋画を見るようになった。
 
 
その1年後、私は一目ぼれをすることになる。
 
 
小学校5年生。私は同級生ではなく、ハリウッドスターに恋をした。
その相手はロード オブ ザ リングに出演していたオーランド・ブルームである。CMで弓矢を引くだけのほんの数秒映った彼を見て私は一目ぼれをした。その当時、同級生は日本の歌手やアイドルに夢中だったが私は本屋に行き映画雑誌を買い、会うことが難しいであろうオーランド・ブルームに想いを寄せていた。
 
その後も私は日本人俳優、邦画には目もくれず、ひたすら洋画を見続けた。一目ぼれのオーランド・ブルーム以外にも大好きなハリウッドスターが沢山出てきた。映画館にもよく行くようになった。次第に、「邦画はすぐにテレビで放映される。だから映画館では洋画を見ることに価値がある」、そんな自分ルールができていた。
 
 
しかしその数年後、私は現実の世界で日本人の好きな人ができた。
 
 
その彼とは映画が好きという話で意気投合した。ただ、彼と私には決定的に違ったところがあった。それは彼が邦画も洋画もまんべんなく見るというところだった。
 
 
「今度、映画一緒に見に行かない?」
と彼から誘いが来た時、私は嬉しさのあまり即答でOKの返事をした。だが、その後、私は悩まされることになる。
「容疑者Xの献身、見たいんだけど、どう?」
これは……東野圭吾作品である。ということは言わずもがな、邦画である。“映画館では洋画しか見ない”という自分ルール。邦画はすぐにテレビでも放映するのでどうせ同じ代金を払うのであれば洋画が見たいな、そう思った。
しかし、彼と映画に行けるチャンス、断ったら次は無いかもしれない。悩んだ結果、幸せな未来を信じて自分ルールを撤廃した。
 
 
そして当日、妙な緊張感と共に映画館に入り、席に座った。まずは上映前の予告編。……いつもと何かが違う。そう、予告編に邦画作品が多く紹介されるのである。好きなハリウッドスターを見かけることはほとんどなく、邦画作品のオンパレード。これには驚いた。
友人に「映画が好き」と言っていたにも関わらず、このことを知らなかった自分が少し恥ずかしかった。
 
映画本編はというと……邦画をなめていた。
 
原作を読んだことがあったので犯人、トリックも知っているし……と正直、軽く見ていた。しかし原作の面白い箇所、要点をまとめながら映画オリジナルの部分を要所要所に挟んでおり、一つの作品として綺麗に仕上がっていた。当時、邦画でヒットを出していたのもうなずけた。
 
「どうだった?」
そう彼に聞かれたとき、まず私は彼に謝った。ごめんなさい、邦画をなめていました、と。実は邦画は映画館で見るものじゃないと思っていました、と。
すると彼は笑って、映画は洋画がすべてじゃないこと、日本映画も年々、世界で評価されていることや上映映画館が少なくても心に響くような良い作品は沢山あるのだということを教えてくれた。
 
その後も私は彼とよく映画に行くようになった。また、お勧めの映画を教えてもらって、レンタルショップにも行くようになった。今では邦画、洋画問わず映画館に年間10回程足を運んでいる。私の“映画食わず嫌い”をなおしてくれたのは紛れもなく彼だ。
 
 
そんなことを思い出していると
「どうした? ぼーっとして。おしるこドリンク、ほんとは欲しかった?」
声をかけられた。はっと我にかえる。
 
この状況はもしかしたら……洋画しか見ないと、自分ルールを設定していた過去の私と同じかもしれない。
 
「……やっぱり一口もらう!」
そう言って初めて飲んだおしるこドリンク。
 
悔しい! とても悔しいが、おいしかった。
 
***

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2017-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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