誰もいない平日の都心に、私一人
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記事:緒莉香(ライティング・ゼミ 通信専用コース)
「だーれも、いない……」
平日の朝9時半。
都心部の野外の広い場所に、私一人きり。
遠くには、ミニカーのような小さい走っている車が沢山確認できる。
あちらには沢山人がいるんだろうなぁ。
おーい、と叫んでも、誰も気づいてくれないんだろなぁ、とぼんやりと考える。
ほんの5分前、駅からは沢山の人が出てきたというのに。
こちらの方面には誰も来ないものなのか。
寂しいような、貸し切り状態で嬉しいような、変な気持ちで私は歩きだす。
『夢の大橋』
私はここを歩いていた。
東京都江東区の青海と有明を結ぶ、歩行者・自転車専用の橋だ。
最大幅60メートルもあり、日本一幅の広い橋とのこと。
確かに広い。広すぎる。
数人で一列に並んで歩いていても、迷惑にはならないだろうし、
鼻歌とか独り言とか聞こえないだろう。
誰もいないことを、いいことに橋の写真を撮ってみて、独り喜んでみた。
それにしても、本当に誰もいない……。
犬の散歩の人とか、ジョギングしている人とか、サイクリングしている人とか、散歩している人とか、一人くらい通っていてもいいじゃないか!
とずっと思うくらい、人がいない。
挙動不審者のように周りをきょろきょろ見回す。
なぜ私がこんな所にいるのかというと、10時から始まる展示会に参加するためだ。
展示会というと東京ビッグサイトを思い浮かべるが、今回は1社単独だからか『日本科学未来館』でおこなわれるという。
いろいろと最新技術の展示会だ。
あまり考えずに、いつもより少し遅めに家をでたが、大分早くに近くまで着いてしまった。
40分くらい早かった。
私の家の方角からだと、りんかい線の『国際展示場』駅から、ゆりかもめに乗り換えなくてはならない。
そのまま、ゆりかもめに乗るとすぐ着くので30分くらい時間が余ってしまう。
初めての所なので駅前に何があるかわからないし、席が空いているかもわからない。
どうしたものか……。
駅にある近場の案内地図を見て、なんだか歩いて行けそうに思えた。
念のため、駅員さんに歩いて行けるか聞いてみた。
「日本科学未来館まで、歩いて行こうと思うのですが、何分くらいかかりますか?」
駅員さんは、少し驚いたように、こう答えた。
「歩けますが、40分くらいかかりますよ」
「時間はあるので大丈夫です」
というと、丁寧に行き方を教えてくれた。
とにかく、ビルとビルの間をまっすぐ進むと、橋がでてくる。
その橋を渡ってゆりかもめの線路近くで左に曲がる。
まっすぐまっすぐで、迷子にはならないようだ。
私はお礼を言って歩き出した。
最初は駅から、わらわらと人が出てきたが、それぞれ職場なりいろいろな所に散っていった。
そして、気づいたら周りには誰もいなくなっていた。
道路が近くにないので、外にいるのに本当に静かだ。
昔、こんなに人がいないのを体験したことがある。
いつだったか……。
都心ではなく、家の周りでだ。
あの震災があった時だ。
震災後、数日間電車が動かなくて会社に行けないときがあった。
ずっとTVでは、震災についての報道ばかりで、見ると苦しくなっていた。
少し外の空気でもすってこようと、当時3歳の息子と一緒に近所を歩いた。
静かだった。
平日は仕事をしているので、この時間に家の周りを歩いたことは、ほとんどないのだが、歩いている人もいない。時々車が通るくらいだった。
いつ余震があるかわからないので、あまり長い時間は怖くて歩けなかったが、ふたり手を繋いで歩いた。
まだあまり状況をわからない年齢の息子は散歩が嬉しかったみたいで、ずっとニコニコしていた。
周りを見ると、ブロック塀が崩れていたり、道路に亀裂が入っていたりと、地震の爪痕がいろいろと見つかった。
それなのに、何もなかったかのように、とても静かだった。
静かだと、心のなかに様々なことが浮かんでは消えていく。
その時も、よく無事に家まで帰ってこられたな、とか、息子との時間を大切にしようとか、いろいろと考えたと思う。
『夢の大橋』を黙々と渡りながら、そんなことを思い出していた。
そうこうしているうちに、遠くの方から豆粒くらいの人影が見えた。
いた! 人がいた!
なんだか、ほっとした。
見ず知らずのスーツを着たおじさん。
私と同じように、何やら写真を撮っていた。
心のなかで、勝手に『同志』に認定した。
ありがとう! 見ず知らずの人。
その後は、ちらほらと人が増えてきた。
日本人より外国人の方が多かった。
中国からの観光客ご一行様な団体が、実物大のガンダム(ユニコーンガンダム)を写真を撮っているのが印象的だった。
40分と言われたところを30分で到着した。
いろいろといい経験をしたと思いながら日本科学未来館へ入っていくと、なんと大勢の人が並んでいることか!
あぁ、やはりここは東京。都心部だ。
大勢の人がここにいた。
こうでなくっちゃ、と言う思いと、こんなに人が多いと疲れるという思いが交錯した。
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