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演劇版「殺し屋のマーケティング」の衝撃 ―席が舞台の中にあるなんて聞いてなかったー   


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記事:松尾英理子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「殺し屋のマーケティング」の公演会場に入ってすぐ、案内の女性の言葉に愕然とした。
「S席ですね。舞台に半円状に並べられた座席のいずれかに座ってください。
黒いカードの置かれた席には座らないでくださいね。上演中に役者が座りますので」
そんな……。舞台の中の席に座るってこと? 
私は恐る恐る、役者が座るという黒いカードの置かれた席の隣を避けて座った。
この時点で、私はS席を購入してしまったことにとても後悔した。
A席がいわゆる普通の座席であり、かつ十分舞台に近い。A席のほうがよかったと思える。「チケット買う時に教えてよ」と心の中でぶつくさとつぶやく。
舞台の前ではなく、舞台の中なのだから、居眠りもできない。咳き込むことだってできない。
一人で、しかも休日に舞台を見に行くのは初めてだった。滅多にない機会だと思ったから、せっかくなのであればと思い、迷わずS席を買ったのだ。それがこんな目にあうなんて。
劇中で登場人物の一人になる、みたいな設定だったらどうしよう。
どうしようもない不安に駆られて開演を待つ。
開演まで5分。会場がほぼ埋まる。S席に座る半分の人が何事もなく座り、
半分は私と同じように動揺しながら座る。
 
不安に駆られるのはもうひとつ理由があった。私は原作を読まずに舞台を観に来たからだ。今まで見てきた舞台のほとんどは、開演前に、これからどんな物語が繰り広げられるか、ある程度予想できていた。でも、今回は何が起きるかまったく想像つかない。
それなのに、舞台の中に座らされてしまったのである。これは恐怖である。
 
そして、主人公の二人が私の前に立ち、舞台は始まった。
始まってみれば、私が抱いた不安は取り越し苦労だった。居眠りや咳払いの心配も同様。
ものすごいスピード感で物語は進み、感覚的には「あっという間に」終わった。
衝撃的なタイトルの意味は、そういうことだったのね、という見事な腹落ち感。
私の中の「先入観」が次々と打ち砕かれるストーリー展開。
スピード感のあるストーリーの中に、絶妙なタイミングで入る心地よいジャズの生演奏。
まさかジャズが聴けると思わなかった。こんな風に、次々と「先入観」が覆される。
そもそも、座席が舞台の中にあること自体が私の「先入観」からありえないことだった。
緊張感と心地よさが交互に折り重なる、物語に入り込んでしまったような不思議な感覚のまま、劇場を出た。
 
「先入観」といえば……。
思えば私の人生、前半戦は「先入観」にとらわれ生きてきた。
名の通った高校、大学、大企業に入る。適齢期で結婚する。結婚したのだから子供を産む。
30代までは、世の中の大勢が持つ「先入観」や「固定概念」に対応しようと必死だった。人生にはレールがあり、できる限り外れてはいけないと思っていたのかもしれない。
なにより、そのレールから外れることで、他人はもちろん両親にとやかく言われるのが面倒くさいから、という気持ちもあったのだと思う。
でも、このレール、キリがないのである。40代に入ってやっとそのことに気付いた。
大企業に入って何年もしたら「管理職になってこそ仕事の醍醐味がわかる」と言われる。
課長になったら「部長でないと勝ち組とはいえない」と言われる。
結婚して2年以上たつと「なんで子供を産まないの?」と言われる。
子供を産んだら「一人っ子はかわいそう。2人、3人産むべきでしょう」と言われる。
パートナーとの不仲に悩んだら「もう少し話しなきゃ。子供がかわいそうよ」と言われる。
人生が進むにつれ、レールと思っていたものから脱落することが多くなってきた。
思った通りになんて物事すべて進まない。というか、進まないことのほうが断然多い。
そもそも、他人が「こうあるべき」と思っていることや言っていることは、私が本来望んでいたことだったのだろうか? そうじゃない。秋の定期異動で、そのことに気付いた。
人生の折り返し地点で気付くなんて遅かったけど、これからは、人の作ったレールではなく、自分で道を作っていくことを心に決めたところだった。
 
そんな時に目に飛び込んできた「人生を変えるライティング・ゼミ」
嘘くさいタイトルだな、と最初は思った。でも同時に、今の私に響く言葉だった。
淡い期待にかけてみることにした。
前半戦、1回のみ天狼院webにアップしてもらえたが、あとは全滅。今のところ、人生を変えられる兆しはまだない。
でも、演劇版「殺し屋のマーケティング」同様、この講座が終わる頃には、いい意味での「先入観」が裏切られ、切り開く道のスタートが見えていたい。
「レールの上を歩く人ではなく、道を切り開く人になる」と心に決めたのだから。
 
ここまで書きながら、昨日の舞台の役者たちの鮮明な表情が、私の脳裏に時折現れる。
全員がとてつもなく輝いていた。本から飛び出してきたかと思えるように。
全員が物語の主役、そして自分の人生の道を切り開いて歩く主役だからなのだろう。
「殺し屋のマーケティング」の原作を読むのがものすごく楽しみになってきた。
なんだろう、この久しぶりのワクワク感は。
人生後半戦。いいスタートを切れるかもしれない。
 
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2017-12-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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