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僕が妻に対して何の期待もしていない本当の理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:上田光俊(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 

「救急車で病院に運ばれたから!」

僕はその時、正直何を言われているのかよく理解できなかった。

会社から着信があったので仕事の電話だと思って出てみると、突然そう告げられたのだ。

誰が?

いつ?

どこで?

一体、何の話し……?

取引先の誰かのことだろうか……?

それは、僕と何か関係があることなのだろうか……?

僕は、この状況を全く理解できないなりにも、考えられるあらゆる可能性を想像しながら自問自答してみた。

しかし、自問自答していたところで一向に埒が明くことはない。

僕はこう尋ねるしかなかった。

「どういうこと?」

 

僕に電話をしてきたのは、営業事務をしている同僚の女性だった。

彼女は僕にこう言ったのだ。

「気分が悪そうだったから、しばらく更衣室で休んでたんだけど、突然倒れてそのまま動けなくなっちゃったみたいで……」

どうやら勤務中に、誰かが会社で倒れたらしい。

それで、救急車を呼んだらしかった。

彼女は僕にその経緯を乱暴に説明すると、最後にこう言ったのだ。

「早く病院に行ってあげて!」

彼女は何故、他の誰でもなく僕に電話をしてきて、すぐに病院に行けと言ったのか?

それは、会社で突然倒れて、救急車で病院に運ばれていったのが、その時僕がお付き合いをしていた女性だったからだ。

僕はその状況をあまりよく飲み込めないまま、急いで仕事を切り上げ病院に向かうことにした。

とにかく、僕はその状況を自分の目で確かめてみるまでは、自分の彼女が本当に突然倒れて病院に運ばれていったのかということの実感がどうしても持てなかったのだ。

 

僕たちは、社内恋愛だった。

付き合いだして一年くらい経っただろうか。

僕たちは付き合いだす前からそうだったように、毎日会社で顔を合わせていた。

その日も、いつもと同じように僕も彼女も元気に出勤していた。

だから、突然倒れて救急車で運ばれていったと急に言われても、すぐにそれが本当のことだとは到底思えなかったのだ。

 

病院には経理部長が一緒に付き添われたようで、僕が病院に着いた時、経理部長は彼女の処置が終わるのを待合室で待機して待っていた。

そこで僕は、経理部長から話しを聞いて、倒れるまでの彼女の様子を知ることができた。

彼女は午後の勤務中に、気分が優れないということで、しばらく更衣室で休んでいたのだが、少し楽になってきたからと勤務に戻ろうと立ち上がった時に、急激なめまいによって、そのまま倒れて動けなくなってしまったらしい。

嘔吐もしていたようだった。

一体、何があったのだろうか?

朝はいつもと何も変わらず普通だったのに。

突然、彼女の身体に何が起こったというのだろうか?

僕は、そこで初めて、今何が起きているのかということを実感を伴って理解することができた。

彼女は本当に会社で倒れたのだ。

 

彼女はメニエール病と診断された。

メニエール病というのは、比較的女性に多い病気らしく、めまいや耳鳴り、難聴という症状が出て、重度の場合は吐き気や動悸が伴うというものらしい。

実際に病院に運ばれた時は、目を開けることすらできない様子で、医者や家族からの問いかけにも曖昧な返事しかできなかったという。

とにかく今は、目を開けることも身体を動かすことにも支障があるようだったので、しばらく入院して安静にしている必要があるということだった。

彼女の処置が一旦終わった後、僕たちにできることは何もなかったので、その日は経理部長と一緒に病院をあとにした。

 

それから彼女は一か月ほど入院した後、仕事復帰するまでの間、自宅療養することになった。

僕は今まで彼女と付き合いだしてからというもの、会社で毎日彼女と顔を合わせていたので、こんなに長い間彼女の顔を見ることができないという経験がなかった。

勿論、入院中は何度もお見舞いに行っていたし、同僚たちと一緒に彼女の自宅まで訪ねていったこともあった。

しかし、今まで当たり前のようにあった彼女という存在が期間限定とはいえ、会社からいなくなってしまうと、僕は何とも言えない空虚感に包まれることになった。

その後、彼女は数か月で会社に仕事復帰することができて、僕たちには今までと同じように毎日顔を合わせることができるという日常が戻ってきた。

それは彼女と結婚した今でも変わりはない。

 

世の中には、遠距離恋愛をしていたり、お互いの仕事が忙しいという事情でなかなか会うことができないという人たちがたくさんいる。

そういう人たちに比べると、僕たちはとても恵まれている環境だったのだろうと思う。

事実、何か特別な予定を入れなくても、毎日会社でお互いの顔を見ることができていたのだし、結婚して一緒に生活するようになってからはなおさらだった。

でも、だからこそ僕は彼女と顔を合わせることができなくなってしまったあの数か月のことを忘れることができない。

彼女という存在が僕の近くにいてくれるということが、どれほど僕の心を落ち着かせ、満たしてくれていたのかということを、その時に嫌という程実感したからだ。

 

僕たちは結婚してからすでに10年以上経つが、ごくごく小さなケンカにもならないようなやり取りは日々あるものの、夫婦関係に支障をきたすような大きな問題に直面したことは一度もない。

今後のことはわからないが、これからも僕たちは今までがそうであったように、ずっと一緒にいることになるだろうとは思っている。

何の根拠もないかもしれないが。

 

最近では、そういう僕たちの様子を知ったからなのか、パートナーシップについてや、夫婦円満の秘訣について聞かれることが多くなった。

そこで僕は、そう質問してきた人たちに、いつもこう答えることにしている。

 

「僕は妻に対して何の期待もしていません」と。

 

それは、僕が妻に対して何の期待もせず、失望してしまっているということではない。

むしろ逆で、ここまでしてくれているのだから、もうこれ以上妻に望むものは何もないという意味である。

僕にとっては、妻という存在が僕の近くにいてくれるということこそが、僕が妻に望んでいるそれそのものだからだ。

 

僕の妻は凄いのですよ。

そこにいてくれるだけでいいのに、日々ご飯を作ってくれたり、洗濯をしてくれたり、子供たちの世話までしてくれているのですから。

掃除や片付けは苦手みたいですけど、僕がやるので何の問題もありません。

そもそも妻には何の期待もしていませんから。

そこにいてくれるということだけでもう充分なのに、常日頃から僕の期待を超えるパフォーマンスをずっと見せてくれているわけですから。

ただ、そう思っているのは僕の方だけで、妻はそうではないようですけど。

 
 
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2017-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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