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妻の出産で、お母様が気付かせてくれた、予想外に素敵なこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:古川博之進(ライティング・ゼミ特講)
 
「あと2日ほど滞在を延期させてもらいますね、すみませんね」
 
仕事から帰った折に、お母様から丁寧にそう伝えられた。当初の予定では、翌日の午後には長距離バスで田舎へ帰るはずだったが、どうやら変更して延期になったらしい。新生児の応対に追われていたので大歓迎なことだった。
 
妻の出産予定日が近づくにつれて、二人の母親、つまり、うちのおかんと妻のお母様とはそわそわしはじめていた。産後の身の回りの世話もあるが、やはり出産の時にはどちらかの親が付いていてあげないと心配だと言うのだ。もちろんお申し出はありがたい。私は大阪、妻は長野の出身で、双方ともに遠いと言える。しかし結局のところ大差ないのではなかろうか。二人の実家が首都圏であったとしても、仮に私が有給を取ったとしても、予定日中にぴたりと産まれるなんてあまり耳にはしない。生き物だからそんな割り切って産まれてきてはくれまい。だから、わざわざどちらかの親に来てもらう必要はないと私は思っていた。
そうは言っても絶対に来ないでくれと言うほどの理由もなし。結果、まずは予定日までは、うちのおかんが上京することとなった。そして、産まれてからはお母様が来てくれるという。妻と双方の母親とが相談した結果らしいので、黙って受け止めた。
 
いよいよ予定日が近付き、おかんもお母様もこの計画通りに動いた。妻本人はいろんな意味での陣痛との戦いに明け暮れ、慌ただしいなか無事出産。産まれてからは時間の経過はますます加速した。つまり新生児相手に四苦八苦する私たち二人は、とても炊事や洗濯ができる状態ではなく、妻も私もそこは産後パート担当のお母様に完全に甘えきっていた。
手助けに来ているので、お母様も娘と孫を置いて外に遊びに出るわけにもいかず、たいそう窮屈な時間を過ごされたと思う。本当に助けられていた。「孫の顔見たさでしょ」なんて勘ぐってしまって申し訳ありませんと伝えようかな。そう考えていた矢先に、お母様からこんな言葉を頂いた。
 
「本当にありがとう、娘とこんなに長い時間一緒にいられたのは久しぶりだわ」
 
衝撃が走った。そんな考え方が全く私の中になかったからだ。
先日受けたあるワークショップでも似たようなことが起きた。「靴」をお題に取り組んだ時のこと、私は「革靴」や「スニーカー」等を連想していた。しかし各々で発表する際、「革靴」も「スニーカー」も一向に出てこなかった。代わりに「ハイヒール」「ピンヒール」がやたらと出てきた。ただ単に女性の参加者が多かっただけかもしれない。もちろん私もハイヒールを知らないわけではないが、「靴」と言われて「ハイヒール」を予測することは私には不可能だった。
そして私には、娘と時間を共有できたことに喜びを感じ、それを持てたことにお礼を述べる人の気持ちを予測することはできなかった。
四十を過ぎて実に未熟だった。
 
「孫の顔を拝めたのはもちろん嬉しいのよ。見られるなんて思っていなかったから。でも娘との時間も嬉しい、だって、かれこれ20年ぶりくらいかしら」
 
あまりにも予想していない言葉だったので、本当に理解するまでには少し時間がかかってしまった。おかんもお母様も、とりあえず我が家に来るのは、かわいい孫の顔を見たいため・小さな身体を抱っこしたいがためなのだろうとたかをくくっていたからだ。失礼ながら、「とにかく何かしらの理由をつけては孫に会いに来ようとする、それがじじばばという生き物だ」と思い込んでいた。
 
だから、お母様がおっしゃった意味なんて考えたこともなかった。
確かに妻は進学で上京してからはずっと東京にいて、親元を離れてからはそれなりに時間が経過している。これまでも、行き来がなかったわけではなさそうだが、働いていれば長くとも四、五日程度か。今回のように一週間以上も一緒にいるなんて初めてなのかもしれない。しかも外出もままならないため、お母様と妻と孫(と猫)でずっと家の中で過ごしている。
 
なるほど、こうしてゆっくりと考えてみれば、貴重な時間が持てたのだなと理解できる。
そして、出産前までもう少しだけ時間を遡って、また気付かされた。
 
出産直前は妻は陣痛で入院していた。見舞いには行くものの、それ以外の時間は私もおかんも自宅にいるしかなかった。おかんからすれば、息子と二人きりで(猫もいたが)いた時間だ。進学後はろくに帰省もせず、就職上京後は父が倒れて亡くなるまでは年に一度顔を見せる程度だった。その息子と一緒にいた時間というのはおかんにとって一体どんなものであったのだろうか。産まれた直後の孫の姿を一瞬だけ拝んだら、すぐバトンタッチして大阪へと帰って行ったおかん。来月、大阪の父の墓へ顔見せに行くときに、おかんにちょっと聞いてみようと思う。
 
「こんな“飯炊きおばさん”だけれど」と謙遜していたが、いや事実“飯炊きおばさん”ではあったのだが、大変貴重なことに気付かせてくださいましてありがとうございました。今後とも、孫ともども宜しくお願い申し上げます。
 
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2017-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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