移住フェアは動物園ではなかった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:守本陽一(ライティング・ゼミ平日コース )
「ぜひうちの町への移住を考えてみてください!」
若手の自治体職員が威勢良く声を張り上げる。
都内某所での移住フェアには、移住者を心待ちにする全国各地の地方自治体と、移住を考える多くの人々でごった返していた。
地方自治体の各ブースには、のぼりやステッカーはもちろん、空き家情報や補助金情報など、あらゆる武器を使って、移住者を確保しようと必死そうなのが、自治体職員のビジネス笑顔から伝わってくる。
ちなみに僕は、地元の町もブースを出していることを知り、ふらっと立ち寄っただけ。移住を考えているわけではないので、いわゆる「冷やかし参加」というやつだろう。自治体職員にとってもいい迷惑だ。
そんな僕でも、30分もブースを回っていれば、気がつくと両手に、自治体のパンフレットを抱えるような状況になっていた。
人混みも嫌になってきたので、近くのベンチに座り、パンフレットに目を通し始めた。
「夢のローカルライフを楽しもう!」
「田舎暮らし始めませんか?」
「豊かな水と緑の中で理想の生活!」
どうやらどこも似たようなうたい文句のようだ。気になって、内容を見てみても、空き家情報や補助金情報も似たりよったり。違うのは、ステッカーのデザインくらいかもしれない。
(結局、地方の魅力なんてどこも似たりよったりなのかな……)
と少し寂しい気持ちになった。
子供の頃、動物園に行くのが好きだった。動物園には、様々な動物がいる。キリン、ゾウ、ライオン、チンパンジー、コアラ、パンダ。どれも違う動物だから楽しい。ずっと動物園にいても飽きないのは、動物ごとに魅力が違うからだった。
動物園にいる動物がもしパンダだけならどうなるだろう。
たしかにパンダは愛くるしくて魅力的。
どれだけ魅力的だとしても、何十頭とパンダがいたら、たぶんすぐに飽きるはず。
動物園の1頭しかいないパンダに人は集まるけど、中国の竹林に何十頭といるパンダには人が集まらないってこと。
移住フェアは、動物園じゃなくて、中国の竹林状態だから面白くないんだ。
どこも似たりよったり。これでは面白いわけがない。
うちの街はアートが得意! うちはITが得意! うちの街は医療が得意!
パンダだけじゃなくて、キリンもライオンもゾウもいる。
そんな移住フェアなら絶対面白い。
でも、そんな簡単にパンダがキリンやライオンに変われるはずはない。すべての自治体が、地域の特長の最大化なんて、できていたら、今頃、移住なんていらないくらい人が集まってきていたに違いない。一部の例外的な自治体はキリンやライオンになれても、ほとんどの自治体はパンダはパンダのままなんだ。
(パンダはパンダのままでいるしかないのか……)
と、また少し悲しい気持ちになった。
ベンチの前ではまだ自治体職員が「ぜひうちの街への移住を考えてみてください」と叫び続けている。
ふと、思った。動物園のパンダと比べて、中国の竹林のパンダは幸せじゃないのか。そんなことはない。竹林のパンダでも笹を食べ、ごろごろしながら、日々を楽しんでいるに違いない。ただ1つ違うのは、人が集まっているかどうかだけだ。
地域創生の本来の目的は、地域の元気を取り戻すことだと僕は思っている。
移住は目的じゃない。元気を取り戻すための手段だ。
中国の竹林のパンダも自分の人生を楽しく過ごしている。
たとえ魅力が同じパンダだとしても、まず自分の人生を楽しむことが大切じゃないかなと思った。
同じような地方自治体が魅力を差別化することは難しい。でもそこに住む人々がそこに住んでいることを楽しむことはできる。
そうすればきっと人も集まるんじゃないかな。
目の前の自治体職員はまだ叫んでいる。
「ぜひうちの街への移住を考えてみてください!」
彼はきっと、自分の街が好きなんだろう。
そう思うと少し温かい気持ちになった。
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